なぜ日産「リーフ」税額控除対象外に!? 今後の影響は? エネルギー安全保障や対中政策を盾にした米国の論理とは

EV投資に向けた国際間での「競争」が激化している

 一方で、アメリカ以外でも日本のBEVや電動車にかかわる話題がいろいろと出てきました。

 例えば中国では4月18日に上海モーターショー2023が開幕し、中国政府が普及を進めるNEV(新エネルギー車)政策の後押しで、新型BEVが続々と登場しています。

 日系メーカーも中国メーカーに負けじと、ホンダが「ほぼ中国専用」といえる「e:NP2プロトタイプ」と「e:N SUV序」を世界初公開したり、トヨタもBEVのbzシリーズとして、若者ユーザー向けの「bZ Sport Crossover コンセプト」と、ファミリーユーザー向け「bZ Flexspace コンセプト」を初公開し、2024年に中国市場に導入するとしています。

 また欧州では、欧州議会で「2035年以降、新車の乗用車と小型商用車は事実上、100%がBEVまたは燃料電池車」という内容を含んだ政策パッケージが可決されましたが、その後ドイツが「2035年以降も(再生可能エネルギー由来の合成燃料である)e-フューエルの使用」を要望し、結果的にその意向が反映されることになりました。

 これを受けて日本では、欧州でのBEVシフトが緩むとか、日本のハイブリッド車の必要性が高まった、といった論調のニュースやSNS上での感想が見受けられる状況です。

世界に先駆け2010年に量産化を開始したBEV(電気自動車)日産「リーフ」[写真は2代目モデル]
世界に先駆け2010年に量産化を開始したBEV(電気自動車)日産「リーフ」[写真は2代目モデル]

 このように、直近でのグローバルでのBEV市場の状況を俯瞰(ふかん)してみますと、自動車製造と販売で世界第一位の中国と第二位のアメリカ、そして自動車の技術領域で長年世界をリードしていたドイツを含む欧州で、自国や自身の地域で、BEVを活用した投資の呼び込み合戦が繰り広げられているような印象を受けます。

 そうした状況に対して、日本としてはメーカーによる業界団体である日本自動車工業会(自工会)が「カーボンニュートラルに向けた道筋はBEVに限らす、様々あるべき」、または「BEVの普及は、国や地域の社会事情によって大きな差があることを承知するべき」といった基本姿勢を貫いています。

 確かに自動車産業界として、技術面、そしてユーザー目線では、こうした考え方は正論だと言えるでしょう。

 一方で、アメリカ、中国、欧州は日系メーカー各社にとって重要な商圏であり、そこで今、政治主導での強烈な動きが目まぐるしく変化していることも事実です。

 こうした社会情勢を、改めて日本のユーザー目線で見てみます。

 日本市場では当面、自工会が主張する「カーボンニュートラルはBEVだけでは成り立たない」とする“正論”によって、すでに普及が進んでいるハイブリッド車を主流としながら、内燃機関向けの新しい燃料の開発が進み、BEVは地域性やユーザーの目的によって段階的に普及することが考えられます。

 また、中国で顕著なように、地域専用BEVの導入がさらに進むと、直接的な量産効果として日本市場向けBEVのコストが簡単に下がらないかもしれません。

 BEVのコスト削減には、日系メーカー各社が2020年代後半を目途に量産を進めようとしているBEV専用プラットフォームによって、日本市場を含めたグローバルBEVのコストダウンにつながることを期待したいところです。

 ただし、すべてがひっくり返る「大どんでん返し」についても、ユーザーは注視するべきかもしれせん。

 今後さらにアメリカ、中国、欧州での政治的な動きによるBEVシフトが急加速する場合、自動車産業界におけるBEVの技術面の観点だけはなく、日本政府として様々な国や地域との政治的なバランスを考慮し、国内BEVシフトに対するなんらかの措置を講ずる必要が出てくる可能性は否定できないのではないでしょうか。

 それほどまでに、BEVを筆頭とするエネルギー関連事業を取り巻く世界の動きは、先読みできない情勢にあると言わざるを得ません。

[編集部注記:見出し・本文の一部を修正いたしました(2023年4月20日午前10時55分)]

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Writer: 桃田健史

ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。

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3件のコメント

  1. 充電設備の少なさからBEVに乗るメリットは無いですね。発電に化石燃料を使いまくってる現状で形だけのエコ合戦で何かが変わるとも思いません。
    こうやって自国の部品のみで作られた車以外は認めないとなると、相互に関税掛けまくる報復合戦にしかならず、不利益は購入者に覆いかぶさる。
    日本は甘すぎるので、安い中国製や韓国製のEVを地方自治体が公共の交通機関などに導入するようですけど、日本製が売れず、安い中韓のバスやタクシーに侵食されるのもどうかと。

    • ごもっともです。

      結果的には安いゴミクズ製品に市場とられ壊れたら修理出来ず廃棄。

      こんなことが日常茶飯事。

  2. 日本のお役所は何故メイド・イン・ジャパンを使わないのか?

    安物買いの銭失いなのに。

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