トヨタが水素エンジンの「未来の扉」を開く! 様々な垣根を超えて新たな挑戦で見えたものとは

超豪華独占インタビュー! モリゾウ選手/小林可夢偉選手/片岡龍也監督、そしてGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントの豪華メンバー集結!

 5月21日、本来なら予選日ですが、降り続く雨は勢いを増し、12時から始まる予定だったAドライバー予選はディレイに継ぐディレイ、そして天候回復が見込めないという判断から予選は中止されました。

 各クラスはシリーズランキング順で決定されましたが、「ORC ROOKIE Corolla H2 concept」のグリッドはこれまでのタイムを考慮した結果、第2グループのST4とST5の間です。

 早めに切り上げるメディアも多いなか、筆者を含めた数名はしぶとく居残り、その粘り強さの甲斐あって、チームがインタビューセッションを用意してくれました。

 何とモリゾウ選手/小林可夢偉選手/片岡龍也監督、そしてGRカンパニーの佐藤恒治プレジデントといい錚々たる面々です。

――20日のフリー走行で走られたモリゾウ選手のファーストインプレッションは?

 モリゾウ:GRヤリスと比べるとパワー的には少ないですが、聞かれなければ水素エンジンとはわからず、違いは「意識」だけですね。ハンドリングもGRヤリスに乗っているような感覚です。

――音と振動が好きなモリゾウ選手ですが、その辺りに関しては?

 モリゾウ:水素サウンドは甲高い音で品があります。まだトライ&エラー中ですが、そのうち出来上がって来ると思います。

――今回の参戦に関して、FIAと一緒に規則を作ったそうですが。

 モリゾウ:モータースポーツの世界もカーボンニュートラルが求められています。

 ただ、レースにさまざまなカテゴリーがあるように選択肢を広げる必要があります。つまり「フォーミュラEだけではないよね」と。

――モータースポーツに投入することで、開発スピードも大きくアップすると思います。

 モリゾウ:開発スピードが上がると、当然「実用化」という話になりますが、私はその出口はモータースポーツだけではないと思っています。それは商用車かな……と。

――トヨタの水素エンジンの挑戦は、いわば「内燃機関に水素の知見を与える」ですが、後に続くメーカーは増えて欲しいですか?

 モリゾウ:実はまだ自信を持って「どうぞ」といえる状況じゃないです(笑)。

 しかし、こういうタイミングでこんなことができるトヨタに変わったということです。回答がないからこのような現場が必要です。

――社長はニュルのときもそうでしたが「24時間」にこだわっているように感じます。それに関してはどうでしょうか?

 佐藤:実は2020年11月に乗っていただいた仕様のエンジンであれば3時間だったら持っていたと思います。

 そのため、逆をいえば3時間でのレースなら何もしなかったと思います。ただ、「24時間に出るぞ」といわれてテストをしたら持たなかった。

 目標が明確だと開発スピードは明確に上がります。すでにシェイクダウンのときからも改良され特性も変わっていますし、現在もさまざまな検討やデータ取りをしています。そんな時間軸で動いています。

GRカンパニーの佐藤恒治プレジデントとモリゾウ選手(トヨタ・豊田章男社長)
GRカンパニーの佐藤恒治プレジデントとモリゾウ選手(トヨタ・豊田章男社長)

――GRヤリスから水素エンジン搭載カローラへのマシン変更、片岡監督の本音は?

 片岡:GRヤリスは1年かけて勝てるマシンに仕上がりましたが、菅生で「カローラに替えます」という話を聞き、頭の中は真っ白になりました(笑)。

 誰も挑戦したことのない水素エンジンで24時間を走らせる、正直不安だらけでした。

 ただ、僕らの知らない所で準備をしてくれていたので、テストをすると大きなトラブルなく走る……。「意外とこんなに順調なのね」と驚きました。

――可夢偉選手が、今回の挑戦のいいだしっぺだと聞いていますが?

 小林:豊田社長と一緒に蒲郡の研修所で試作車に乗りました。ダートで走らせましたが、トルクの立ち上がりが非常にスムーズで、「逆にダートではガソリン車よりも向いているのでは?」と思ったくらいです。

 僕はWECをハイブリッドで戦っていますが、「ハイブリッド=プリウス」のイメージが強かったこともあり、水素エンジンが「スポーツにも使える」を証明するまで時間がかかりました。

 水素エンジンはBEVと違って音がします。これはモータースポーツとカーボンニュートラルが共存できると直感しました。

――可夢偉選手が進言し、社長が決断し、佐藤プレジデントが苦労し、そして片岡監督が驚いた……と(笑)。ただ、この短期間でこの状態になったのは、色々なモノの積み重ねだと聞いています。

 豊田:WRC参戦でコクピットの強度の持たせ方がわかり、MIRAIを開発したことで水素タンクの耐久性・強度がわかりました。

 そして、デンソーのなかにインジェクターをコツコツやっていたエンジニアがいました。

 また、ルーキーレーシングが去年壊しては直しの繰り返しで普通では出ない不具合を短時間で出し、モータースポーツの現場で使える適切なパーツや賞味期限を知ることができた……などなど、色々なことが重なった結果ですね。

 佐藤:モータースポーツ起点はホントに大事なことです。GRヤリスはモータースポーツからの量産車開発にトライしたモデルですが、そのなかでもあのエンジンは高温/高圧に耐えられる基本素性を持っていたことが水素エンジンに役立ちました。

 そこにデンソーのインジェクターが合体したわけです。さらにインフラ開発も進むと思います。

 今回は75MPaで水素を入れますが、タンクの残圧によって入り方も変わります。ここまで頻繁な充填も例がないので、その辺りも鍛えられるはずです。だからこそ、FIAとやるわけです。

――表だけ見ると、やっていることが神がかりのように上手く重なったように見えますが。実際は表に出てこない無数のトライ&エラーをしているわけですよね?

 豊田:私が「もっといいクルマづくり」を目標にしたのは、そこにあります。つまり、現場はそのためなら「何をやってもいい」わけですから……。それが色々合わさったひとつの例が、水素エンジンなのです。

――トップが「オレが責任を取る」といってくれるのは、現場は嬉しいですよね。

 豊田:だって僕が乗るんですから(笑)。

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