三菱の「4WD」何がスゴイ? “スーパーセレクト4WD”に「AYC」? 他メーカーとは違う「三菱の取り組み」とは

乗用車系の”走行性能”4WDとは

 もうひとつの流れ、乗用車系を見てみましょう。例えば6代目「ギャランVR-4」はビスカス付きセンターデフ4WDを採用し、運動性能を高めるために乗用車に4WDを搭載した先駆者といえます。

 同時に4WS(リアステア機構)も各国メーカーに先駆けて市販車として採用しました。こういった技術は実際にWRCで何度もトライして、技術的かつ実践の裏付けのもとに搭載されているのです。

6代目の「ギャランVR-4」のラリーカー
6代目の「ギャランVR-4」のラリーカー

 澤瀬氏は、「三菱は市販車の技術開発チームとモータースポーツの開発チームがタッグを組み、常にディスカッションをしながら、もっとクルマを良くするためにはどうしたらいいかをずっとやってきたのです。その乗用車系の走りがこのVR-4に繋がっています」とのことでした。

 もう1台紹介したいのはWRCで活躍したランサーエボリューションVIです。オートモビルカウンシルにはトミ・マキネンが実際に走らせたクルマが展示されました。

 澤瀬さんはこのクルマをもとに、次のように話します。

「乗用車系の4WDシステムの進化としては、走破性も直進安定性も大事ですが、何よりWRCの世界では曲がりくねったいろんなコースを走りますので、操縦性がすごく大事です。

 そこでVR-4で採用したビスカスカップリング付きセンターデフ四駆という、メカニカルな4WDシステムから電子制御をいち早く取り入れ、このクルマではトリプルアクティブデフというフロントデフもセンターデフもリアデフも電子制御する技術を投入しました」といいます。

 その目的は「走破性、安定性、旋回性能をうまく両立することでした」。そのコンセプトを市販車ベースに落とし込んで開発したのが、アクティブヨーコントロール(AYC)になるのです。

 これは左右輪の駆動力や制動力制御により、車両の旋回性能を向上させるもの。つまりいかにコーナーを的確に、ドライバーの思い通りに曲がるかを狙ったシステムです。

 こういったシステムについて澤瀬氏は、「レースのように一発速ければいいのであれば、すごくピーキーで速いセッティングも可能ですが、ラリーの場合は何日もかけて長い距離を走るのでドライバーの疲労も蓄積されてしまいます。

 その中でいかにドライバーのイメージ通りに走ることができるかが速さにつながりますし何より安全です。ですから三菱はこの世界(ラリー)をずっとやってきたのです。そうして四駆の技術、四輪制御といったAWC(オールホイールコントロール)の技術を磨いてきたのです」と話してくれました。

歴史を積み重ねてきた「三菱の4WD」

 こういった歴史の積み重ねが三菱の4WDの強みなのです。澤瀬氏は、「モータースポーツの経験値で四駆の物理特性、メカニズムがどういう物理法則で四輪の駆動力配分を行っているかをしっかり理解しているのが強みでしょう。

 それができないと、前後独立論(四輪それぞれにモーターを置くEVなど)になった時に、機械がやってくれていたことを、制御で作り込まなければいけなくなるので、機械がやっている物理メカニズムを理論として理解できていないと、あるいはそれが経験値としてその効果が何だということが裏付けられていないと、制御を作ろうと思っても出来ないのです」とコメントしました。

 これまでの技術と知見の蓄積が未来にもつながっているというわけです。

 最後に三菱が目指す理想の四駆とはどういうものでしょう。澤瀬さんは、「四輪全部を独立に緻密にコントロールできるようになること」といいます。

 そうなると、「四輪が常に最適な路面とタイヤの間のスリップ比を保つことができるので、多分素人でもドリフトできるんです。もちろんドリフトしたいわけではなく、ドリフトしても怖くない。つまり四輪が滑っているのに意のままに行きたい方向に行けるという技術ができるはずなんです」。これも安全に繋がる技術です。人間はエラーをする生き物です。そのエラーが起きた時にどう対処できるか。

 ドライビングスキルが高くない人でも安全快適にドライブできる。その上で、より楽しくなるとすればこんなに喜ばしいことはないでしょう。きっとこれは電動車になったとしても変わりません。

「電動で四輪独立制御になったら何の制約もなく自由自在にタイヤをコントロールできる良さがあります」と澤瀬氏。

 しかし先に述べていたように、いままで機械がやっていたことを電子制御にするためには、プログラミングしなければなりません。つまり、機械がやっていた良いことと悪いことを、物理の現象として何が起きていたのか。それを理論として把握していないと作り上げられないのです。

 ですからフィーリングも含めた過去の蓄積とその技術の検証が必要になり、それは一朝一夕にはできないものなのです。そのうえで澤瀬さんは、「エンジニアが優秀であれば電動車の方が究極、理想の4WDができると信じています」と語っていました。

 電動車、いわゆるEVになるとどんどん白物家電化していくという見方があります。その一方で制御技術がより精緻になることで、これまでできなかった理想形も実現できてくるのです。

 そのためにはこれまで機械で実現してきた理論を明確に把握し、かつ、それをフィーリングでも解析して来た蓄積が必要となります。それが三菱の強みになるのです。BEVになったとしても、三菱車はファンを虜にさせる走りが体現されていることでしょう。

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2件のコメント

  1. 三菱を一生懸命褒めるのは結構なのですが、昨年買い替えたばかりの公用車のデリカを運転した限りでは、2.5リットルのディーゼルエンジンを積んでいるにもかかわらず、走らん、燃費は悪い、4WDも洗練されているとはとても思えないできでした。三菱、以前のパジェロの方がまだましだったように感じます。

  2. 記事が遅いね
    3年前に澤瀬さんに取材しとかなきゃ
    ニュースとは言えないだろうて

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