脱炭素…循環型経済…未来のタイヤはどうなる? 横浜ゴムの技術・生産統括 清宮眞二氏に聞く
市販タイヤの再生可能原料・リサイクル原料使用率は2030年に30%以上に
筆者:横浜ゴムがタイヤに使用する原材料として、すでに活きている物は何かありますか?
清宮氏:天然ゴムやオレンジオイルは市販用タイヤにも使われていますが、今後は「いかにその比率を上げるか?」、「もし増やせないなら代替え素材があるか?」ですね。弊社では再生可能原料・リサイクル原料使用率を2030年に30%以上使用する事が目標になっています。
筆者:ちなみにタイヤ=ゴムと言うイメージが強いですが、ビードやケーシングなどにはスチールが使われています。この辺りは?
清宮氏:タイヤに使われているスチールは「再生」と言う考え方です。こちらは技術的な問題と言うよりも、コスト的な話の方が大きいです。更に廃タイヤから再生ゴムや、バイオマスからブタジエン(合成ゴムなどの重要な化学原料)を作る研究も進めています。
筆者:ちなみに市販車用では、アドバンはプレミアムブランドへの新車装着も多いですよね。直近だとメルセデスAMGやBMW MのハイパフォーマンスEVの足元も支えていますが…。
清宮氏:彼らの要求は非常に高いので四苦八苦しますが、技術は確実に鍛えられます。新しい素材開発など「付加価値の高いアドバン」の実現のためにも、商品と連携した技術開発も重要です。新車装着が増えればユーザー様は同じ銘柄を指名してくれる事が多いので、結果としてリプレイス(市販タイヤ)も育つと思っています。
筆者:将来に向けた技術革新は、これまでの積み重ね? それともこれまでにない画期的な代替え素材の発見でしょうか?
清宮氏:現在使える/使えないは別として、ありとあらゆる素材を試しています。ちなみに現在、米のもみ殻から抽出したシリカをSF用タイヤに使うトライをしている最中です。
筆者:画期的なアイデアの中から実現可能になるものはありそうですか?
清宮氏:まだ言えませんが、アタリがある物はいくつかありますよ(笑)。
モータースポーツ用タイヤは既に再生可能エネルギーを使い製造されている
筆者:ありがとうございます。それでは、タイヤの製造に関しての技術革新はあるのでしょうか?
清宮氏:やはり工場のカーボンニュートラル化ですね。製造時に使うエネルギーの地道な改善をすでに進めている所です。実はすでにモータースポーツ用タイヤの電力については再生可能エネルギーを使って製造が行なわれています。多くの人は「環境=ブルーアース」と言うイメージかもしれませんが、アドバンからスタートさせるのはヨコハマらしい所と言えるでしょう。
筆者:つまり、サーキュラーエコノミー/カーボンニュートラルはアドバンから…それもモータースポーツの世界から始める。ここは他のタイヤメーカーと違う部分…という事ですか?
清宮氏:昨今、海外製の安いタイヤも市場に出回っています。価格では勝負はできませんので、我々は「性能」、「ブランド」と言う元々のアドバンの付加価値に「環境」をプラスさせて勝負をします。ちなみにアドバンは今年で45周年と言う節目の年です。色々な旗を上げる予定ですので、是非ともご期待ください。
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2023年の東京オートサロンで、トヨタ自動車のモリゾウこと豊田章男社長(当時)は「トヨタはクルマ好きを誰一人置いていかない」と語りましたが、清宮氏にお話しをお聞きしてアドバンも全く同じ考えであることが解りました。
タイヤは環境要素が入ると「性能が下がる」と言うイメージに捕らわれがちですが、SF用のアドバンレーシングタイヤは「性能が犠牲にならなければ、環境にいいモノのほうが良い」を証明しています。
そして、我々が期待するのは、この技術がフィードバックされた市販用スポーツタイヤですが、横浜ゴムならば必ず実現してくれると筆者は思っています。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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