日産の「ハイブリッド“4WD”」何がスゴイ? 「GT-R」の“アテーサ”引き継ぐ「e-POWER 4WD」って何? 「ノート」にも搭載の“走って楽しい四駆”とは
日産の「e-POWER(イーパワー)」には、前後2モーター式4WDが設定されていますが、その性能はどのようなものなのでしょうか。工藤貴宏氏がレポートします。
日産の「e-POWER(イーパワー)4WD」何がスゴイ?
エンジンで発電した電気を使ってモーターをまわして駆動力とするハイブリッドを「シリーズハイブリッド」と呼び、日産の「e-POWER(イーパワー)」はすべてその方式を採用いています。
現時点でe-POWERを搭載するもっともコンパクトなモデルは「ノート」と「ノートオーラ」で、FFを基本としますが、リアにもモーターを追加してデュアルモーター化した4WDモデルも用意しています(コンパクトSUV「キックス」も同様)。

ちなみにノートは先代モデルにもe-POWERの4WDがありましたが、システムとしては現行モデルとは全くのベツモノ。
先代の後輪用モーターは3.5kW(4.8ps/15Nm)で、50kW(68ps/100Nm)ある現行世代にくらべてかなり小さいもの。しかも時速30km/hに達すると駆動力がカットされるという、あくまでも滑りやすい路面の発進をアシストする働きに過ぎませんでした。
しかし現行ノート4WDシリーズのリアモーターは、高い速度域まで駆動力を生み出すタイプへ強化。発進から通常走行、さらには後述するようにコーナリングにまで効果を生む4WDへと進化しています。
というわけで先日、ノートの4WDモデルに雪道で乗ってきたのですが、その印象を率直にいえば「e-POWERの4WD侮れんわ!」。なにがいいかって、とにかくよく走る。
スタートはしっかりとトラクションを発揮し、スムーズにグイグイ加速するのは当然として、下がアイスバーンとなって驚異的に滑りやすい雪道とは思えない加速Gが立ち上がって車速がどんどん上がっていくのが凄い。
加えてアクセルを踏み込んでの発進でもハンドルが全く暴れないスムーズさが感動的。滑りやすい路面だということを忘れてしまいそうになるくらいです。
試しにスタビリティコントロールをオフにして同じように急発進を試してみると、タイヤが空転するだけでなくハンドルが右に左に取られてその修正を迫られる状況に。それが4WDであっても今までの常識だったのですが、e-POWER(や多くのモーター駆動での)4WDはそうならないのだから感動します。
この高い駆動力とスムーズさと加速は、10000万分の1秒という緻密さでおこなうモーター駆動車ならではの駆動力制御(スリップ検知→トルクを絞ってグリップ回復の繰り返し)の賜物。
モーター駆動だからこそできる“神業”で、普通のエンジン車はもちろん、上手なドライバーでもこれは真似できません。発進と加速に関しては、前後トルク配分コントロールも含めたこの緻密な制御が昨今のe-POWER 4WDの一般的な4WDに対するアドバンテージなのです。
しかも、凄いのは加速だけじゃない。加速と同様にアクセルを離して回生ブレーキを効かせる際の減速もスリップを超綿密にコントロールするから、タイヤがロックして挙動が乱れるのを恐れることなく滑りやすい路面とは思えない高い減速Gを出せます。
ドライバーがタイヤロックを防ぎつつブレーキをコントロールするよりも高い減速Gを出せるといえば、多くの人は驚くのではないでしょうか。
アクセルを離すだけで減速でき、もちろんスピンなどの心配もありません。
ところで、いま、日産の電動4WDシリーズには大きなくくりとして2つのタイプがあります。ひとつはノート系のように“普通のタイプ”。もうひとつは電気自動車の「アリア」をはじめハイブリッドの「エクストレイル」「セレナ」などに採用されている“e-4ORCE(イーフォース)”と呼ばれるタイプ。
どちらも前後にモーターを配したデュアルモーター式で、前後駆動配分といったドライブトレインに加えてブレーキ制御などシャシー系も制御するという基本的な仕掛けは共通だし、目指す方向に違いはありません。どちらもコーナリング(ハンドリング)までコントールする4WDです。
