1年戦って見えた「未来」とは カーボンニュートラル燃料使ってGR86&SUBARU BRZで挑んだ「S耐 鈴鹿」最終戦の結果はいかに
共に戦ったスーパー耐久シリーズ2022 最終戦はどんな戦いだったのか?
レース後、Team SDA Engineeringの本井監督に今回の総括を聞きました。
「この終わっていない感はなんでしょうね(笑)。
予選から決勝、序盤はいいバトルをしていたと思います。
絶対的なスピードでは勝てないのは解っていたので、戦略も色々な想定をしていましたが、それを活かすこともなく。
リタイヤの原因は燃圧センサーです。
実はほかのクルマで経験してきたことで、『対策がないよね』と気にしていた所でしたが、やはりサーキットでは出てしまいましたね」
さらに1年間GRとガチンコで戦ってきたことについても聞きしました。
「ここまで来られるとは正直思っていませんでした。
我々はレースの経験はない、エンジンは馬力を含めて違うので、『到底追い付かないな』と思っていましたが、蓋を開けたらエンジンもシャシも本当に速くなりました。
これは人の成長にもいえることですが、これはGRを含めた皆さんに鍛えてもらったおかげです。
実際にエンジニアの目の色が変わりましたからね。
ただ、ここでの経験・ノウハウを普段の業務に活かせるかが大事なことなので、そこはシッカリと繋げていこうと。
その一方、1年やってきて『手を入れたけどできないよね』という部分も解ってきました。
要するに、量産車でいえばビックマイナーチェンジのような変化も必要だなと。
2023年は『将来のスバル車の技術アイテムを盛り込むこと』、『このクルマで開発した部品や技術をユーザーに還元すること』を狙っています。
カーボンニュートラル燃料は我々としては完全に手の内化できたので、次の開発も進めています。
実はGRのマシンが有利になるところもありますが、ここは競争よりも協調で、世のためにはやっていかなければならないところなので」
※ ※ ※
続いてGRの藤原氏に聞いてみました。
「本音をいえば一緒にゴールしたかったです。もちろん、我々が1周勝っている前提ですが(笑)。
今回の結果は我々が勝ちですが、まだまだ課題は山積みです。
本来は木曜日の練習走行はセットアップをしなければいけませんが、変化点の潰し込みに追われてしまいました。
セットアップも色々トライしたものの、これまでの潜在的な課題も抜本的な解決には至らず。
外から見ていると順調そうに見えたかもしれませんが、タイヤのグリップに頼った走りで、我々が目指す『誰が乗っても安心・安全』にはまだまだ辿り着いていません」
さらに1年間SUBARUとガチンコで戦ってきたことについて伺いました。
「当初は設計の想いとドライバーが感じることにギャップがありましたが、コミュニケーションの量も質も上がると徐々にベクトルも揃ってきました。
この1年、レースの現場で開発をおこなってきたことで、ドライバーが感じたことをすぐにデータで確認して定量値に落とし込んで対策というデータを元にしたクルマづくりの大切さを学びました。
その結果、我々も自信を持ってドライバーに提案できるようになりました。
もちろん、車両の完成度という意味ではまだまだ道半ばですが、次に向けた『土台づくり』としての成果はあったかなと思っています。
この1年でもっといいクルマになるヒントをたくさん得ました。
GR佐藤プレジデントは『来年は骨格を変えます』といってしまったようですが(笑)。
現行モデルをベースに手を加えてきたフィードバックをシッカリと次のクルマに活かしていきたいです。
これからオフシーズン走る機会は減りますが、設計的にはやることはたくさんあるので、次に繋げていきたいと思っています」
このようにどちらのチームもすでに2023年に向けて色々動き始めています。長いようで短いシーズンオフですが、両メーカー共に休んでいる暇はなさそうな予感。
カーボンニュートラル実現への道はまだまだ続きますが、2022年はその選択肢のひとつであるカーボンニュートラル燃料をレースを通じて多くの人に知ってもらう “種まき”のようなシーズンだったと思っています。
筆者は来シーズン、その芽の成長をシッカリと見届けなければいけないなと。
そして、GR86/SUBARU BRZの次期モデルの開発もこの1年で通常の量産車開発の数倍以上の速さで物事が動いていたように感じました。
そのやり取りを包み隠さず見せ、語ってくれたGR/SUBARUの「本気」と、一緒にもっといいクルマをつくりたいという「強い想い」が、読者の方にも伝わったと信じています。
皆さんも両メーカーに「次期モデル、欲しいです!!」とエールを送ってあげてください。レースと同じで「声援は力」になりますから。
Writer: 山本シンヤ
自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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