マツダ新型「ロードスター」何が変わった? “見た目”ではわからない「大きな刷新」に込められた「想い」とは

マツダは2026年6月26日、「ロードスター」の商品改良モデルを発表しました。そんな最新のロードスターはどのようなモデルとなったのでしょうか。山本シンヤ氏が解説します。

女性比率も約5倍になったロードスター

 マツダのアイコンであり、日本の宝とも言えるライトウェイトオープンスポーツ「ロードスター(ND型)」。

 これまで多くの日本のスポーツカーは発売直後にグッと話題になるも、その後は低迷というのが常でしたが、ND型は11年目を迎えた2025年に歴代最多となる1万台超の年間販売実績を記録しています。

 加えて、近年は20代の購入台数が過去6年で約2倍に増え、同年代の女性比率も約5倍に急増するなど、「若者のクルマ離れって何だろう?」と思ってしまいます。

 そんなロードスターの2026年6月26日に行われた最新の商品改良。本来は試乗記と共にお届けしたかったのですが、筆者(山本シンヤ)の枠が大雨で中止に。正直ガッカリでしたが、そんなピンチをチャンスに変え、開発を率いる齋藤茂樹主査ら開発陣にメカニズムの深層とクルマづくりの真髄をたくさん引き出してきました。

 今回の改良の一番の課題は、国際的な車外騒音規制への適合です。車重が軽く小排気量なライトウェイトスポーツほど相対的にクリアが難しいとされるこの高いハードルに対し、マツダは単なる規制対応ではなく、走りを刷新する絶好のチャンスとして向き合いました。

 まず排気系では、音圧の厳しい2.0リッターエンジンを積む「ロードスターRF」のメインサイレンサー容量を24リッターから34リッターに拡大。メインサイレンサーは車両後端の重量増やトランクの圧迫を招きやすい変更ですが、重量増は何と500g未満でロードスターの生命線である「スーツケース2個積載」のパッケージングを死守しています。ちなみに1.5Lのソフトトップは従来の2.0リッター用サイレンサーを流用することで対応できたそうです。

 さらにRFは大型サイレンサーが走行中に揺れて車両挙動を乱す振り子現象を抑えるため、「CX-60」や「CX-80」の開発で培ったワイヤー内蔵型ハンガーラバーを新設。ゴム外周のワイヤーが高荷重時の変形を抑え込み、リヤのバタつきを解消して車重が軽くなったかのようなシャープな運動性能も手に入れたとか。

 この変化に齋藤主査は「こんなに効くなら、1.5Lにも最初から使っておけばよかった(笑)」と本音を漏らすほど。

 吸気系は専用レゾネーターの追加やエアクリーナー周辺の適正化で耳障りなノイズを消し、ソフトトップ車は吸気脈動を澄んだ音として届けるインダクションサウンドエンハンサー(ISE)を全車標準装備化しています。

 もう1つがタイヤと電動パワーステアリング(EPAS)の進化です。従来の「ADVAN Sport V105」から最新スペックとなる「ADVAN Sport V107」へと変更。

 齋藤主査からの絶対命題は、「V105が持つ絶妙なハンドリングバランスや接地感を一切損なわずに、ノイズだけを下げること」でした。極めて高いレベルでシャシーのバランスが取れているロードスターだからこそ、新たなタイヤ選択はとても大事な部分です。

 音だけを静かにしてほしいというマツダのシビアな要求に対し、ヨコハマは最新技術を惜しみなく投入することでV105同等のダイレクト感を維持したまま騒音規制をクリア。転がり抵抗低減による副産物としてカタログ燃費値も僅かながらも改善を果たしています。

「せっかくタイヤを変えたんですから」と開発陣はその過渡特性に合わせてEPSの制御ロジックを再チューニング。直進からの切り始めはフリクションを感じさせず滑らかに立ち上がり、切り戻す際もセンターへ吸い付くように自然に収束する過渡特性を作り込んだといいます。