ただ、上位版かつ世代が新しい進化版と言えるe-4ORCEは、モーターとブレーキをひとつのコンピューターで統合コントロールするのがポイント。ひとつの頭脳がまとめて担うことにより処理スピードが約1.5倍と早まっている、つまりより綿密な制御ができるようになっているというわけです。
となれば気になるのは「違いがあるの?」というところですが、結論からいえば雪道を走っているときにはあまり違いは感じられません。アリアに乗ろうがエクストレイルに乗ろうが、ノートに乗ろうが思い通りに加速し、思い通りに曲がる感覚は共通。「どっちもいい」と断言できます。
ただ、極限状態といえる氷の上では“比べるとやっぱり違う”という印象。氷の上だとかなり速度を落としてもタイヤがグリップを失いやすく、ちょっと気を抜くとアンダーステア(クルマが思い通りに曲がらず道の外側へ膨らむ)が顔を出しがちです。
ノート系でもブレーキを使ってハンドリングをコントロールする(ハンドルを切った方向に曲がりやすく制御する)ので、一般的な4WDに比べるとノーズがしっかりと曲がりたい方向へ向く感覚があるのですが、e-4ORCEモデルになるとその感覚がさらに強まる印象なのです。
その秘密は、ハンドル操作からドライバーが曲がろうとしていることをクルマが察知して、瞬時かつ積極的に駆動配分やブレーキ(内側前輪にドライバーが感じないほどわずかなブレーキをかけて曲がりやすくする)を制御し、クルマを曲がりやすい状態にするから。
それなりに重量があるエクストレイルだけでなく、約2トンと重量級のアリアだってツルツルの氷の上でハンドル操作に応じてスーッとノーズをインへ向けていく様子は身震いするほど感動的。それを知ると「すごいぞe-4ORCE」という気持ちになります。
ところで筆者(工藤貴宏)は今回、日産ノートの新しい仕様に氷の上で試乗してメチャメチャ衝撃を受けました。それは「ノートオーラNISMO e-POWER 4WD」のダイナミックな走り。同車はe-4ORCEではありませんが、パワートレインはノートe-POWERをベースにリアモーターの性能を82ps/150Nm(プラス14ps/50Nm)までアップした熱い走りのモデルです。
後輪モーターのパワーアップは加速力の強化という意味合いもありますが、最大の狙いはハンドリング。4WDの場合、同じ駆動力を伝えるなら後輪の駆動力配分が大きいほうが前輪の負担が減ってより曲がりやすくなるという特徴があります。
つまり、リアの駆動力に余裕があるほうが優れたハンドリングを実現しやすく、ノートオーラNISMO e-POWER 4WDはそれを具現化したといっていいでしょう。
実際に人が歩くのもままならないほどツルツルの氷上コースを走ってみると、その優れたハンドリングを実感できるのですが、圧巻なのはドライバーがアグレッシブにクルマの姿勢を作って曲がったとき。
ターンインでスッと向きを変えた後にアクセルを踏み込んでドリフトに持ち込めば、そのままダイナミックなドリフトのままコーナーを駆けぬけられるのです。
まるでかつての三菱「ランサーエボリューション」やスバル「インプレッサWRX STI」のように攻めた走りを、FFベースの4WDでやれるのだから驚くと同時に、思わずテンションも上がるってもの。
ノートオーラNISMO e-POWER 4WDはその領域までしっかりハンドリングを鍛えてあることがわかると同時に、前後2モーター式4WDの可能性の高さを実感させられました。
曲がるのが楽しい4WD。アクセル操作次第でクルマをダイナミックにコントロールできる4WD。世界レベルで見ても、その指標を作り出した4WDシステムのひとつが1989年に日産がR32型「スカイラインGT-R」に初搭載した「アテーサE-TS」にあることは間違いありません。
曲がるのが楽しく、ドライバーのテクニック次第ではダイナミックにドリフトしながら走れるノートオーラNISMO e-POWER 4WDには、アテーサE-TSから続く日産の「走りが楽しい4WD」のDNAが脈々と受け継がれていることを感じました。
Writer: 工藤貴宏
1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに寄稿している。執筆で心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はマツダ CX-60/ホンダ S660。
さすが・・技術の日産すっごいね~ぇ!◎