良いクルマなのになぜ売れない? 商品力は高いけど販売が苦戦するクルマの裏事情
売れ行きが芳しくないのは価格が原因かも?
●三菱「エクリプスクロス」(843台/月)
いまはSUVの人気が高いですが、三菱「エクリプスクロス」は1か月の登録台数が1000台以下です。同じくSUVのトヨタ「ハリアー」の約2%です。
エクリプスクロスが2018年に発売された時点で搭載したエンジンは、1.5リッターターボでしたが、2019年にはクリーンディーゼルターボを追加。
2020年にディーゼルを廃止して、PHEV(プラグインハイブリッド)を設定しました。この経緯はユーザーにとって分かりにくいものだといえます。
また三菱は「アウトランダー」にもPHEVを用意していますから、ユーザーを奪い合う面も生じるでしょう。
PHEVは価格も相応に高く、エクリプスクロスの中級グレード「PHEV・G」でも415万2500円なので、大量には売りにくい面もあります。
それでもエクリプスクロスPHEVの運転感覚は、良く曲がってスポーティです。
少し過剰なキビキビ感もあり、古典的ともいえますが、そこがかつての「ランサーエボリューション」などに通じる三菱の個性でもあると思います。
●ホンダ「インサイト」(250台/月)
ホンダ「インサイト」は上質なハイブリッドセダンです。1.5リッターエンジンをベースにしたハイブリッドの「e:HEV」は、加速が滑らかでノイズは小さく乗り心地にも優れており、WLTCモード燃費は「LX」が28.4km/Lに達します。
それでも売れ行きが伸び悩むのは、価格が割高と受け取られるからでしょう。もっとも安いLXでも335万5000円です。
ただしその分だけ装備は充実しています。衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能を併せ持つ「ホンダセンシング」に加えて、ホンダインターナビ+リンクアップフリー、アルミホイールなども標準装着しました。
インサイトは先代「シビック」をベースに開発されていますが、シビックハッチバックは1.5リッターターボを搭載して価格は294万8000円でした。
充実装備を考慮すると、インサイトはe:HEVを搭載しながら、実質的な価格は1.5リッターターボのシビックに近いです。
それなのに売れ行きが低迷する理由は、車両全体の雰囲気が地味でハイブリッドらしさも乏しいからでしょう。ほぼ同じサイズでプリウスという強敵もいるため、さらに印象が薄くなりました。
プリウスの「Aプレミアム」(333万1000円)とインサイトの価格は同等で、装備も同水準です。
内外装の質感はむしろインサイトが上まわるのに、販売面では大きな差を付けられました。
またインサイトは、初代モデルが2人乗りの燃費スペシャルで、2代目になるとシンプルなハイブリッドになって低価格を追求。3代目の現行モデルは、逆に上質感を特徴としています。
フルモデルチェンジの度にコンセプトが変わり、インサイトの一貫性が乏しいことも、販売を低迷させた原因でしょう。
商品力が相応に高いのに売れないクルマには、それぞれ違った事情があるのです。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
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