 これによりダイレクトだけど滑らかと、動的質感アップにも寄与しています。パワートレインにも手が入っています。

 MT車にはモータースポーツの知見を活かした3つのエンジン制御をプラスしています。

 1つ目はアクセルを踏み込んだ瞬間のレスポンス遅れをミリ秒単位で短縮して操作への追従性を高めた「加速応答改善制御」。

 2つ目は街中の交差点のような微小ブレーキング時でも軽くアクセルを煽るだけで回転数が綺麗に合う「ヒール&トゥアシスト制御」、そしてレブリミット直前まで淀みなくトルク感が突き抜ける出力特性の見直しです。

 これらは絶対的な性能向上や走りのサポートではなく、より一体感を高めるための最適化というイメージです。

 フットワークは「RS」と今回設定された特別仕様車「PS(ピュアスポーツ)」に専用チューニングのビルシュタイン製ダンパーとスプリングを採用。
 開発のヒントとなったのは、S耐のST-Qクラスを戦うマシンの技術や知見を色濃く反映させたロードバージョン「12R」です。

 サーキットまで見据えたあのダイナミクスを「より軽い1.5Lのキャラクターに合わせたら?」と言う興味から生まれたといいます。具体的にはバネレートを高めてロール剛性を確保しつつ、ダンパーの縮み側減衰力をいなすことでフラットでありながらもしなやかな乗り味を両立させたそうです。

 足回りの基本諸元はRSとPSで共通ですが、レカロシートやBOSEサウンドを備えたプレミアム志向(ロードスターの中では)のRSに対し、PSはRAYS製16インチ鍛造アルミホイール(ブラック塗装)とブレンボ製ブレーキキャリパー(シルバー塗装)を標準装備し、バネ下の軽快さが光ります。

“見た目”ではわからない「大きな刷新」!
“見た目”ではわからない「大きな刷新」!

 ちなみにロールさせてヒラヒラと舞う軽さを極めた「990S」が“柔”だとすれば、12Rの遺伝子を受け継ぎアメンボのようにスッスッと向きを変えるPSは“剛”の極致。990Sとは思想的に対極にありますが、齋藤主査は「アプローチは違いますが、1.5Lの軽快さを極限まで引き出した回答と言う意味では、どちらも“正解”です」と語っています。

 カラーコーディネートでは、魂動デザイン以降初となるグリーン系「ジンクグリーンメタリック」を新採用。防錆塗料のタフな質感から着想を得たインダストリアルカラーで、PSのデザインコンセプトである機能美とシャープさの融合を見事に体現。

 専用のグレー幌やシルバーキャリパー、内装のブラック加飾とも美しく調和しており、初期受注ではPS購入者の約65%がこの新色だそうです。

 細かい部分では新シート安全基準に合わせたヘッドレスト形状の変更、Apple CarPlay・Android Autoのタッチパネル操作対応など、日常の使い勝手も細やかに底上げされています。

 では、今回の改良の本質は何か…それは「変えた所」と「変えない所」に対する信念でしょう。厳しい法規対応をチャンスに捉え、最新のシャシーと制御で走りの質感を高めながらも、グラム単位で軽さにこだわり人馬一体の歓びはシッカリと守り抜いています。

 NDの基本骨格・基本設計という「素うどん」の部分があるからこそ、豪華なRSも、バネ下軽量でソリッドなPSも、ベースグレードも、それぞれのトッピングとして存分に輝きます。

 筆者は第7世代のマツダ車は「素うどんはいいけど、トッピングがおざなり」だと思っているので、もっとロードスターを学んでほしいと願っています。

 自動車メーカーにとって、タイヤの新規開発は莫大なコストと時間、工数がかかる極めて重い決断です。それでも刷新に踏み切った理由を齋藤主査に尋ねると、サラッと「これから先も、長く売り続けていきたいから」と言い切りました。

 デザインはいま見ても古さを感じさせず、走りのポテンシャルは手を加えるたびに新たな表情を覗かせる。法規対応という重い足かせすらも進化の推進力に変えて基礎体力を底上げした最新のNDロードスター。

 そして「長く売る」という言葉、そして「1.5リッターにもやっておけばよかった」と笑う齋藤主査の探究心の裏には、まだまだ進化の手を緩めなさそうな予感。日本だけでなく世界中にファンがいる小さなスポーツカーの物語は、これからも熱く続いていきそうです。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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