「プリメーラの正常進化」に「スカイラインクロスオーバー」再来!? 日産「最新BEV」が中国で快進撃! “魂”と“味”が込められた「N7」と「NX8」 試乗で見えた“走りの質”とは
日産の経営再建を支える中国市場。そこで快進撃を見せる新型セダン「N7」とSUV「NX8」の実力に迫ります。かつての名車を彷彿とさせる“日産らしい走り”の復活と、日本とは異なる独自の開発舞台裏を、自動車ジャーナリストの山本シンヤ氏がレポートします。
日本未発売の「N7」「NX8」に宿る“日産魂”
経営再建計画「Re:Nissan」を実行中の日産自動車。その状況はまだまだ予断を許さない状況ですが、第3四半期の決算を見ていくと、その効果が少しずつ表れはじめています。その中でも安心材料の1つは、着実に“クルマ”が売れていることでしょう。
それをけん引するのが中国向けの商品たちです。ちなみに第3四半期のグローバル販売台数は前年同月比マイナス2.9%(77.8万台)ですが、中国向けはプラス12.7%とアップしています。
その要因は2025年4月発売の「N7」のヒットで、何と6か月で累計台数4万台を記録しています。
これまで日産はBEVの先駆者でありながらも、世界で最もホットな中国市場で大苦戦を強いられてきました。日産的には自信作だった「アリア」を投入するも全く振るわず。そんな中、N7の投入でその潮目が大きく変わったのは、なぜなのでしょうか。
その理由を探りに、筆者(山本シンヤ)は中国に向かいました。

N7は日産自動車中国と東風汽車が2003年に設立した「東風日産」が、ゼロから開発したモデルです。
戦略的な価格が注目されていますが、それが故に筆者(山本シンヤ)は「中国のユーザー向けに良くも悪くも割り切ったモデル」だと想像していました。
しかし、実際に見て、触って、乗ると良い意味で裏切られました。恐れずに言ってしまうと、日産の“魂”はここ最近登場したどの日産車よりも“濃い”と感じます。具体的に説明していきましょう。
ボディサイズは全長4930mm×全幅1895mm×全高1487mm。日産車で言うと「アルティマ」よりも一回り大きいサイズになりますが、先進的かつスポーティで「セダン、カッコいいじゃない」と思えるエクステリアデザインです。
個人的にはフロントタイヤとAピラーの位置関係がもう少し適正化されると、より踏ん張りがある堂々としたフォルムに見えるかな…と。
インテリアは物理スイッチがほぼないシンプル&クリーンなデザインで、大画面インフォテイメント(クアルコム製)、カラオケ、冷蔵庫、AIで姿勢を整える&マッサージ付シート、高度運転支援(モメンタ製)など、中国のユーザーが求める装備の充実ぶりに驚きます。
ちなみにリアシートは2915mmのホイールベースを活かし足元スペースはショーファーカーとしても使えるくらいの広さです。
筆者が驚いたのは“走り”でした。ただ、中国は日本の免許証で公道を走れないので、広州・花都(マカオに近い)にある東風日産の開発拠点内のテストコース(舗装路面)と、黒河(ロシアの国境近く)にある東風日産の寒冷地用テストコース(ぶ厚い氷で覆われたダム湖を活用)で試乗しました。
フロントに搭載される200kWの駆動用モーターはパワフルだけど自然な加速で、静か&精緻な制御により質の高さを感じたほど(73kWhのバッテリー搭載で航続距離は625kmと十分以上)。この辺りのフィーリングは3代目に進化した「リーフ」とソックリ。
フットワークは滑らかなのに芯があるステアフィール(ラック式EPS採用)とFF駆動ながらもノーズがスッとインを向く意のままの操縦安定性と裏切る気配のないスタビリティのバランス(前後バランスがとてもいい)は、FFスポーツセダンと呼んでもいいレベル。
低ミュー路でのコントロール性も抜群で、アクセル/ブレーキで姿勢のコントロールが可能な懐の深さとインフォメーションの豊かさにビックリ。「『プリメーラ』が正常進化していたら、こんな感じだったのかな」と思わされます。
一方、凹凸の厳しい路面を走らせると、「君は可変ダンパー?」と勘違いしてしまうレベル。入力を乗員に伝えないアタリの優しさとシットリと動く足の動き、吸収性の良さから来る乗り心地の良さは、ラグジュアリーセダンと呼んでいいでしょう。
「『セドリック/グロリア』が正常進化していたら、こんな感じだったんだろうな」と。
このようにN7はスポーツとラグジュアリーにも化ける、総合バランスに長けた「グランドツーリングの理想形」と言っていいモデルでした。
“N7でやりきれなかったこと”を反映した「NX8」
ただ、開発チームはこれで満足していませんでした。N7でやりきれなかったこと(短期開発のためヴェヌーシアのコンポーネントを使わざるを得なかったところなど)を全て反映させたモデルが、2026年3月20日に発表されたSUVの「NX8」です。

ぱっと見アリアと同じくらいに見えますが、実際のボディサイズは一回り大きく、全長4870×全幅1920×全高1680mm。インテリアはN7同様に物理ボタン最小限のシンプルクリーンで、中国のユーザーが求める大画面インフォテイメント、カラオケ、冷蔵庫、マッサージシートなどは全て装着済みです。
パワートレインはBEV(モーターは215/250kW、バッテリーは73/81kWh、航続距離は81kWhで650km、800Vの5C充電にも対応) に加えてフロントにエンジンを搭載したレンジエクステンダーEV(エンジンは109kWを発揮する1.5Lターボ、モーターは195kWでバッテリーは43.2kWh、EV航続距離は約310km)も用意されています。
