トヨタの「“2人乗り”スポーツカー」がスゴイ! まさかの「MTのようなAT」搭載!? 斬新「タテ目」採用の「GR HV スポーツ」とは
トヨタが2017年に披露した「GR HV スポーツ」は、レーシングHV技術とMT風の操作系を融合させた意欲作でした。多くのファンが市販化を望んだこのモデルは、はたしてどのようなクルマだったのでしょうか。
「Hパターンシフト」搭載の異色HVスポーツ
2025年11月9日に閉幕した「ジャパンモビリティショー2025」は、入場者数101万人と大盛況でした。会場では、多数のコンセプトカーが出展され、注目を集めました。過去を振り返ると、非常に印象的なコンセプトカーがあり、その後どうなったのか気になるものもあります。
2017年開催の「第45回 東京モーターショー」で世界初披露された「GR HV Sports Concept(GR ハイブリッド スポーツコンセプト。以下、GR HVスポーツ)」は、そんな気になる1台です。

トヨタが「スポーツカーと環境技術の融合」を提案したこのクルマは、発表当時から「コンセプト止まりなのが惜しい」など、市販化を望む声が根強く続いているモデルです。
コンセプトの核は、WEC(世界耐久選手権)のレーシングマシン「TS050 HYBRID」を想起させるデザインと、そこで鍛えたハイブリッド技術「THS-R(TOYOTA Hybrid System-Racing)」の搭載です。
このクルマは2017年9月発表の「GR」ブランドの一環として開発されました。ベースはトヨタ「86」ですが、次期86のプレビューではなく、あくまでレーシングHV技術の可能性を探る試験的なモデルでした。
トヨタは過去にもスポーツハイブリッドのコンセプトカーを発表しており、GR HVスポーツはその流れを汲む最新の提案だったのです。
デザインは、TS050 HYBRIDをイメージさせるLEDヘッドランプやリヤディフューザーを採用。ボディカラーはマットブラックで仕上げられました。
最大の特徴が、往年のスープラなどを彷彿とさせる脱着式オープンの「エアロトップ」スタイルです。ボディサイズは、全長4395mm×全幅1805mm×全高1280mm。ベースの86よりロー&ワイドな仕上がりで、乗車定員は2名でした。
内装は、センタークラスターにATのギアポジションスイッチをレーシーに配置。プッシュ式のスタートスイッチを開閉式のシフトノブ内に隠すという、遊び心のある設計も採用されました。
パワートレインには「THS-R」が搭載されました。しかし、具体的なエンジン排気量やシステム出力などのスペックは公式には明らかにされていません。
駆動方式はFR(後輪駆動)を採用し、ハイブリッドバッテリーを車両中央に搭載することで重量バランスを最適化する設計でした。
そして、最も特筆すべき装備がトランスミッションです。AT車でありながら、ボタンひとつでMTモードに切り替えられ、6速MT車のようなシフト操作を楽しめる「Hパターンシフト」が採用されました。これはクラッチペダルなしでMTの操作感を味わえる革新的な装備でした。
これほど完成度の高いコンセプトカーでしたが、市販化には至りませんでした。理由はいくつか推測されています。第一に、あくまで86ベースの技術試験車であり、86の直接的な進化版ではなかったことです。
第二に、THS-Rのような高度なレーシングHV技術は、市販化するにはコストが高すぎる可能性があったと見られています。第三に、トヨタがその後、「GRスープラ」(2019年)、「GRヤリス」(2020年)、「GR86」(2021年)といった他のGRモデルの開発にリソースを集中させたためと考えられます。
GR HVスポーツがそのまま市販化されることはありませんでしたが、その志は他のモデルに影響を与えた可能性があります。
GR HVスポーツ発表後にモデルチェンジされた「GR86」にはハイブリッドこそ搭載されませんでしたが、デザインの一部にその要素が継承された可能性も指摘されています。
また、このコンセプトは、レーシング技術を市販車に展開するというGRの理念を具現化するものでした。現在、次期GRスープラにはハイブリッドの搭載が噂されており、将来的にTHS-Rの技術開発経験が新たなGRスポーツモデルとして活かされる日が来るかもしれません。
Writer: 佐藤 亨
自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。























