「本当のポテンシャルを存分に体感…」 フォルクスワーゲン新型「ゴルフR」は何が凄いのか? スペックだけでは語りきれない「R」の魅力とは【試乗記】
実際に試乗すると…? どんな印象?
実際に乗ると13psの差よりもアイドリング直後からターボラグを感じさせないレスポンシブな特性に驚きますが、2500rpmくらいを超えるとモリモリと湧き出るパワーは高出力ターボらしいフィーリング。
サウンドは重低音が効いた粒の揃ったモノで(音量は結構静か)、4気筒ながらもマルチシリンダーに負けない質の高さも感じられます。
7速DSGは相変わらずの俊足シフトさばきですが、Dレンジのダウンシフト制御はレースモードでもドライバーのイメージよりもワンテンポ遅めで、この辺りは進化型GRヤリスのDATのほうが一枚上手かなと。
フットワークは公式なアナウンスはされていませんが、各部のブラッシュアップや最適化が行なわれているようです。
サスペンションは通常のRがメカサス+225/40R18、上級のRアドバンスが電子制御連続可変ダンパー(DCC)+235/35R19となっています。
4WDシステムは「4MOTION With Rパフォーマンス・トルクベクタリング」を搭載。
このシステムを少しだけ説明すると、いわゆるアクティブオンデマンド式4WDながらも低負荷巡航時も後輪に6%のトルクを伝える常時4WDとなっています。
後輪への駆動トルクは最大で50%となりますが、更にリアデフに内蔵される電子制御油圧多板クラッチにより左右のトルク配分も変化可能。
これによりコーナリング時に外輪に大きなトルクを伝えられるので(左右どちらか50%、もう一方が0%まで可能)、横置FFベースの4WDながらも、後輪駆動モデルのように「駆動で曲げる」事も可能です。

ちなみに開発時にニュルブルクリンク北コース(1周20.8km)でRパフォーマンス・トルクベクタリング有無のテストを行なうと、有のほうが12秒も速かったそうです。
今回はニュルブルクリンクのカルッセルやラグナセカのコークスクリューを模したコーナーを持つPECの「ハンドリングコース」でFFのゴルフGTIと比較試乗を行ないましたが、一言で言うと「曲がる4WD」は日本車スポーツだけじゃないなと。
ゴルフGTIはクルマの動きは軽快で、操作に対してレスポンスよく反応してくれます。車両重量は1430kgですが、体感的にはクルマの動きはより軽いクルマに乗っている印象です。
ハンドリングは基本的には安定方向で電子制御油圧式フロントディファレンシャルロック(XDS)も相まってグイグイと曲っていきますが、追い込むとアクセル待ちの時間(=アンダーステア)が顔を見せます。
対するゴルフRは操作に対してレスポンスよく反応するのはGTIと同じですが、クルマの動きに良い意味で落ち着きがあります。
この辺りはいい意味で車両重量1520kgが活きているのかもしれません。同じゴルフながらも一クラス上のような感覚です。
ハンドリングは4WDなのでGTIより安定方向なのは言わずもがなですが、旋回中にアクセルを踏み込んでいくとアンダーステアが顔を出すと思いきや、Rパフォーマンス・トルクベクタリング効果で後輪から曲がる感覚があり、結果としてGTIより舵角少なめ/アクセル開度早め(=アンダーステアが少ない)で曲がれます。
それも機械的に強引に曲げられているのではなく制御のさじ加減がとても上手なので、「僕、運転上手くなった?」と錯覚してしまったくらいです。
ちなみにメーター内に4輪の駆動力をリアルタイムに表示可能ですが、あまりにサイズが小さいので、これこそ12.9インチの大型ディスプレイにR35 GT-Rのように表示すべきだと思います。
更に驚いたのは、ウエットで定常円旋回ができる「ドリフトサークル」をEPS-OFFで走らせた時でした。
アクセルONでRパフォーマンス・トルクベクタリングがヨーモーメントを発生させテールスライド状態を作ってくれますが、そこからはアクセルコントロールのみでWRCマシンばりにゼロカウンターでサークルを回ることも可能です。

連続走行でもヘコたれる兆候すらないタフさは、日本車も見習うべきポイントでしょう。
ただ、1度アンダーステアを出すとそこからの復帰は難しく、その辺りに関してはランエボXのS-AWCや進化型GRヤリスのGR-FOUR(トラックモード)の制御の優秀さを実感したのも事実です。
更に舗装された広大な舗装の「ダイナミックエリア」ではパイロンスラロームを行ないましたが、ここでは主にドライブモードの違いをチェックしました。
日常からサーキットまで万能な「スポーツ」に対して、「レース」は姿勢変化を抑えたダイレクトなクルマの動き(でも全然硬さは無い)とパイロンまでの距離をギリギリまで詰められるコントロール性の高さが印象的。
一方「コンフォート」は一般道の快適性重視と思いきや、実は前後左右の挙動の大きさ(と言ってもダラダラロールしない)が逆にクルマの動きを学ぶレッスンにピッタリです。
ちなみにどのモードでもDCCは走行状況に合わせて連続可変していますが、この辺りはXDSやDCC、4MOTIONを統合制御する「ヴィークル・ダイナミクス・マネージャー」の効果、とにかく懐が大きいのです。
もちろん各部のセットアップを自分好みにセットできる「カスタム」も用意(特にDCCは振り幅が大きい)。
パイロンスラローム切り返しの多いシーンでは、「レースをベースに、パワステのみコンフォート」と言った使い方など、ドライバーや走行シーンに寄り添ったセットアップも可能です。
更に驚いたのはブレーキです。2ピストンながら片持ちキャリパーとスペック的には普通ですが、絶対的な制動力やコントロール性もちろん、連続走行時の耐フェード性や制動力の変化は感じられず。
この辺りはとマルチピースVディスクの採用や冷却性能(ホイールデザインも含めて)の総合力によるものだと推測します。この絶対的な安心/信頼を持つブレーキに関しては、日本車もまだまだ学ぶ必要があると感じました
ちなみにゴルフRはハッチバックとステーションワゴン(ヴァリアント)が用意されています。
乗り比べるとホイールベース(+50mm)や後軸重量(70kg重い)の違いから「ヴァリアントのほうが挙動変化は若干マイルドかな?」と感じる部分はあるものの、基本的な性能はほぼ同じと考えていいでしょう。
総じて言うと、ゴルフRは一般的に「ハッチバックのグランツーリスモ」と形容されることが多いですが、今回クローズドコースで試乗して解ったのは、走るステージに合わせて「クール」にも「ホット」にも化ける超万能型アルティメットハッチだと言う事です。
他ブランドのモデルで例えるなら、BMWの「M」と「アルピナ」が融合したモデルと言ってもいいのかなと。
そう考えると700万円オーバーの価格は、実はバーゲンプライスなのかもしれません。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
値段が凄い。