まるで“別物”、車格が上がった!? トヨタのBEV「bZ4X」が大幅進化! eアクスルの全面刷新と匠によるセットアップで“人間味のある”フィーリングに【試乗記】
2025年10月9日に一部改良を受けたトヨタのBEV「bZ4X」は、果たしてどのような進化を遂げているのでしょうか。自動車ジャーナリストの山本シンヤ氏が試乗し、詳細をレポートします。
トヨタがBEVに本気だと示すには、「bZ4X」の進化・改善が重要
トヨタは、2025年10月9日に電気自動車(BEV)の「bZ4X」を一部改良しました。内外装デザインの変更や航続距離の向上など、大幅変更によって魅力をアップデートしています。
今回、その最新モデルに自動車ジャーナリストの山本シンヤ氏が試乗。使い勝手やデザイン、そして走行性能など、どのように進化したのか詳細を解説します。

トヨタは「カーボンニュートラル実現に対して全力で取り組む」と語っていますが、「正解が解らないからこそ、選択肢の幅を広げることが大事」と一貫してマルチソリューションを唱えています。
つまり、国や地域によってエネルギー事情は異なるため、パワートレインにも適材適所がある…というわけです。この辺りはグローバルでフルラインアップを誇るトヨタらしい部分ですが、それが故に新聞・経済誌から「トヨタはBEVに否定的」と言われ続けてきました。
そんな中、2022年にトヨタ初の量産BEVとして登場したのが「bZ4X」です。
トヨタらしく「ICEから乗り換えても違和感のない、普通のBEV」というコンセプトで登場したものの、航続距離や充電性能などBEVを求めるユーザーの期待に寄り添えていなかったこと、ハブボルト問題が起きたことで出鼻を挫かれたのも事実です。その後、アップデートが行なわれたものの、ディーラーも売り方が解らず、積極的なビジネスを行なわず、といった状況でした。
その後、トヨタは2026年末に第3世代BEVを導入すると発表しました(現在、この計画は延期されると報道)。「クルマ屋らしいBEVに仕上がっている」と自信を持っているようですが、筆者(山本シンヤ)は「まずはbZ4Xをシッカリ育てないと、第3世代BEVが凄いことは誰も信じてくれないと思う」と伝えたことがありました。
つまり、トヨタがBEVに本気であることを証明するためには、まずはbZ4Xの進化・改善を行なうことが重要だということです。
“中身”に注目の大幅改良! バッテリー容量約1割アップでなぜ航続距離が3倍に?
そんな中、2025年10月に改良モデルが登場。トヨタは“一部改良”と発表されていますが、その変更内容は大規模レベルです。今回は新型日産「リーフ」を超える「航続距離746km」を実現したというFFモデルの上級グレード「Z」に試乗してきました。
エクステリアはフロントマスクを最新トヨタデザインの特徴となる「ハンマーヘッド」を採用した形状に刷新、ホイールも新デザインとなっています。ノッペリからシュッとした印象でスポーティさが出た感じがしますが、個人的には2025年12月に正式発売された新型「RAV4」との共通性が増したような気も…。
インテリアはバイザーレスのメーターは不変ですが、インパネは薄くシンプルな形状に変更。センターモニターは「アルファード/ヴェルファイア」で見たことのある形状ですが、物理スイッチが所狭しと並んでいた従来モデルより使い勝手は向上。更に、やや煩雑だったシフト周りのスイッチレイアウトも整理されています。ちなみにワイヤレス充電は2つに増えています。
ここまでなら、「確かにいつものトヨタより変更項目が多めの一部改良だな」といった印象ですが、今回の注目は中身にあります。
BEVの心臓とも言えるeアクスル(モーター、インバーター、減速機)を全面刷新。小型化・形状最適化された上で出力は150kWから162kWに向上されています(廉価版のGは124kW)。ちなみに4WDのフロントモーターは従来比約2倍で、リアモーター(88kW)と合算したシステム出力は252kWとなっています(従来モデルは218kW)。バッテリー容量も71.4kWhから74.7kWhにアップされています(新型は計測方法が変更、従来と同じ計測だと約77kWh)。
ただ、バッテリー容量約1割アップで、なぜ航続距離は約3割アップが実現できたのか。この辺りを開発者に聞いてみると、「今回はバッテリー容量を闇雲に増やさず、いかに電気をロスなく走行に使えるかに注力して開発をしました。
その1つがeアクスルのエネルギーロス約40%削減ですが、シリコンカーバイト(パワー半導体)を採用や構造のシンプル化(オイルポンプ廃止)、減速機のギアの鏡面加工など、地道なカイゼンの積み重ねによるものです」と教えてくれました。
今回はチョイ乗りだったので電費性能を細かくはチェックしていませんが、都心の一般道~首都高速を交通の流れに乗って約100km走った感じは「確実に良くなっています」です。
