せっかくの気合も空回り!? 技術的に意欲作ながら不人気だった車3選

毎年、各自動車メーカーから数多くの新型車が発売されますが、そのなかには目を見張るような技術を採用するモデルも存在します。そこで、技術的には意欲作だったものの人気とならなかったクルマを、3車種ピックアップして紹介します。

技術的に気合が入っていたものの人気とはならなかったクルマを振り返る

 各自動車メーカーから毎年数多くの新型車が登場しますが、ライバルに差をつけるために新技術を投入するケースも珍しくありません。

技術的には意欲作ながら気合が空回りしてしまったクルマたち
技術的には意欲作ながら気合が空回りしてしまったクルマたち

 新たな技術開発は莫大な費用と時間がかかるため、メーカーはなるべく多くの車種に新技術を採用しようとします。

 たとえばエアバッグや衝突被害軽減ブレーキなど、当初は高額な装備でしたが、後に幅広い車種に展開されたことでコストダウンが図られ、いまでは当たり前のように搭載されるようになりました。

 一方で、かなり先進性がある技術を採用しながら消えていったケースも存在します。

 そこで、技術的には意欲作だったものの人気とはならなかったクルマを、3車種ピックアップして紹介します。

●ホンダ初代「インサイト」

燃費に特化したことで、かなり高コストだったと予想できるも人気とならなかった初代「インサイト」

 トヨタは1997年に、世界初の量産ハイブリッド車の初代「プリウス」を発売。プリウスは同クラスの2倍の燃費性能を誇り、エコカーの概念を変えたエポックメイキングなモデルでした。

 この初代プリウスに対抗するために各メーカーともハイブリッド車の開発を続け、1999年にはホンダ初のハイブリッド車、初代「インサイト」が発売されました。

「NSX」で培った技術を応用してオールアルミ製モノコックシャシを採用し、ボディ外板もアルミ製とプラスチック製パネルで構成し、さらに室内は2シーターと割り切り、モーターと走行用バッテリーを搭載していながらも車重はわずか820kg(MT車)を達成しました。

 また、外観デザインはまるでスポーツカーのような極端なウェッジシェイプの3ドアハッチバッククーペとし、リアタイヤまわりをスパッツで覆うなどの処理によって、Cd値は当時としては驚異的な0.25を実現。

 この軽量かつ優れた空力性能のボディに、最高出力70馬力を発揮する新開発の1リッター直列3気筒エンジンと、13馬力のアシスト用モーターを搭載し、燃費は量産車で世界最高となる35km/L(10・15モード)を記録し、見事に初代プリウスの燃費を超えることに成功しました。

 2004年の改良ではさらに燃費向上が図られ、36km/L(10・15モード)をマークしてプリウスをさらに引き離しています。

 しかし、2シーターということからインサイトの販売は極端に低迷。さらに2003年に2代目プリウスが登場すると、そのプリウスは出力向上と同時に燃費は35.5km/L(10・15モード)となり、使い勝手も優れていたことで大ヒット記録。そのためインサイトはもはや太刀打ちできず、2006年に生産を終了しました。

 その後、2009年に5ドアハッチバックの2代目インサイト発売されると、実用性が一気に向上してヒット作になりましたが、シャシやボディは一般的なスチール製で、技術的には後退してしまいました。

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●アウディ「A2」

アルミ製ボディを採用するもエントリーモデルだったことと特異なデザインが仇となった「A2」

 前出のインサイトと同じく、オールアルミ製のモノコックシャシ、ボディに積極的に取り組んでいたのが、ジャガーとアウディです。

 このうち、アウディはエントリーモデルである「A2」に、オールアルミ製モノコックシャシとボディパネルを採用していました。

 A2は1999年に誕生したコンパクトな5ドアハッチバックボディのトールワゴンです。空力性能を意識してラウンドしたフロントセクションにルーフラインは大きく湾曲し、後端に向かって大きく下がる形状が特徴的でした。

 さらにショートノーズのフロントフェイスは「タレ目」のヘッドライトで、ほかのアウディ車は精悍な印象だったなか、かなりファニーな顔を採用していました。

 一方、前述のとおりシャシとボディはオールアルミ製とされ、車重は900kgを下まわる軽量を実現。パワーユニットは1.2リッターと1.4リッターのディーゼルターボを主体とすることで、燃費性能を重視したモデルでした。

