18年ぶり復活のトヨタ新型「クラウン“エステート”」! 「ワゴンとSUVの融合」実現した“デザイン”に込められた“想い”とは

2025年3月13日、トヨタは新型「クラウン エステート」を正式発表しました。同車のデザインではどのような苦労があったのでしょうか。16代目クラウンシリーズ全体のデザインを統括した宮崎満則氏にエステートに込めた想いを聞いてみました。

トヨタ新型「クラウンエステート」に込められた想いとは

 2025年3月13日、トヨタは新型「クラウン エステート」を正式発表しました。

 クラウンエステートは2~11代目に設定されていたワゴンモデルで、久々の名称復活となるわけですが、従来と異なるのは「セダンの派生」ではなく「ワゴンとSUVの融合」と言う新たな挑戦を行なっている事でしょう。

「セダンの派生」ではなく「ワゴンとSUVの融合」と言う新たな挑戦…どのような苦労があったのだろうか
「セダンの派生」ではなく「ワゴンとSUVの融合」と言う新たな挑戦…どのような苦労があったのだろうか

 言葉で言うのは簡単ですが、デザインではどのような苦労があったのでしょうか。16代目クラウンシリーズ全体のデザインを統括した宮崎満則氏にエステートの想いをお聞きしました。

ーー16代目を企画する時に色々なボディバリエーションが検討されたと聞きましたが、エステートもその1つだったわけですよね。

「我々デザイン側のアイデアとしてもワゴンはありました。実はクロスオーバーをベースにラゲッジを広げた案もありましたが、企画側から『これはつまらないよね』と。確かに『革新と挑戦を行なうワゴンではないな』と思いましたので、今回のように大きく舵が切れたかもしれませんね」

ーーでは、ワゴンとSUVの融合と言うアイデアはどのように生まれたのでしょうか。

「SUVは世界的に人気ですので、このエッセンスを上手に盛り込むことでより新たな世界感が作れるなと思いました。私の想いは、クラウンらしさを崩すことなく仕事にも遊びにも両方使えるようなデザインを意識しました」

ーーただ、トヨタには「RAV4」、「ハリアー」、そして3列シートの「ハイランダー」(日本未導入)があります。ディメンジョン的には普通にデザインをしてしまうとSUVになってしまいます。エステートらしさはどのように表現したのでしょうか。

「開発コンセプトは『大人のアクティブキャビン』でしたので、やはり意識したのはスペースの部分です。そこでシッカリ荷物が詰めて人もゆったり座れるための『伸びやかなキャビン』と、最新のトヨタ車に共通する『タイヤ中心のスタンス』を両立させる事だろうと。これはかなり苦労しましたが、高いレベルでバランスできたと思っています」

ーーちなみに個々のデザインは異なりますが、どれも「クラウンだよね」と感じます。これは何がそうさせているのでしょうか。

最新トヨタデザインの特徴の1つである『ハンマーヘッド』は統一!
最新トヨタデザインの特徴の1つである『ハンマーヘッド』は統一!

「最新トヨタデザインの特徴の1つである『ハンマーヘッド』は統一して、アンダーの部分で各々のキャラクターーを演出しています。ちなみにエステートはシリーズ唯一のバンパーイングリルを採用しました。モダンでカジュアルですが、頼もしさを感じるデザインです」

 今回はクラウンシリーズ4モデルを並べてみる機会がありましたが、エステートとスポーツは全高の差は50mmにも関わらず、スポーツはより低く、エステートは厚みがあるように感じました。

「実はスポーツとエステートだけでなく、クロスオーバーもフロントピラーの角度は同じです。更に言うとフロントドアのウィンドウは3台同じ物で、メッキの使い方などで差別化しています」

ーー共用化はするけどそう見えないのは、デザインの妙と言うわけですね。サイドはスポーツほどエモーショナルではないですが、セダンやクロスオーバーほどシンプルでもない絶妙な塩梅ですが、この辺りはどのように扱ったのでしょうか。

16代目クラウンシリーズ
16代目クラウンシリーズ

「クラウンシリーズとして今回もタイヤを中心としたデザインをしていますが、エステートはサイド全体を面で表現しています。ただ、それだけだと伸びやかさがでませんので、ボンネットのフードのビードからドアに、そして前後ドアの境目付近で頂点となりリアまで繋がるキャラクターを入れています。

 実はこのキャラクターは綺麗に繋がっていませんが、『線を繋がないと伸びやかさが出ない』ではなく、あえて消すことでキャラクターを強調させると言う日本的な美しさも表現しています」

16代目クラウンシリーズ全体のデザインを統括した宮崎満則氏
16代目クラウンシリーズ全体のデザインを統括した宮崎満則氏

 ちなみにこのキャラクターの始点となるボンネットフードのビードは、面に彫刻刀で堀ったかようなキレのある造形ですが、これは間違いなくモデラーや生産技術屋泣かせの形状です。

 更にドアも端面を見るとかなり攻めた形状である事が解ります。ちなみにリアドアは乗降性を考えると『もう少し開閉角度が欲しいよね』と思いましたが、開発メンバーから『デザイン優先なので』と言われたそう。

「生産技術からはボンネットフートのビードは『もっと浅くしてほしい』と言われましたが、この深さが無いと全体がモヤっとした造形になってしまうとしっかり伝えると、『そこまで言うなら、やってみようじゃないと』と実現してもらいました」

ーー以前、六本木で行なわれたイベントでシリーズ4台が勢ぞろいしましたが、僕はエステートがシリーズの中でもカジュアルっぽさを感じたのと、ブロンズのボディカラーも相まってどことなく7代目(いつかはクラウンの世代)のワゴンを思い出しました。

エステートはかしこまって乗らないクラウン!
エステートはかしこまって乗らないクラウン!

 あの時のクラウンワゴンは独自のボディカラーや2段ルーフなど、セダン系とは異なる独自性がありましたが、そんな匂いがしました。

「エステートはかしこまって乗らないクラウンを表現していますが、シンヤさんに『エステートはカジュアルですね』と言われて、想いが通じて嬉しかったです。実はブロンズのボディカラーは私もお気に入りの一つで、光によってカジュアルにも見えるし、重厚にも見える多面性を持った色になっています」

 筆者(山本シンヤ)はPHEVのみに設定されるナッシュブルートとプレシャスメタルの2トーン(塗分けも斬新)も素敵な色だと思いました。インテリアも、ブルーのコーディネイトも含めて他のシリーズにも展開してほしいと思ったくらいです。

「エステートのデザインはシンプルながらもこだわりが凝縮されていますが、かなり早い段階から生産技術のチームにもデザイン検討に入ってもらい『どうやったら、これが実現できるの?』と一緒に考えながら進めた事が大きかったですね。

 デザインと生産技術は水と油に例えられますが、16代目クラウンシリーズにはそんなセクショナリズムはなく、まさに『ワンチーム』で開発できました。その結果として、1つ1つのモデルに明確な“個性”が盛り込めたと思っています」

※ ※ ※

 18年ぶり復活となった新たなクラウンエステート。従来と異なる「ワゴンとSUVの融合」と言う新たな挑戦は、きっと見るものを魅了することでしょう。

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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