陸自の戦車に変化が? 総火演で見た花形は戦車じゃなかった
毎年8月に、静岡県御殿場市の東富士演習場でおこなわれる「富士総合火力演習」。2019年は8月25日に実施されますが、一足先に一般公開予行がおこなわれました。従来、陸上自衛隊の花形兵器といえば、キャタピラのついた戦車でしたが、最近ではその花形に変化があるといいます。どんな変化が起きているのでしょうか。
戦車がキャタピラから車輪に変わっている?
2019年8月25日に令和最初の陸上自衛隊「総合火力演習」が実施されますが、これに先駆けて開催された一般公開予行が、同年8月22日におこなわれました。
総合火力演習、通称:「総火演(そうかえん)」は、陸上自衛隊の演習のひとつで、元々は富士学校の生徒に火力戦闘とはどういうものかを理解させるために始まりました。しかし、昨今では国民の自衛隊への理解度を深める意図が強く、ショー的な演出が取り入れられています。
2019年度の演習を観て感じたのは、陸上自衛隊の主要な兵器が「自動車化」しているということでした。陸上自衛隊の花形といえば、履帯(キャタピラ)を付けた戦車が思い浮かびます。
筆者(山崎友貴)は、過去に3回に渡って総合火力演習を観覧しましたが、従来の演習の主役は、やはり戦車でした。装輪車、いわゆるタイヤの付いた装甲戦闘車などは脇役というイメージです。
しかし、今回の演習では、16式機動戦闘車や96式装輪装甲車、そして新装備である19式自走155mm榴弾砲など、いわゆるクルマタイプがメインとなり、むしろ90式や10式といった戦車の影が少々薄くなったように感じます。
演習の告知ポスターを見ても、16式機動戦闘車がメインに据えられており、戦車はどこにも掲載されていません。この変化はどういうことなのでしょうか。
その要因は、自衛隊を取り巻くさまざまな状況の変化にあります。ここ数十年で、東アジアにおける日本の防衛は大きく様変わりしました。
冷戦時代の仮想敵国はソビエト連邦(以下、ソ連)であり、想定される侵攻場所を考えると、自衛隊の主戦場は旭川以北の北海道とされてきました。
北海道はその土地の多くが未開拓の原野であり、道を1歩でも外れそうものならキャタピラでなければ進むのが非常に難しいオフロードとなっています。
そのため、戦車やキャタピラを付けた自走砲などが重要視されていたようです。また、ソ連が戦車を上陸させてくることも想定され、この場合、戦力的に戦車でなければ対抗しえないという考え方もありました。
しかし、ソ連崩壊後はロシアが侵攻してくるという可能性は低くなり、代わりに日本国土を脅かすのは中国や北朝鮮ではないか、という想定に変わっていったのです。
とくに中国は昨今、東アジア地域での強引な海洋進出を進めており、各国が警戒を強めています。日本も島しょへの武力侵攻を警戒しており、防衛省は2018年に陸上自衛隊の海兵隊といわれる即応部隊「水陸機動団」を設立。
海上自衛隊も事実上の空母、揚陸強襲艦といわれる補給艦「いずも」や「ひゅうが」などを配備・改修しています。
また、陸上自衛隊の装備も、これに併せて変化しており、全国どこでもスピーディに移動できる道路インフラが整った現在の日本では、キャタピラで走る戦車は第四世代の10式戦車でも70km/h程度でしか走れません。
この速度で舗装路を移動し続ければ舗装路面は著しく傷みますし、履帯や車体の機構自体もダメージを受けます。
そこで長距離を移動する場合は、戦車運搬車、つまり大型のトランスポーターに載せていくのが一般的で、運んだとしても、スピーディに戦場に展開するのは難しいというのが実情です。
90式戦車にいたっては、法的な制約によって日本の大半の道路を走行するこができない上に、50tオーバーの車重ゆえに、日本全国の橋の約65%しか通過できないという大きな問題を抱えています。
一方、戦車に取って変わる兵器といわれる16式機動戦闘車は、8つのタイヤで走る大型車で、最高時速は100km/h以上といわれています。つまり戦場まで自走していくことが可能で、即応展開が必要となる昨今の紛争や戦争に向いた兵器ということ(道交法で規定された車幅2.5mは超過していますが…)です。
16式機動戦闘車の導入意義について、防衛省内の陸上自衛隊幕僚広報部は次のように話します。
「広域に渡って迅速に運用するためです。16式機動車両は戦車とは別のものと考えており、その戦車よりも機動性で優位な面もあり、適切な場面での運用が有効であると考えています」
日本のハイテク技術は世界一