脱炭素…循環型経済…未来のタイヤはどうなる? 横浜ゴムの技術・生産統括 清宮眞二氏に聞く

「100年に1度の大変革期」と言われる昨今、タイヤの製造ではどのような取り組みを行なっているのでしょうか? 今回、横浜ゴムの技術トップである清宮眞二氏に「タイヤの未来」について聞いてみました。

走りのイメージがある「ADVAN」だからと言って環境性能は無視しない

 自動車業界は「100年に1度の大変革期」と言われており、カーボンニュートラル(脱炭素社会)やサーキュラーエコノミー(循環型経済※)など、これまで以上に様々な課題と向き合いながらモノづくりを行なっていく必要があります。

※ 循環型経済(サーキュラーエコノミー)とは、従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すもの。(環境省より引用)

サイドウォールのレターがエメラルドグリーンのタイヤは、スーパーフォーミュラで使用されているサスティナブル素材を使用したADVANタイヤだ
サイドウォールのレターがエメラルドグリーンのタイヤは、スーパーフォーミュラで使用されているサスティナブル素材を使用したADVANタイヤだ

 その中でも、クルマの性能に直結するタイヤはこの大変革期にどのような取り組みを行なっているのでしょうか? 今回、横浜ゴムの技術トップである清宮眞二氏に「タイヤの未来」について聞いてみました。

筆者:自動車業界は電動化に舵を切り始めていますが、転がり抵抗(航続距離)、グリップ(駆動力)、高荷重対応(バッテリー搭載)とタイヤへの要求は今まで以上に厳しい状況です。

清宮氏:これらの要件は従来から求められている物なので、将来的に「タイヤが凄く変わるか?」と言われると、そうではないと思っています。しかし、取り組む「重要度」と言う意味では変わると思います。

筆者:これまで「アドバン」はグリップ重視、「ブルーアース」は転がり抵抗重視と言うイメージでしたが、今後は一つのタイヤに両方の性能が求められると思われますが?

清宮氏:その通りで、アドバンだからと言って転がり抵抗を無視することはできません。しかし、それを理由に性能を下げる事は絶対に許されません。環境を意識しながらも、走りはシッカリとキープさせていくことが、我々が「生き残る道」だと思っています。

筆者:グリップと転がり抵抗は相反する性能ですが、両立は可能なのでしょうか?

清宮氏:タイヤの性能はコンパウンド、パターン、構造などが重要になりますが、当然従来のままではダメで、新たな道を探る必要があると認識しています。

スーパーフォーミュラで使用したタイヤは約33%がサスティナブル素材!

筆者:昨今、自動車メーカーはカーボンニュートラルの時代にモータースポーツを「走る実験室」として積極的に活用していますが、タイヤもそうなんでしょうか?

横浜ゴム 取締役常務執行役員、技術・生産統括 兼 IT企画本部担当の清宮眞二氏
横浜ゴム 取締役常務執行役員、技術・生産統括 兼 IT企画本部担当の清宮眞二氏

清宮氏:もちろん「YES」です。ただ、「レースで開発したコンパウンドをそのまま使用」と言った直接的な事ではなく、「そこで培った技術やノウハウをフィードバック」と言った間接的な繋がりが大きいですね。

筆者:ちなみに2023年全日本スーパーフォーミュラ選手権(以下:SF)に供給されるレーシングタイヤは「サーキュラーエコノミー」を具体化させた物になりますよね?

清宮氏:SFで使用したタイヤの原材料は、約33%をサスティナブル素材にしながらも、2022年の現行タイヤと同等の性能を維持しています。ドライバーも最初はネガな印象だったようですが、テストでは「特に変わらない」と反応は上々です。と言っても満額回答ではないので、今後も開発は進めていきます。

筆者:一方、スーパーGT(以下:S-GT)のタイヤはマルチメイクです。今年も激しい戦いが予想されますが、ワンメイクとマルチメイク、横浜ゴムにとってどちらが重要ですか?

清宮氏:どちらも重要です。SFは今もサスティナブル原料の比率を上げる努力をしています。一方、S-GTも環境性能を無視してはいませんが、ライバルと戦う以上は負けるわけにはいかないので、そんな中での開発はやりがいがあります。昨年はGT500でポールポジションを取るなど速さは証明できたので、今年は勝ちたいですね。

国内最高峰のレース「スーパーフォーミュラ」で培われたデータは、市販タイヤの開発に大切なデータだそう
国内最高峰のレース「スーパーフォーミュラ」で培われたデータは、市販タイヤの開発に大切なデータだそう

筆者:直近でモータースポーツからフィードバックされた技術はありますか?

清宮氏:色々ありますが、現在新しい原料を含めて仕込みの真っ最中になります。

筆者:ちなみにモータースポーツ用と市販車用、開発は別だと思いますが、その繋がりはあるのでしょうか?

清宮氏:実は、両方とも横浜ゴム本社(平塚)で、それも同じフロアで仕事をしています。「困った時はお互い様」ではありませんが、技術者同士の知見やノウハウ、アイデアなどは自然と繋がっています。

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