車中泊可能なスズキ新型「スペーシアベース」少人数レジャーに最適な軽があえて「商用車」で投入された訳
新型スペーシアベース投入で「軽ナンバー1」狙う
新型スペーシアベースが4番目のモデルとして開発された背景には、軽自動車特有の事情もあります。それは軽自動車が薄利多売の商品であることです。
昨今は新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻、円安傾向などにより、原材料費や輸送費が高騰しています。軽自動車は基本的に輸出をしないので、円安のメリットも受けられません。
そうなるとひとつの車種を従来以上に効率良く活用する必要があり、スペーシア/カスタム/ギア/ベースは同じボディを使うので、生産や開発の効率とコスト低減の効果は格段に向上します。
新型スペーシアベースは2022年8月に発売され、9月にはコロナ禍の影響を受けながら1453台を登録しました。軽乗用車のスペーシアは8619台だったので、両方を合計すると1万72台です。N-BOXの1万9411台には達しませんが、堅調な売れ行きです。
スペーシアベースが開発された背景には、ダイハツとの軽自動車販売1位争いもあります。
2006年までは軽自動車の販売1位は一貫してスズキが確保していましたが、2007年にはダイハツがトップに立ちました。その後、稀にスズキが1位になることはありますが、年間首位の大半はダイハツが獲得しています。
しかしスズキの販売店スタッフは次のようにいいます。
「スズキは軽自動車の販売1位を諦めていません。軽自動車は日常的な移動手段で、いろいろなお客さまが購入します。クルマに詳しくない人も多いです。
そうなるとスズキとダイハツで選択に迷うこともあり、軽自動車の販売1位は、強い説得力を発揮します」
軽自動車は全長と全幅が全車共通で、スペーシア、N-BOX、タントの違いも外観からは分かりにくいです。
機能や内装を細かく比べると、明確な違いがありますが、ユーザーに伝わりにくいこともあります。
そこで「軽自動車の販売1位メーカー」という分かりやすい特徴が欲しいのです。
しかも2022年1月から9月の累計販売台数は、スズキが36万7228台、ダイハツは37万9915台ですから、その差はわずか1万2687台です。スズキがもうひと頑張りすれば、2022年の軽自動車販売1位に手が届きます。
そして両社の2022年1月から9月の販売内訳を見ると、軽乗用車はスズキが27万6411台と、ダイハツの24万5594台を上まわっています。逆に軽商用車は、スズキが9万817台、ダイハツは13万4321台と圧倒的に多く、ダイハツの軽自動車販売1位を支えています。
つまりスズキとしては、新型スペーシアベースによって軽商用車の販売を効率良く強化して、売れ行きを総合的に伸ばしたい意図もあるでしょう。
新型スペーシアベースは、エブリイと違って一般ユーザー向けの軽商用車ですが、法人が仕事で使うために購入する可能性も高いです。
このニーズでは、ひとつの法人が複数台のスペーシアベースを一括して買う可能性もあり、効率をますます高められます。
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新型スペーシアベースは、従来の軽乗用車、あるいは軽商用車ではカバーできなかった顧客を獲得できて、しかも開発コストは安いです。
スズキが弱い軽商用車部門を強化できて、新型スペーシアベースの顧客が、将来的には車内がさらに広いエブリイやエブリイワゴンに乗り替えるかも知れません。
軽乗用車をベースに開発された軽商用車の新型スペーシアベースは、ニッチ(隙間)商品と受け取られますが、実際には軽自動車の販売1位を取り戻したいスズキの本音、軽商用車が弱いスズキの悩みを反映させたモデルといえるでしょう。
なお新型スペーシアベースの納期は、販売店によるとスペーシアと同程度の3か月から4か月です。納期が長期化する昨今の傾向を考えると購入しやすいです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
ハイゼットカーゴかエブリーで迷っている。CVTの選択が在るハイゼット。後席の窓が開き、セーフティーサポート無しが選べるエブリー。それ以外に興味なし。
乗用車か商用車で迷うべきポイントは無い。これまで商用車を乗り続けているが、ここで書かれているほど維持費が高いと感じることは無く、使用する上での利便性を考えたら2年車検や任意保険料の差は微々たる差としか感じない。