54万人が熱狂の「ラリージャパン」開幕! なぜトヨタは公道最速に挑むのか? WRCで見えた「クルマづくりと文化」とは
公道最速を決めるWRCラリージャパンが開催。トヨタもTGR-WRTとして参戦し、ファンを熱狂させています。トヨタが過酷なラリーに挑戦し続ける理由は「もっといいクルマづくり」のため。世界中の道で得た技術をGRヤリスなどの市販車へ還元し、人を育て、文化を醸成する。その取り組みを解説します。
公道最速を決める「WRC」と日本の道の難しさ、54万人が熱狂、経済効果は156億円超え
2025年11月6日から9日まで愛知県・岐阜県で開催される「2025年FIA世界ラリー選手権(WRC)第13戦ラリージャパン」。
公道を舞台にした世界最高峰のラリーが今年も日本で開催され、多くのモータースポーツファンが熱狂しています。
地元・愛知に本社を置くトヨタも「TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)」として参戦しています。
WRCとはどのような競技で、トヨタはなぜこの過酷な戦いに挑み続けるのでしょうか。その取り組みを追います。

WRC(世界ラリー選手権)は、1973年に始まった歴史あるモータースポーツで、F1(フォーミュラ1)がサーキットレースの頂点であるならば、WRCは公道レースの頂点と言えます。
最大の特徴は、サーキットではなく、世界各地のあらゆる一般公道を舞台に戦う点です。
ドライバーと、助手席で道順を読み上げる「コ・ドライバー」の二人が一台のマシンに乗り込み、雪道(スノー)、未舗装路(グラベル)、舗装路(ターマック)など、開催国によって全く異なる過酷な路面で速さを競います。ラリージャパンは、このうちターマック(舗装路)での戦いとなります。
競技は、タイムアタック区間である「SS(スペシャルステージ)」と、次のSSまで一般の交通ルールを守って移動する「リエゾン(ロードセクション)」で構成されます。
ラリージャパンでは、豊田スタジアムに設置される「サービスパーク」では、マシンの整備風景を間近で見ることができたり、SSではマシンが猛スピードでコーナーを駆け抜ける迫力を体感できたりと、観客と競技の距離が近いのもラリーの大きな魅力です。
また今回の舞台となる愛知県や岐阜県の公道は、日本の道特有の難しさがあります。狭く、曲がりくねった山間の林道は、時に路面が荒れていたり、落ち葉や苔で滑りやすくなっていたりします。世界トップクラスのドライバーたちにとっても、これらの道は予測が難しく、一瞬のミスも許されない過酷な挑戦となります。

●トヨタがラリーに挑戦し続ける理由
トヨタとラリーの関わりは非常に古く、その歴史は1957年の「豪州一周ラリー」への挑戦まで遡ります。これはトヨタのモータースポーツ活動の原点とも言える挑戦でした。
その後、WRCが発足した1973年にも「セリカ1600GT」で参戦。以来、「セリカ」や「カローラ」といったマシンで数々の勝利を重ね、輝かしい歴史を築いてきました。しかし、1999年のシーズンをもって、トヨタはWRCのワークス参戦を一度終了します。
それから約18年の時を経て、2017年にWRCの舞台へ復帰。この復帰の裏には、豊田章男会長(当時社長)の「もっといいクルマづくり」への強い想いがありました。
トヨタがWRCに挑戦し続ける最大の理由は、まさにこの「もっといいクルマづくり」のためです。
豊田会長が常々口にする「道が人を鍛え、クルマを鍛える」という言葉を体現する場が、WRCなのです。世界中のあらゆる過酷な公道でマシンを極限状態まで追い込むことでしか得られない知見や技術があります。
そのすべてを市販車開発にフィードバックし、お客様の乗るクルマをより良くしていくこと。それが、トヨタが世界最高峰のラリーに挑み続ける理由です。
その象徴と言えるのが「GRヤリス」や「GRカローラ」で、特にGRヤリスは、企画当初からWRCのエンジニアと協業して開発が進められ、まさにモータースポーツへの挑戦から生まれたクルマです。
市販された後もWRCや全日本ラリー、スーパー耐久といった様々なモータースポーツの現場で「壊して鍛える」を繰り返し、進化を続けています。
2025年4月には、GR-DAT(8速AT)の進化や高剛性ボルトを採用した進化型GRヤリスが発売される など、ラリーで得た技術は絶えず市販車にフィードバックされています。

●人材育成から文化の醸成まで
トヨタの取り組みは、マシン開発やレース参戦だけにとどまりません。モータースポーツを起点とした「もっといいクルマづくり」を実現するためには、「人」の育成が不可欠だと言います。
その代表例が「TGRドライバー・チャレンジ・プログラム」です。これは、世界で活躍できる日本人若手ドライバーを発掘・育成するプロジェクトで、TGR-WRTのレギュラードライバーである勝田貴元選手も、このプログラムを経て世界へと羽ばたきました。
選抜された若手はフィンランドを拠点に、ドライビング技術だけでなく、ペースノートの作成、フィジカルやメンタルのトレーニングまで、総合的な指導を受けます。
こうした人材育成は、ドライバーに限りません。過酷なラリーの現場は、メカニックやエンジニアにとっても最高の「人を鍛える」場となります。
さらに、ラリーを単なるレースイベントとして終わらせるのではなく、日本に「ラリー文化」として根付かせるための活動にも力を入れています。
豊田市など開催地と連携したフォトコンテストの実施や、サービスパークでのファンイベント などを通じて、ラリーの魅力を伝え、地域全体で盛り上げる機運を醸成しています。豊田会長の「自動車を文化にしたい」という言葉には、モータースポーツを通じてクルマの楽しさを伝え、次世代につないでいきたいという強い願いが込められています。

そんなラリーですが、日本での開催は、地元地域にも大きな効果をもたらしています。
豊田市が実施した調査報告書によれば、2024年大会の観客動員数は54万3800人に達しました。これは2023年の53万6900人を上回る数字です。
これに伴う経済波及効果も非常に大きく、2024年大会では約156億6400万円と試算されており、2023年の約126億3200万円 から大幅に増加。
これはF1日本GP(2023年)の経済効果約68億円と比較しても、ラリージャパンが地域経済に与えるインパクトの大きさがうかがえます。
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このように世界的に注目を集めるラリー、そしてその最高峰のWRCが日本で開催されています。
競技初日となった「デイ1(11月6日)」では愛知県豊田市の鞍ケ池公園でSS1が行なわれ、TGR-WRTのカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルットゥネン組が首位。
さらには勝田貴元/アーロン・ジョンストン組が総合3位、セバスチャン・オジエ/ヴァンサン・ランデ組が総合4位。
TGR-WRT2からエントリーのサミ・パヤリ/マルコ・サルミネン組が総合5位、エルフィン・エバンス/スコット・マーティン組が総合6位につける結果となりました。
Writer: くるまのニュース編集部
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