EV版「GT-R」も出る!? 日産のEV戦略「上方修正」で日本はどうなる!? 世界的な追い風に「乗れる」のか
政治主導によるEVシフトの兆候がみられない日本の将来とは
一方、対アメリカ市場では、これまでの計画を変わらずとしました。
アメリカでの電動車については、日産に限らず多くのメーカーが、ユーザー目線での電動車というより、製造者目線での難題が山積している状況です。その筆頭は、IRA(インフレ抑制法)です。
電動車に係る部品等の製造国が限定されるため、アメリカで新車製造している全ての自動車メーカーがその調整で早急な対応に追われているところです。
今回の日産の会見でも、EVなど電動車の製造工場に関して、メディアの注目が集まったのはそのためです。
アメリカでは今、「テスラ効果」によって、他のブランドに対しても一部のユーザーや一部の販売店は「もっとEVラインアップを増やして欲しい」という要望があるのは事実です。
しかし市場全体として、ユーザーや販売店がEVシフトを歓迎しているとは言い切れない状況だと思います。
日産としては、今後のアメリカ政権の変化を慎重にウオッチしながら、フレキシブルな電動化戦略を駆使していくのではないでしょうか。
このように海外では、規制や政治的な背景によって、今後の電動化市場が変化していきます。
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では、日本での電動化市場はこれからどうなっていき、それに日産はどう対応するのでしょうか?
本稿執筆の2023年2月時点で、日本にはクルマの電動化に関する販売比率などの規制はありません。
政府の「グリーン成長戦略」や「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」の中で示された、2035年電動化100%は達成目標に過ぎません。
この電動化とは、HEVやPHEVも含まれるという解釈です。
さらに日本自動車工業会では、既存のガソリン・ディーゼルエンジンを応用するカーボンニュートラル燃料や、次世代バイオディーゼル燃料、さらに水素燃料などの量産に向けた研究開発を進めています。
つまり、日本では欧州のような政治主導でのEVシフトの兆候はいまだになく、アメリカと比べてもユーザーや販売店からのEVに対する要望も限定的なのです。
そうした中で、欧州規制の影響もあり、輸入車では欧州ブランドのEVが国内へ続々と上陸を果たしています。
また米国「テスラ」ブランドに対する支持も増え、韓国や中国からのEVも登場していますが、日系EVは当面の間、比較的安価な軽EVが主役という市場の流れになりそうです。
そのため日産としても、日本でのEVモデル市場導入は、欧州・中国・アメリカでの実需を踏まえて、段階的に考慮することになると見るのが妥当ではないでしょうか。
また軽EV市場には今後、ホンダ、スズキ、ダイハツの参入が発表されていることから、日産としても三菱と共同開発する軽EVの多モデル化を検討するはずです。
そして日産が示した2026年という、今から比較的短い通過点で電動化率を上げるのは、e-POWER搭載モデルのさらなる拡充が第一となるでしょう。
さらにその先の2030年代には、次世代日産のイメージリーダーとして、例えば「GT-R」のEV化などが話題になるかもしれません。
Writer: 桃田健史
ジャーナリスト。量産車の研究開発、自動車競技など、自動車産業界にこれまで約40年間かかわる。
IT、環境分野を含めて、世界各地で定常的に取材を続ける。
経済メディア、自動車系メディアでの各種連載、テレビやネットでの社会情勢についての解説、自動車レース番組の解説など。
近著に「クルマをディーラーで買わなくなる日」(洋泉社)。
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