ドアミラーは「駐車時にたたむ」べき? 法的拘束力はなし! “無意識の作法”に隠された日本人の深層心理とは
駐車した後に、ドアロックおよびドアミラーを折りたたむ行為をごく自然に行っている昨今のドライバーですが、「実はミラーをたたまないといけない」という法律はありません。なぜその一連の動きを無意識に行っているのでしょうか?
法律が語らない「駐車場の作法」
駐車を終え、エンジンを切り、クルマを降りる。ドアロックの電子音と共に、サイドミラーが静かに折りたたまれる。この一連の動作を、多くのドライバーはもはや無意識に行っています。
しかし、この「当たり前の作法」は、交通法規のどこにも記されていません。では、なぜ私たちはドアミラーをたたむのでしょうか。そこには、自己防衛と他者への配慮という心理、そして技術の進化が織りなす、現代のクルマ社会の縮図が隠されています。

まず、この習慣の法的根拠について明確にしておきましょう。結論から言えば、駐車時にドアミラーをたたむことを義務付ける法律は存在しません 。
道路運送車両法の保安基準では、ドアミラーの設置や性能、構造について厳格な規定があります 。運転席から後方の安全確認ができること、そして鏡面が破損していないことなどが求められます 。
しかし、これらの規定はすべて走行中の安全を確保するためのものです。クルマを停めた後のドアミラーの状態については、法律は何も語りかけてはきません。つまり、ドアミラーを広げたまま駐車していても、何ら罰則の対象にはならないのです。
衝撃を緩和する「フェイルセーフ機能」
多くの人が見落としがちなのが、ドアミラーがそもそも「折りたためる」ように設計されている理由です。これは駐車時の省スペース化が第一の目的ではありません。
保安基準には、「歩行者等に接触した場合に衝撃を緩衝できる構造であること」という一文があります 。
これは、万が一、走行中に歩行者などと接触した際に、ミラーが折れ曲がることで衝撃を吸収し、相手に与えるダメージを最小限に抑えるための設計思想です 。
もしミラーが車体に完全に固定されていたら、それは硬い突起物として、より大きな危害を加えてしまうでしょう 。つまり、この可倒式の構造は、他者を守るための「フェイルセーフ機能」なのです。
私たちがミラーをたたむ深層心理…「防御」と「気遣い」
では、法的な義務でもなく、本来の目的とも違うのに、なぜドアミラーをたたむ行為がこれほどまでに浸透したのでしょうか。その背景には、ドライバーの2つの深層心理が見え隠れします。
1つは「防御心理」。駐車場という不特定多数の人間やクルマが行き交う空間において、車体から最も突出しているドアミラーは、無防備な存在です。
隣に停めたクルマのドアが不用意に開けられる「ドアパンチ」や、通行人による不意の接触など、損傷のリスクは常に付きまといます 。
ミラーをたたむ行為は、そうした潜在的な脅威から自らの財産である愛車を守るための、ささやかながら有効な自己防衛策なのです 。
もう1つは「空間への気遣い」。特に車両が密集する都市部の駐車場では、1台あたりのスペースは決して広くありません。
たたんだミラーが生み出すわずか数十cmの空間が、隣のクルマのドライバーの乗り降りを助け、あるいは狭い通路を通り抜ける人々の安全を確保します 。
これは、限られた空間を他者と共有する上で、無用なストレスを与えないようにするという、一種の社会的な配慮と言えるでしょう。
技術が「作法」を「常識」へと昇華させた
この「防御」と「気遣い」という心理的な動機を、決定的に後押ししたのが技術の進化です。かつて手動でミラーを折りたたんでいた時代は、その行為は一部の丁寧なドライバーの習慣に過ぎませんでした。
しかし、ドアロックと連動してミラーが自動で格納される機能が標準装備されるようになると、状況は一変します 。
誰もが何の意識も手間もかけることなく、クルマを降りて鍵を締めるだけでこの作法を実践できるようになったのです。
技術が人間の行動変容を促し、一部の「作法」は社会全体の「暗黙の常識」へと昇華しました。今では、ミラーがたたまれていないクルマを見ると、少し違和感を覚える人さえいるかもしれません。
ルールブックにはない、運転席を離れた後のコミュニケーション
駐車時のドアミラーの開閉。それは、運転という行為が終わった後に行われる、ドライバーの最後の意思表示です。
たたむ行為は、周囲への配慮と自己防衛の意思を示し、たたまない行為は、それを不要と判断した結果に過ぎません。どちらが正しいというものではなく、その場の状況に応じた個人の判断に委ねられています 。
大切なのは、その背景にある心理や理由を想像し、互いの選択を尊重することです。
SNSなどで他人の行為を一方的に非難するのではなく、なぜそうする(あるいは、しない)のかを考える想像力こそが、ルールブックには書かれていない、真に成熟した交通社会を築いていくのではないでしょうか。
Writer: くるまのニュース編集部
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