クルマの進化を支える「アイシン」知られざる歴史と技術力を深掘りしてみた!
ATと並んで現在のアイシンの主力となっているのは…?
そんなATと並んで、アイシンの大きな主力となる存在が、電動化パワートレインです。
実は電動化に関しては1980年代に研究がスタートし、1993年に東京都に納入された「クラウンマジェスタEV」やパーソナルモビリティ「コムス」などの開発を経て、2004年に部品メーカーとして初となる2モーター式のハイブリッドを量産化。
このシステムは遊星歯車機構を用いた2モーター式ながらも、トヨタのTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)とは異なる構造を採用しています(エンジン~モーターを同軸配置ではなく、駆動用モーターをディファレンシャル側に配置することで、既存車両を大きく変更せずともHEV化が可能)。インバーターとの一体構造をはじめとする世界初の技術されていました。

開発当時、取引のあったボルボの試作車に載せてテストをしていましたが、それを見たフォード(当時のボルボはフォード傘下)が「うちのでやろう」とフォード・エスケープとマーキュリーマリナー、マツダ・トリビュート(海外向け)に搭載され、量産化されました。
その後、2019年にはFF8速ATのトルクコンバーターとモーターに置き換えたFF1モーターハイブリッドトランスミッション(パラレル式)を開発。このシステムとeAxleを組み合わせたのが、2022年に登場した16代目クラウンクロスオーバーRSに搭載されたデュアルブーストハイブリッドになります。ちなみにこのシステムのeAxleはBluE Nexusとデンソーとで共同開発されたモノで、トヨタ初の量産BEVとなるbZ4Xとスバル・ソルテラにも搭載されています。
さらに、日本で発表されたばかりのスズキのeビターラに搭載されるeAxleや三菱のアジア戦略車エクスフォースに搭載されるFF2モーターハイブリッドトランスミッション(三菱との共同開発のシリーズパラレル式でドグクラッチでの切り離し機構を採用)なども開発。これらのシステムはアイシン初の海外生産(eビターラはインド、エクスフォースはタイ)で、既存の資産をうまく活用するという投資額ミニマムかつフレキシブルな生産体制は、アイシンとしてもチャレンジだと言います。
「もっとアピールを!」アイシンが将来に向けてより存在感を出すための課題とは?
そんなアイシンが現在トライしているのが、eAxleのさらなる小型化・効率化、そして機能統合化です。
その目標は現行品に対して出力は同じで「体格1/2化」を目指すもので、その実現にはモーターの小型化&高回転化が必須とのことで、そのために最適設計技術や新生産技術・制御技術を総力戦で取り入れつつ鋭意開発中とのことです。eAxleの体格が小さくなればクルマのパッケージ革命が起きることは言うまでもないでしょう。

このように、アイシンは目に見えない所で、長きにわたってクルマを進化させるサポートを行っています。しかし、B to C(Business to Customer)ではなくB to B(Business to Business)ビジネスが故に、なかなか消費者には伝わりにくいのも事実でしょう。
かつてアメリカの半導体素子メーカーIntelがTV-CMで「インテル、入ってる」と言うキャッチコピーを流しました。その目的は「そのパソコンにはインテル社製CPUが搭載されています」を消費者に伝えるためでしたが、このマーケティングは大成功しPCの性能・品質を表現するアイコンとなっています。
ズバリ、筆者(山本シンヤ)が感じるアイシンに足りないモノとは、サプライヤーであるが故に“控えめ”でアピールが積極的でないことでしょう。同じサプライヤーでも海外のそれは「われわれの技術がなければクルマができないでしょ」と自動車メーカーと対等なアピールをしているメーカーばかりですが、アイシンをはじめとする日本のサプライヤーは「メーカーの下請けさん」という意識から抜け出せていないように感じます。
アイシンは今紹介したモノ以外にも世界が認める技術をたくさん持っているわけですから、クルマ好きからブレンボやビルシュタインと同じように「アイシン、入ってる」と言ってもらえるようなアピールをより積極的にやってほしい、いや、やるべきでしょう。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。


























