まさかの「V16」搭載“セダン”あった!? 6速MT×400馬力超え「最高級モデル」がスゴい! ド迫力「エラ」装備の斬新セダンとは何者だったのか

V16搭載の「7シリーズ」改良型も登場していた

 ところが、V12が収まる長いエンジンベイを持つ750iLをもってしても、V12エンジン比で約30cmも長いV16エンジンの搭載は、さすがに無理がありました。

 通常なら、エンジンの前面に設けられる冷却装置のスペースがなくなってしまったのです。

 そのためリアのトランクルームにラジエターを設置せざるを得なくなり、サイドには半ば強引にエアインテークを置いて対処しました。

 その“エラ”のような造形から、このプロトタイプには「Goldfisch(ゴールドフィッシュ)」というコードネームが与えられました。また、排気量から「767iL」と称されることもあります。

V16搭載の「7シリーズ」次期プロト。E38型のデザインスタディとも言われる
V16搭載の「7シリーズ」次期プロト。E38型のデザインスタディとも言われる

 数年後の1990年、BMWはV16エンジンを載せた2番目の7シリーズプロトタイプを開発しました。

 この事実も、BMWが2024年に明らかにしたものです。最初のプロトタイプでは、後部ラジエターのためトランクルームが使えないという問題がありましたが、これを解決するため、冷却機器は前面に戻されました。

 サイドビューから察するに、ホイールベースが延長されてラジエターをフロントに載せ直したように見受けられます。

 キャビン後部が立ち気味の造形なのも、独特のスタイルを作り上げていました。なおこちらのV16エンジンは最高出力348psに抑えられ、5速オートマチックを組み合わせていました。

 このように、2回にわたりV16エンジンの高級車を模索したBMWですが、結局このプロジェクトは継続しませんでした。

 しかしそれからたった2年後の1992年、初代「8シリーズ」(E31型)に追加された「850CSi」のV12エンジンは5.6リッターから381psを絞り出し、さらに後年、6リッターや6.6リッターからターボ無しで400ps以上、ツインターボ装着ではなんと600psを超える高出力を実現しています。

 これらのことから鑑みると、巨大で重いV16エンジンのリリースを見送った判断は、間違っていなかったのかもしれません。

※ ※ ※

 実はこのマルチシリンダー・ウォーズには、まだ話の続きがあります。

 ライバルのメルセデス・ベンツは、6.7リッターV16エンジンをさらに超える、最高出力490psもしくは680psをマークする8リッターW型18気筒(W18)エンジンの開発を行っていたそうです。

 これを3代目「Sクラス」(W140型)に搭載して、「800SEL」を名乗る予定だったとのこと。

 しかしこちらもV12で十分という判断をされたためか開発は頓挫。陽の目を見ることなく終わっています。

 排気量と気筒数を増やして競い合うなんて夢のまた夢―――。そんな現代の風潮を見ると、16気筒や18気筒を積んだ量産車が今後出現する可能性は低いと思います。

 だからこそ、767iLのような高級車が魅力的に感じられるのではないでしょうか。

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