レンジエクステンダーEVにはe-POWERの技術が応用されているのは言わずもがなでしょう。
プラットフォームはアリア、リーフで使われるCMF-EVではなく東風日産がオリジナルで開発したモノ。驚きなのはBEVとレンジエクステンダーEVを同一プラットフォームで実現しており、ある意味マルチパスウェイプラットフォームです。モーターはリアに搭載される後輪駆動で、サスペンションは4輪マルチリンク式が採用されています。
今回はレンジエクステンダーEVに試乗させてもらいましたが、その走りはN7よりも驚きでした。2t越えの重さを感じさせない身のこなしと低重心&前後バランスに優れた後輪駆動ならではの素直なハンドリングは、「目線の高い『スカイライン』」といったイメージです。
舗装路ではグリップも高く安定感ある走りでしたが、低ミュー路では限界を超えた時にシビアな挙動を見せるシーンも。ただ、そこでのドリフトコントロール性は日産車のそれと同じ。
欲を言えばフロントにモーターを搭載した4WDは欲しい。アリアのe-4ORCEを組み合わせたら、かつてのアテーサE-TS(日産の四輪駆動システム)に負けないくらい、意のままの走りと安定性を実現するかもしれません。
乗り心地はN7を超えるレベルで、「『シーマ』が正常進化していたら、こんな感じだったんだろうな」と思わされました。
入力の優しさはもちろん、シットリとした足の動きに加えて、背が高く低重心なクルマ特有の横揺れが少なさも相まって、ショーファ需要にも使えそうなレベルです。
N7以上の総合性能の高さに加えて、骨太だけど走る愉しさを忘れていない懐の深い走りは、元気だった頃の日産車と同じ匂いがしました。個人的には新型「スカイラインクロスオーバー」として日本に導入しても、商品力は高いと感じました。
わずか24ヶ月で開発! なぜ実現?
このように想像をはるかに超える仕上がりの2台に驚きましたが、筆者の疑問は「なぜ、中国でこのようなクルマが作れたのか?」です。
この辺りを東風日産の開発チーム(日産からの出向者(クセ強の人が多い)をリーダーに構成)に聞くと、「これまでの失敗で日本の常識は中国で通用しないことが解りました。そこで開発の仕方を全て変えました」と言います。
その1つが中国での「クルマづくりの改革」です。東風日産の開発拠点。本社、デザインセンター、サプライヤー拠点などが一つにまとまっており、日本の日産で例えると、横浜本社、厚木テクニカルセンター・栃木テストコース&工場がひとつに集まったイメージですが、ここで企画・開発から生産まで一気通貫のワンチーム開発を実施。
中国のクルマづくりのスピードは世界のそれと比べても速く、日産もそのスピードにしっかり対応していく必要がありました。ただ、日本の指示・判断を待っていたら勝ち目がない。そこで日本とは独立した中国独自開発の道を選んだそうです。この辺りのアプローチはトヨタと同じです。
ちなみにN7、NX8共に企画から量産まで24ヶ月というスピードで開発されています(NX8はプラットフォーム開発も含めてなのでより凄い)。
仕事は土日も夜も関係なく、困ったら全員集合。必要があれば開発途中に大胆な設計変更も何度も行なわれたそうです。その決断とスピード感は「働き方改革」に縛られる日本の常識とは真逆ですが、かつて高度成長期の日本も同じだったことを考えると、原点回帰といった感じでしょうか。
もう1つは「中国のユーザーに寄り添うが、魂は捨てない開発」です。中国のユーザーのクルマの評価基準はスペックと装備。
そこで東風日産はスペックや装備、そしてデザインに至るまで中国のユーザーに寄り添いながら開発を行なっています。ただ、それだけでは時が経つとライバルに抜かれてしまいます
では、日産にあって中国メーカーに無いものは何か。筆者はエンジニアやテストドライバーが長年積み重ねてきた走りの哲学と信頼に基づき、クルマに“魂”と“味”を込める作業だと考えます。
かつて日産は「901活動(1990年代までに技術世界一を目指す)」を行ない、人もクルマも大きくレベルアップしましたが、東風日産はまさにそれと同じことが“今”行なわれています。
現地のスタッフは「日産の出向者から何でも吸収したい」「教えてほしい」と勉強熱心。日産のレジェンドテストドライバー・加藤博義氏も「現地に行くと、『運転(=評価方法)を見せてくれ!!』など、質問の嵐でした」と教えてくれました。
ただ、この日産車の強みである“目に見えない性能”は、中国のユーザーには現時点だとまだまだ注目されていません。それならば「◯◯コントロール」といったように中国のユーザーが大好きな装備・スペックとして伝えてみるのもアリかなと思いました。
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自動車メーカーの復活には“いいクルマ”が欠かせません。
イヴァン・エスピノーサ社長も「全くその通りで、今後も商品ラインアップの強化で回復を図っていきます」と公言していますが、筆者は『ルークス』『ノート』に加え、N7、NX8に試乗してみて、「日産は正しい方向に進み始めた」と確信しています。
そして、東風日産のクルマづくりが、日本の日産の開発陣に対していい“刺激”になってくれることを期待しています。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
























































