ホンダの「和製スーパーカー」が凄かった! 40年ぶり復活で「赤いHエンブレム」&V6×MT採用のMRクーペ「HP-X」 米で復元展示された「斬新モデル」とNSXの関係性とは
ホンダ「HP-X」は1980年代に披露されたスポーツカーのコンセプトカーですが、近年フルレストアが施工されて、再び注目を浴びました。「NSX」とも関連する同車を、改めて振り返ります。
ピニンファリーナデザインのホンダ・スポーツカー 40年越しに復活
ホンダのミッドシップスポーツカーを、イタリア有数のカロッツェリア「ピニンファリーナ」がデザインしたら。という、「if」を実現したクルマがあります。
それがコンセプトカーの「HP-X」です。その美しいデザインと、初代「NSX」との関係を紐解きます。

ホンダは、1984年の「トリノモーターショー」にミッドシップスポーツのコンセプトカー「ホンダHP-X」を展示しました。
車名の「HP-X」とは、「ホンダ・ピニンファリーナ・エクスペリメンタル」の略でした。
ピニンファリーナといえば、フェラーリやプジョーのデザインをいくつも手がけ、日本車でも日産「ブルーバード」(2代目)などを担当。
さらに同社はホンダ「シティ・カブリオレ」やランチア「テーマ・ステーションワゴン」などの生産も手がけたことでも知られています。
当時、ホンダはピニンファリーナとコンサルティング契約を結んでおり、両社協力のもと、HP-Xを製作するプロジェクトが動き出しました。
白とグレーの2トーンカラーに赤いラインとエンブレムでアクセントを入れたボディは、灯火類を納めた低いノーズと、高いデッキを持つ見事なウェッジシェイプを作り上げています。
ボディサイズは全長4.16m×全幅1.78m×全高1.11mで、軽量化のためハニカムパネル、カーボンファイバー、ケブラーなど当時最新の素材によって構成されていました。
フロントオーバーハングでは低い位置にあるグレーの塗り分けは、小さなフレアを持つフロントフェンダー後部から急角度かつシャープに立ち上がり、スリークなリアセクションで水平に向きを変え、リアに回り込んでいます。
テールライトはホワイトとされており、存在感をあえて消しているようです。
そしてグレーの斜め線に沿って彫られた6本のラインは、フラットで広いデッキに至ったのち、デッキの上でエンジンの排気スリットに変身しています。デザインと機能を両立する、極めて画期的なアイデアです。
斜め後方から見ると、リアフェンダーとリアオーバーハング部は無表情ともいえる四角い造形。リアタイヤ周囲には高性能スポーツカーにありがちな派手なオーバーフェンダーを持たず、余計な装飾や造形も一切ありません。
一方で、リア下部にはレーシングマシンのようなデフューザーが備わり、グラウンドエフェクト(ダウンフォース)を考慮していることを語ります。
乗員を覆うキャビンはフロントガラスとルーフという概念はなく、戦闘機のような1枚ガラスで、いうならばまさにキャノピー。しかもドアを備えていないため、乗員はキャノピーを取り外して乗り降りするようになっていました。
キャノピー後端が浮いているのは、エアブレーキの役目を持つ、と説明されていました。
HP-Xは、外観だけなくインテリアも未来的です。機能面でも新しい技術を導入しており、現代では一般的な装備となったリアルタイム・テレメトリ(測距システム)、GPSを用いたカーナビゲーション、ソナーによる道路状況警告などが正面のモニターに投影される「電子ドライブサポートシステム」を搭載しました。
いっぽう、クールな見た目に反し、エンジンは当時のF2レースで活躍した、V型6気筒2リッター・DOHC・24バルブのレーシングエンジン「RA260」を搭載。その荒々しいエンジンとのギャップも興味深いところです。
ご覧の通りHP-Xは最初から前提としたモデルではなく、あくまでも野心的で斬新なアイデアと新しいテクノロジーを投入したコンセプトカーでした。そしてカーデザインの世界に大きなインスピレーションを与えたといいます。
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ところで、ホンダのミッドシップスポーツカーといえばホンダ(アキュラ)の初代「NSX」が思い出されますが、HP-Xとの関連が気になる人もいるでしょう。
ピニンファリーナはのちに「初代NSXは、HP-Xで試みた多くのアイデアと革新性を体現し、自動車史におけるこのコンセプトの地位を確固たるものとした」と語っており、初代NSXの原点がHP-Xにあるという証となりました。
そんなHP-Xが一気に話題を集めたのが2024年7月。
ホンダの北米部門「アメリカンホンダモーター」が、このHP-Xを伝統的な自動車イベント「ペブルビーチ・コンクールデレガンス」の「ウェッジシェイプ・コンセプトカー&プロトタイプ」クラスに展示することを発表したのです。
毎年8月にアメリカ・カリフォルニア州モントレーでは各種クラシックカーのイベントが行われるため、「モントレー・カーウィーク」と称されます。
その中でも、最終日にペブルビーチで開催される「ペブルビーチ・コンクールデレガンス」は、これらのラストを飾る重要なイベントです。初開催から70年以上の歴史を誇る、歴史あるコンクールイベントとして世界中のカーガイから知られています。
HP-Xは、ピニンファリーナの工房に40年ぶりの里帰りを果たし、大規模なレストアを受けて復活したのです。
残念ながら同クラスのプライズはアストンマーティン「ブルドッグ」が受賞したため、HP-Xはプライズを逃しましたが、今なお美しいHP-Xの姿はまわりの名車やコンセプトカーにも引けを取らない存在感を見せました。
いつか、日本での展示を期待したいと思います。
Writer: 遠藤イヅル
1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター・ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持ち、コピックマーカーで描くアナログイラスト、実用車や商用車・中古車、知られざるクルマの記事を得意とする。





