従来モデルは同じ走行条件だと5-6km/kWだったのに対して新型は7-8km/kwhだったので、航続距離3割アップも納得かなと。
もちろんシャシーにも手が入っています。電動パワートレインの刷新に合わせてサスペンションの再チューニングのみならず、電動パワーステアリングのギアボックスをボディ直結化なども行なわれています。更にトヨタの匠の手によってセットアップが行なわれたことです。
僕もそれを聞いて「えっ!?」と思いましたが、従来モデルは特命プロジェクトでイレギュラーな開発体制だったといます。つまり、新型はトヨタのお作法に則って開発が進められた、というわけです。

“普通”から“信頼”と“自然”の濃度を高めたクルマに
実際に試乗すると従来モデルとは“別物”です。解りやすく言うと「車格が上がった!?」と思うくらいの伸び代です。具体的に説明していきましょう。
パワートレインは凄くパワフルといった感じはありませんが、日常域で普通に走っている時(=過渡領域)での余裕が増しているのは良く解ります。BEVならではの応答の良さ/スムーズさは言わずもがなですが、従来モデルとちょっとフィーリングは違います。
言うなれば、良くも悪くも無機質だった従来モデルに対して、新型はどこか人間味があるように感じました。更にアコースティックガラスの採用や防音・防振材や構造用接着剤のカイゼンによる静粛性のレベルアップもその印象をより高めていると思います。
この辺りはeアクスルの全面刷新で今までよりも緻密な制御ができるようになったことと、トヨタの匠のセットアップの相乗効果によるモノだと分析しています。
フットワークはどうか。従来モデルは基本素性の良さはもちろん、ハンドリング/乗り心地を含めた印象は 極めて“普通”でしたが、新型はパワートレイン同様にどこか人間味が増したように感じました。
もう少し言うと、ステア系は穏やかだけど安心感ある操舵フィール(直結感が高くなっている)、ハンドリングは従来モデルよりもクルマの動きやタイヤのグリップが掴みやすい素直で自然な旋回の“様”(接地やロールバランスが良い)。
そして柔らかいだけでなく芯のある乗り心地(ただしe-TNGAのウィークポイントであるバネ上の微振動は少し残る)など、トヨタ車共通の「コンフィデント(信頼)&ナチュラル(自然)」の濃度が濃くなっています。
そのキモは機械的なリニアではない絶妙な“タメ”や“間”が備えられたバランスを考えた特性だと筆者は考えていますが、この辺りもトヨタ匠のセットアップが効いているのでしょう。
ブレーキは従来モデルではノーマルとワンペダルモード(完全停止はしない)をスイッチで切り替えていましたが、新型はパドルを用いた方式(4段階)変更されています。
これはユーザーのリアルな使い方に合わせた変更ですが、個人的には他車には設定のあるAUTOモードも設定してほしかったなと感じました。
ちなみに従来モデルの懸念材料だった急速充電性能は、最短約28分に短縮(約10%から約80%まで、150kWの急速充電の時)。
加えて充電前にバッテリーを予め温めることが可能なバッテリープレコンディショニング機能の搭載で、低温での急速充電性能の短縮も行なわれています。この辺りは今回確認できなかったので、後日テストしてみたいと思います。
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そろそろ結論にいきましょう。見た目はともかく中身はフルモデルチェンジと言っていい伸び代です。例えるなら、2代目「MR2」(SW20)がI型からII型に変わったくらいの変化に匹敵するレベルかなと。
ただ、誤解してほしくないのは従来モデルがダメだったのではなく、日進月歩であるBEVの進化スピードについていくには、これくらいやらないと負けてしまう、ということです。
気になる価格(消費税込)は、今回試乗したFF「Z」が550万円(最もベーシックなFF「G」は480万円)ですが、国のCEV補助金130万円を使うと実質の支払額は12月に正式発売された新型RAV4よりもお買い得。
ちなみに全国の販売店の約8割に試乗車が配備、営業マンの研修も試乗や商品特徴のレクチャーだけでなく、BEVの基礎知識もガッツリ学べるカリキュラムを導入するなど、力も入っています。
このようにハード・ソフト共にトヨタのBEVに対する“本気”がカタチとして少し見えてきたと感じます。
ただ、ここまで変えるなら、若干ネガな印象のネーミングも刷新してよかったような気も。個人的にはサイズ感やキャラクターを含め、RAV4群の一員(ノーマル/アドベンチャー/GRスポーツに続く第4のRAV4)に加えてもよかったと思っています。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
























































