日産「キューブ」12月で生産終了へ 背高小型車人気でも新型開発せず約21年の歴史に幕
直近の販売台数は、他社新型モデルと同等でも…
2019年1年から7月のキューブの登録台数は、1か月平均で400台でした。この販売実績はトヨタ「ポルテ」やホンダ「インサイト」と同程度で不人気車の部類に入りますが、発売から10年以上を経過して緊急自動ブレーキも装着されないことを考慮すれば、むしろ売れ行きは堅調です。
キューブは全長が3890mmに収まる5ナンバー車ですが、全高は1650mmと高めに設定されて室内空間に余裕を持たせました。

内装は和風をモチーフにデザインされ、インパネは緩やかな曲線を描いています。オプションではガラスルーフが用意され、SHOJI(障子)シェード&ロールブラインドも採用。SHOJIシェードを閉めると、車内は文字通り障子を通過するような柔らかい光で満たされます。
シートは前後ともにベンチタイプで、座面には十分な厚みを持たせました。座ると体が深めに沈み、リラックスできる印象です。
クルマは高速で移動するツールですから、内外装のデザインも速そうに見せることが多いです。分かりやすいのはフロントマスクで、最近の新車市場では怒り顔が増えました。目を吊り上げて、突っ走るイメージです。
ところがキューブは、外観から内装まで、速いクルマに見せようとする意図がまったく感じられません。むしろ「心地好いクルマだから、ゆっくりと走り、なるべく長く乗っていたい」と思わせる魅力を大切にしています。いまの怒り顔が多い日本車のなかで、キューブは貴重な存在といえるでしょう。
それだけに生産終了は残念です。緊急自動ブレーキの装着を含んだ少し規模の大きなマイナーチェンジを実施するだけでも、売れ行きは伸びたと思います。
キューブには、トヨタ「ルーミー/タンク」、「ポルテ/スペイド」、スズキ「ソリオ」などでは得られない独特の魅力が備わるからです。
それにしても、日産は大丈夫なのかと心配になります。以前に比べると売れ筋車種が大幅に減り、その矢先に、改良やフルモデルチェンジをおこなえば売れる見込みのあるキューブまで廃止したからです。
コンパクトSUVの「ジューク」は、欧州などの海外市場ではフルモデルチェンジされた新型が登場しますが、日本国内は従来型を継続販売するようです。
ちなみに日産は、2021年3月までに世界で20車種の新型車を発売すると公表しており、日本国内でも8車種から9車種は登場しそうです。
そのなかにキューブのようなコンセプトを備えたコンパクトカーが含まれていると、ユーザーのメリットも拡大するでしょう。
また2019年には、歴史のあるクルマが次々と生産を終えます。SUV市場の基礎を築いた三菱「パジェロ」、未来的な卵型のボディスタイルでミニバンの定番となったトヨタ「エスティマ」、トヨタ「マークII」で始まった上級セダンの伝統を受け継ぐ「マークX」という具合です。
新型車の開発と生産も、転換点に差し掛かっているのかも知れません。過去の人気車を廃止して、新しい日産を目指しているように思えます。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。












