トヨタが水素エンジンの「未来の扉」を開く! 様々な垣根を超えて新たな挑戦で見えたものとは

結果は無事完走も…じつはさまざまなトラブルを乗り越えていた

 5月22日、決勝日は雨が止んだものの曇り空。15時のレーススタートに先駆け、ルーキーレーシングはメディア向けに記者会見を実施。

 モリゾウ選手を含む全ドライバー、片岡監督、GRカンパニーの佐藤恒治プレジンデントが出席しました。

 自動車メディアはもちろん、経済誌/新聞、さらには地上波すべてのTV局が来るなど、普段のS耐では考えられない報道陣の数に、この挑戦への注目度の高さを改めて実感しました。

 モリゾウ選手は「水素エンジンでレースを走りますが、ゴールは『カーボンニュートラル』ということ」、「モータースポーツの場で選択肢のひとつを実証実験できる場が訪れたと思っている」。

「スーパー耐久の理念『モータースポーツを起点としてもっといいクルマづくりに活用してほしい』は、ルーキーレーシングとTOYOTA GAZOO Racingと合致している」など、トヨタ自動車社長や日本自動車工業会会長の顔ものぞかせました。

 そして、15時に決勝がスタート。ここまでは比較的順調に見えた「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」でしたが、テストでは起きなかったトラブルが発生。

 ちなみにS耐ではテレメトリーシステムの使用は禁止ですが、水素エンジンの開発ということで、特別に許可を受けています。

 エンジニアはピットから離れたモビリタ内(富士スピードウェイの施設)でエンジンの状況を常時チェックしていましたが、「筒内圧上昇」の数値が。

 水素エンジンの1番の課題は異常燃焼で、その可能性があるということでピットイン。

 各部を外してチェックをおこなうが問題はなし。どうやらセンサー周りの問題だったようですが、念には念を入れてインジェクターを含む部品を交換してコースに復帰しました。

 続いて「水素濃度上昇」という数値が出たため再びピットインしてチェックです。

 水素漏れは絶対に起きてはならないので心配されましたが、振動でブローバイをインテークに戻す配管が外れたことで大気解放状態に。

 ブローバイに含まれる僅かな水素をエンジンルーム内のセンサーがキャッチしたようです。

 逆をいえば、センサーの精度の証明でもありました。こちらも修復をしてコースに復帰します。

 通常のレースチームであれば、トラブルにもよりますが、早くコースに戻すために応急処置もしくは騙し騙し走らせるという手段を取ることもあります。しかし今回は開発のために参戦していることから状況をシッカリ見極め、対策をシッカリおこなったうえでコースに戻すが基本です。

 その後、筒内圧上昇の症状が何度か出たようですが、その度にピットインしてチェックをおこなっていました。

 夜間走行を始める頃には、「一旦ホテルに戻って寝ます」というメディアがポロポロと。

 気が付くとTOYOTA GAZOO Racingが用意した取材ルームには筆者と同業の河口まなぶ氏のみに。

 耐久レース取材は「いつ、どこで、何が」起きるかわからないので、筆者は「寝ずに見届ける」を基本にしています。

 とはいえ、睡魔には勝てないときもあるので、日付が変わる前に様子を見て「何もなければ交代で寝ようか」と相談していた矢先に、ダンロップコーナー付近でマシンストップという情報が入りました。

 慌ててピットに行くとマシンはすでにピットで修復が開始されていました。ドライバーの松井孝允選手は「システムを再起動するとエンジンが始動したので、戻ってくることができました」といいます。

 細かい内容はわかりませんが、ある部品の破損で電気系統のトラブルが発生したようです。

 致命的ではないとはいえ、部品の修理に思った以上に時間が掛かってしまったこと、さらに電気系統ということで念には念を入れて周辺部品はすべて交換、さらにすべての機能がシッカリ作動するかのチェックを含めた大手術となりました。

24時間レースという過酷な現場を水素エンジンの第一歩に選んだが、さまざまなトラブルにも見舞われた
24時間レースという過酷な現場を水素エンジンの第一歩に選んだが、さまざまなトラブルにも見舞われた

 筆者と河口まなぶ氏はそのすべてを見ていたのですが、驚いたのは「夜勤はプロに任せる」といっていたモリゾウ選手が心配して駆けつけ、メカニックやエンジニア、そしてドライバーに声をかけていたことです。彼らは「絶対に復旧させます!!」と。

 さらに驚いたのは、部品の修理に小林可夢偉/松井孝允選手も加わっていたことです。

 実は2020年の菅生でのクラッシュからの生還時も、同じような光景がありました。

 トラブルは起きてほしくありませんが、トラブルが起きたことで、ルーキーレーシングの「チームであると共に家族のような存在」、「心ひとつに」という部分が垣間見えた瞬間でした。

 約4時間後の3時30分、コースへと復帰。ピットでは自然と拍手がでました。それ以降は、リアモニターのブラックアウトなど小トラブルは起きましたが、パワートレインはこれまでのトラブルがウソだったかのように順調な走行を続け、メカニックも食事や休息を取れる余裕が出たようです。

 10周から13周で1回おこなわれる水素充填も回数を重ねる頃にカイゼンが進んでいます。

 実は筆者はタイムの計測をしていましたが、記念すべき1回目は6分30秒ほど掛かっていましたが、23日に何度か計測すると5分30秒から6分の間で完了と、明らかに早くなっていました。

 日中はコースサイドで走りもチェックしてみました。トヨペット100Rコーナーで走りを見ていると、コーナリング姿勢は非常に安定しているだけでなくコーナリングスピード自体もST2/3のマシンに負けていない印象です。

 更に印象的だったのはFCY(フルコースイエロー)解除のときでした。

 50km/h制限が解除されどのマシンも全開走行に戻るのですが、「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」は、ほかのクルマと見比べると明らかにダッシュ力がいいのです。

 これは水素エンジンのトルクフルかつレスポンスの良さが活きていることが可視化できたように思いました。

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