なぜホンダは「小型EV」を生産終了したのか 「初代シビック再来」と話題になった「e」 代わる「ゼロシリーズ」とは
ホンダは2024年1月をもって「ホンダe」の生産終了を明らかにしました。同タイミングでホンダの次世代EV「ゼロシリーズ」が発表されましたが、なぜこのタイミングでホンダeはなくなるのでしょうか。
なぜ「ホンダe」はこのタイミングで生産終了なのか?
最近、ホンダはEV(電気自動車)に関する発表を行いました。
ひとつは2023年12月に「ホンダe」を2024年1月をもって終了すること。
もうひとつは2024年1月に開催された「CES2024」での次世代EV「0(ゼロ)シリーズ」をワールドプレミアです。
CES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)はITや家電の世界最大級見本市で、2010年代以降は次世代自動車に関する最新技術の発表の場として注目が集まっています。
「ゼロシリーズ」は2026年に第一弾が北米市場で導入された後、日本を含めたグローバルでも発売が始まる予定です。
その一方で「ゼロシリーズ」発表と同じ2024年1月をもって、日本国内でのホンダ eの生産を終了することが決まっています。
ホンダeは日本での発売開始から約3年しか経っておらず、実質的な後継モデルもないままゼロシリーズとの新旧交代といった感じで姿を消すことになります。
なぜいま、ホンダeの販売が終了するのでしょうか。
2017年のドイツ・フランクフルトショーで「アーバンEVコンセプト」が世界初公開されました。これが、ホンダeの原型です。
筆者は当時、ショーの現場で実車を見ましたが、とても好印象だったことをいまも覚えています。
「シビックの再来?」、「他社は大柄なEVが多い中でこのクルマは特徴的」、そして「ホンダらしいデザインやIT技術が詰まった楽しそうなクルマ」といった声が各国のメディア関係者から聞かれました。
一方、「それどころじゃない!」という極めて深刻な危機感が、ショー現場全体に漂っていたのです。
地元欧州勢を含めて、出展メーカーが激減し、モーターショーの存在事態が大きな曲がり角に立っていることを自動車産業関係者が実感したからです。
同時に、クルマの世界では「これまでの常識が通用しなくなる」という意識を持った人が多かったと思います。
そうした危機感があるショーの現場でも、ホンダeにつながるアーバンEVコンセプトは、「ホンダらしさ」を全面に押し出した「ホンダの未来に向けた意気込み」を感じる1台でした。
2019年になると、ホンダeは、スイス・ジュネーブショーで量産を前提としたファイナルコンセプトモデルとして、そしてフランクフルトショーでは量産モデルが公開されます。
では、なぜホンダeはコンセプトモデルの時代を含めて、発表の場が欧州だったのでしょうか。
背景には欧州連合が推進する環境に関する政策、欧州グリーンディール政策と、欧州各国が独自で展開するEV普及施策があります。
ホンダとしては、欧州でのこうした規制に早急に対応する必要があったのです。
そのため、日本市場にホンダeが導入された時点でも、同車開発関係者は「正直なところ、欧州向けという意味合いが強い」と話していました。
ところが、ホンダeが世に出た2010年代末から2020年代初頭は、欧州を含めてグローバルで、ホンダを含めた自動車産業界が予想できなかったような、EVに関わる大きな社会変化が起こります。
それが、ESG投資です。
財務情報だけではなく、E(エンバイロメント:環境)、S(ソーシャル:社会性)、G(ガバナンス:企業管理)を考慮した投資のこと。SDGs(国連持続可能な達成目標)とも深い関わりがあります。
そんなESG投資の観念が、様々な企業の方針に大きな影響を与え、なかでもEVについては自動車業界とは直接関係がない企業でも、社用車などで積極的にEVを導入する動きが世界的に広がったのです。
また、EVベンチャーに対しても投資家の動きが高まっていきました。
そうした社会状況の大きな変化を受けて、ホンダのみならず自動車メーカー各社がEV事業戦略を大幅な見直しを余儀なくされました。
そして、ホンダは三部敏宏社長の就任会見の場で、「2050年にホンダが関わる全ての事業でカーボンニュートラルの達成を目指し、その10年前の2040年時点で四輪事業でEVとFCEV(燃料電池車)の販売をグローバルで100%とする」という方針を明らかにしたのです。
具体的には、北米ではGMとの協業開発のEVやホンダ独自開発のEVを導入。中国では、EVシフトが先行する中国ではホンダ独自開発の中国専用車で対応。
そして日本では軽商用を皮切りに軽乗用やホンダ独自開発の乗用EVを2020年代中盤以降に導入するというロードマップを公開していました。
そして今回発表の「ゼロシリーズ」が2026年に北米で導入後、日本、アジア、欧州、アフリカ・中東、南米へ随時導入されることになりました。
このように、EVアーバンコンセプトが登場した2017年から2024年までの間に、ホンダのEV事業戦略が変化する中で、ホンダeは結果的に、時代の変動期でのリリーフ投手のような存在になってしまったのかもしれません。
ホンダeでは欧州本部長として関わり、また2023年4月から執行役専務・電動事業開発本部長としてゼロシリーズ全体を指揮をとる井上勝史氏は、ホンダeに対して「バッテリーコストが高いなど、EVがまだ成熟していない時期に、ホンダとしてできるだけいいものを作ろうとした」と当時を振り返りました。
また「デザインやUX(ユーザーインターフェイス)など使用しているお客様には高い評価を受けている」として、「ホンダeの商品コンセプトがゼロシリーズへ引き継がれることは、自信を持って言える」として、ホンダeへの贈る言葉としました。
ホンダがこれから次世代に向かう中、ホンダeはホンダ史上、重要なモデルであったことは間違いありません。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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