「ビッグモーター」保険金不正請求は我々の自動車保険にも影響する!? 車所有者全てに波及する「深刻な事態」はあるのか

保険の不正請求は氷山の一角!? ビッグモーターの問題点は別にある

 もうひとつの争点である「全体の保険料が高くなる」について考えてみます。

 気持ちとしては解りますが、任意保険のシステムはもう50年以上に渡って運用されていますし、データだって揃っています。

 ビッグモーターで修理した事故だけ金額が高ければ、いずれすぐに解ります。だからこそ、1年くらい前から怪しいと感じた3社で調査を始めています。

 今回のような騒ぎにならなかったとしても、ビッグモーターに対する査定は厳しくなったと思うし、そうやって不正請求にブレーキを掛けてきました。

今回の一連の報道で、中古車販売業界や自動車整備業界全体への悪影響を危惧する声もあがっています[画像はイメージです]
今回の一連の報道で、中古車販売業界や自動車整備業界全体への悪影響を危惧する声もあがっています[画像はイメージです]

 やがて、ビッグモーターに対する保険金の支払い査定が厳格化されると考えられるため、皆さんが支払う保険料まで高くなることは考えにくいでしょう。

 むしろ全体で見ると、近年の「衝突被害軽減ブレーキ」(いわゆる自動ブレーキ)の普及などで、絶対的な事故件数や1件あたりの修理支出が減っているため、直近だと自動車保険料は安くしていく方向にあるようです。

 そうそう。メディアの報道では、故意にパンクさせたうえで、保険を使い新品のタイヤ交換をする映像というも出回っています。

 あれは一般的な保険でなく、最近流行りの「パンク補償」というもので、他の販売店などでも行われているものです。

 ビッグモーターの場合、中古車購入時に補償加入額を1万円払うと「2年以内のパンクなら10万円を上限でタイヤ4本新品に交換します」という内容になっていました。

 整備に出したお客のタイヤをパンクさせ「パンクしてましたから、タイヤ補償を使って4本新品にしました」という訳です。

 これまた「そんなことしたら保険料が高くなる!」とトンチンカンなことを言って怒る人も居るようです。

 タイヤ補償の制度についてビッグモーターは、保証会社と単独で独自契約をしていて、社会的な影響はほとんどないと言ってよいでしょう。

 どうやらビッグモーターでは、残り山の少ないタイヤが付いていた中古車に対する顧客サービスのひとつとしてやっていたつもりのようです。

 ただしビッグモーターのタイヤ補償制度で交換されるのは国産銘柄ではなく、新興国ブランドの安いタイヤ指定、さらに工賃も別途請求されるとのことで、さほどお得な制度ではないことがわかります。

 それでいて保証会社には満額請求していた(異なる銘柄で請求する虚偽の報告か)とも報じられており、果たしてユーザーにはどう説明していたのでしょうか。

※ ※ ※

 会社としての倫理観はひとまず置いておいたとして、ここまで読んで頂ければ解る通り、少なくとも保険金の不正請求に関しては、顧客に対するデメリットがほとんどないのも事実です。

 このほかにもメディアでは、ドライバーで車体を故意に傷付けたりする手口も報じられています。

 追突事故などでバンパーの損傷が小さい時に、バンパー全体を交換するため、被害を大きくして加害者側の保険会社に請求するような時に使っているようです。

 したがって被害者側からすれば、バンパーの部分修理&塗装でなく、新品に交換となるため、語弊を恐れずにいえば「ありがたい」結果になります。

 むしろ、今回騒動となったビッグモーター不正の本丸は「悪事のデパート」にあると筆者(国沢光宏)は考えます。

 具体的に挙げると「諸費用の水増し」「コーティングしてないのに料金を取る」「使えるバッテリーにダメを出して交換するなど過剰整備」「中古部品を使ったのに新品部品の料金を取る」「買い取る際、事故車だと判明した時の減額をカバーする補償」など……もう怪しいケースがテンコ盛り!

 前出の「安タイヤで補償」も含め、ビッグモーターの倫理観を疑うものばかりです。

 つまり今回の保険金の問題は、あくまで氷山の一角だと考えます。

 そして繰り返しになりますが、我々自動車ユーザーが加入する自動車保険の仕組み自体に対しては、影響が及ぶことはないといえます。

[編集部注記:2023年7月25日、本文の一部を修正しました]

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Writer: 国沢光宏

Yahooで検索すると最初に出てくる自動車評論家。新車レポートから上手な維持管理の方法まで、自動車関連を全てカバー。ベストカー、カートップ、エンジンなど自動車雑誌への寄稿や、ネットメディアを中心に活動をしている。2010年タイ国ラリー選手権シリーズチャンピオン。

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