 A2は日本に正規輸入されず主要な市場は欧州でしたが、異色ともいえるデザインが受け入れられず販売は低迷し、2005年に生産を終了。実質的な後継車は「A1」です。

 アウディはフラッグシップの「A8」や、スポーツカーの「TT」「R8」など比較的高額なモデルにアルミ製シャシ&ボディパネルを採用しました。

 しかし、アルミボディは修理に特殊なスキルが要求され、作業できる工場も限られており、A2はエントリーモデルということが災いしてドイツ本国でも現存数はかなり少なくなっているようです。

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●日産10代目「セドリック」/11代目「グロリア」

新たなCVTを搭載するも普及せずに消えてしまった10代目「セドリック」

 現在、日本の自動車市場で販売されているクルマの99%近くは2ペダルのAT車で、なかでももっとも広く採用されているのがCVTです。

 CVTは金属製のベルトとプーリーを用いて減速比を連続的に変化させることで、変速ショックがないスムーズな運転が可能なだけでなく、常に効率の良いエンジン回転数を保ちながら走行することも可能なことから、低燃費化にも有利というメリットがあります。

 さらにCVTは、一般的なステップATよりも構成する部品点数が少なく、生産コストの削減と小型化にも有利で、誕生した当初は小型車や軽自動車を中心に普及しました。

 しかし、CVTはベルトとプーリーの摩擦によってエンジンの駆動力をタイヤに伝達する機構のため、大出力のエンジンではスリップが生じやすく、伝達効率が下がるという問題がありました。

 そこで日産は大出力/大トルクに対応するCVTを開発し、1999年発売の日産10代目「セドリック」/11代目「グロリア」(Y34型)に搭載しました。

 この新たなCVTは「エクストロイドCVT」と呼称されますが、一般的には「トロイダルCVT」として作動の理論自体は古くに誕生していました。

 仕組みはプーリーとベルトの代わりにディスクとローラーを介して駆動力を伝達するというもので、構造は入力ディスク(エンジン側)と出力ディスク(タイヤ側)の間にローラーが挟まっており、そのローラーの角度を変えるとディスクとの接点が移動し、減速比が変わるというものでした。

 ディスクとローラーによる駆動力の伝達は、一般的なCVTと同じく摩擦を介しておこなわれますが、トロイダルCVTでは非常に高い圧力で金属同士が接する必要があり、開発成功の鍵は油膜を保持する特殊な潤滑油にあったといいます。

 セドリック/グロリアに搭載されたエクストロイドCVTは6速マニュアルシフトも可能で、最高出力280馬力を誇る3リッターV型6気筒ターボエンジンに対応したことから大いに話題となりました。

 しかし、精度の高い加工技術が要求されたことや、潤滑油がコストアップにつながり、セドリック/グロリアの場合は4速AT車にくらべて50万円以上も高額な価格設定となり人気は出ませんでした。

 また、構造的に小型化できないことから搭載はFR車に限られ、セドリック/グロリア以外では11代目「スカイライン」(V35型)に採用されただけに留まりました。

 その後、セドリック/グロリアは2004年に生産を終了して後継車の「フーガ」に統合され、エクストロイドCVTも消滅しました。

 現在、ベルト式CVTは強度の高いチェーンに置き換えられ、300馬力以上の出力に対応できるようになったため、エクストロイドCVTが再び日の目を見ることは無さそうです。

※ ※ ※

 最後に紹介したエクストロイドCVTは、日産とトランスミッションメーカーのジヤトコ、ベアリングメーカーの日本精工(NSK)、油脂メーカーの出光興産など、複数の会社による共同開発によって誕生しました。

 また、エクストロイドCVTは公益社団法人 日本自動車技術会が選定した「日本の自動車技術330選」にも登録され、さらに日本精工は独自に開発を続け、FF車に搭載できるほどの小型化にも成功しました。

 こうして普及しなかった技術でも後の技術の礎になることは多くあるため、「ものづくり」の精神を失ってはいけないということでしょう。

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