マツダの「ロータリー・ミッドシップ」! 全長4.3m級の「国産スーパーカー」! コスモスポーツ後継機「RX500」とは
今から約55年前の1970年、マツダはロータリーエンジンを積んだスポーツカーのスタディモデル「RX500」を発表しました。現代にも通じるデザインを持つ、RX500登場の背景や詳細に迫ります。
最高時速250km/hの国産スーパーカー
1970年頃の国産車はバリエーションの多様化が進み、軽自動車から上級車種まで高性能版やスポーツモデルを用意していました。なかでもS20型エンジンを積む日産「スカイラインGT-R」「フェアレディZ432」、3M型を搭載した流麗なクーペ、トヨタ「2000GT」、そして10A型ロータリーエンジンを低いノーズに押し込んだマツダ「コスモスポーツ」などは最高時速200km/hオーバーを謳い、トップモデルに君臨していました。
最高出力はそれぞれ160ps・150ps・128psで、現在から見ると少ない数値に感じますが、100psオーバーでさえ珍しかった当時では、その性能は憧れの対象でした。

そんな中、1970年秋に開催された「第17回東京モーターショー」にマツダが創立50周年を記念して製作・出品した「RX500」は、当時の国産車としては画期的なルックスと破格のスペックで登場し、大きな話題を呼びました。
RX500のボディは、まさにウェッジシェイプといえるフォルムを持ちます。極めて低いノーズ、大胆に上方に跳ね上がるシザーズドア、ライトバンのように後方に長いルーフを持つ「ブレッドバン」風スタイル、唐突に切り落とされたような垂直の「コーダトロンカ」風リアエンド、ガルウィング式に開くエンジンフードなど、海外のエキゾチックスーパーカーにも劣らないデザインを持っていました。
コンセプトカー的なアイデアも盛り込まれており、テールライトは走行状況に応じて黄色・赤・緑で表示されました。
デザインを手がけたのは、のちにマツダの初代デザイン本部長となる福田成徳氏でした。
そして10A型ロータリーエンジンを縦置きミッドに搭載していたことも特筆に値します。イタリアンスーパーカーでも当時のミッドシップモデルは、ランボルギーニ「ミウラ」「ウラッコ」、フェラーリ「ディーノ246GT」、デ・トマソ「マングスタ」などでしか見られず、ミッドシップスポーツカー自体が少ない時代でした。
しかもこの10A型は、レース用にチューンされたペリフェラルポート仕様で最高出力は250psを発生。850kgという軽量車体と、cd値(空気抵抗係数)0.11を達成した独特のスタイルにより最高時速250km/hをマークすると発表されていました。
前述の当時最高峰だった国産スポーツカーの最高出力・最高時速と比べると、その数値の差は圧倒的です。このパワーとスピードを受け止めるため、前後ブレーキに4ポッドキャリパーを採用していたことも驚きです。
トランスミッションは4速マニュアル。4速しかないことを意外に思うかもしれませんが、当時は高級車やスポーツカーでも4速マニュアルは一般的な装備でした。トランスミッション自体はFFの「ルーチェ・ロータリークーペ」で、FF用トランスミッションを反転して流用していました。
【小見出し:コスモスポーツの後継車として開発されるも……】
RX500はその風貌と性能から、スーパーカーブームの影響を受けて作られた和製スーパーカーという印象がありますが、日本の少年たちを熱狂させたスーパーカーブームが起こったのは 1970年代後半。そのため、RX500はそれよりもずっと前に誕生していたことになり、マツダの先見の明が感じられます。
RX500は、「コスモスポーツの後継車」として企画されたスタディモデルでした。当時まだコスモスポーツは生産中でしたが、その後を継ぐクルマがミッドシップの本格的なスポーツカーとして計画されていたのは、興味深いポイントです。
しかしRX500の全長4330mm×線幅1720mm×全高1065mmというサイズは、現代の視点からは十分にコンパクトですが、全長4140mm×全幅1595mm×全高1165mmに満たないコンパクトなコスモスポーツと比べると大きすぎること、そして1970年代前半のオイルショックや、厳しい排気ガス規制が繰り返されて高性能車への風当たりが強くなったこともあり、RX500が日の目を見ることはありませんでした。
ところでRX500といえば、1台のみしか製作されていないのに3色のボディカラーが存在しました。製作当初は緑色だったものの、モーターショー展示時は黄色に塗り替えられ、さらに後年、銀色に変更されています。固定式ヘッドライトの追加は、その際に実施されたとのことです。
全国各地や世界各国で展示されてからマツダに戻ったRX500は、その後も同社で保管されていましたが、2008年にヌマジ交通ミュージアム(旧広島交通科学館)への寄贈にあたり走行可能な状態まで復元され、さらに2023年にはエンジンのオーバーホールも実施され現在に至っています。
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現在でも魅力的に感じられるRX500のデザインと驚異的な性能が、当時どれだけ多くの人に夢を与えたのか、想像に難くありません。そんなドリームカーが今でも実働状態で保存されていることに喜ぶとともに、保管・復元に尽力された方々に感謝したいと思います。
Writer: 遠藤イヅル
1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター・ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持ち、コピックマーカーで描くアナログイラスト、実用車や商用車・中古車、知られざるクルマの記事を得意とする。
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