専用車「JPN TAXI」あるのになぜ? コンパクトミニバン「シエンタ」にタクシー仕様「じわじわ」増殖中の謎

代替車種がほとんどないなかで唯一輝く「シエンタ」の存在

 しかもジャパンタクシーは、いくつか改善すべき点が事業者・乗務員・乗客から指摘されているといいます。

「例えば乗客との現金収受の際に小銭の置き場がない、日報を書くバインダーの置き場がない、設計上の問題で車椅子の乗降で時間がかかりすぎる、酔った乗客を乗せたとき、気分が悪くなっても右側リアドアの窓が開かない、『いざ』というときも電動スライドドアで開閉が遅いなど、さまざまです」

トヨタ「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」の急速な普及で東京の風景はすっかり一変した[画像はイメージです]
トヨタ「JPN TAXI(ジャパンタクシー)」の急速な普及で東京の風景はすっかり一変した[画像はイメージです]

「さらにこれはタクシー全体の問題でもあるのですが、日本中からLPGを補充するスタンドが減少しており、LPG専用のタクシーには不利な状況が作られつつあります。

 そのためジャパンタクシーの導入に躊躇している事業者があるのも事実です」(フタバシステム 松田 隆氏)

 こうしたさまざまな課題に対し、根本的な解消策を見出すことが難しいのだと松田氏はいいます。

「ジャパンタクシーの代わりになるタクシー用車を探した場合、かつては2代目・3代目『プリウス』や、ミニバン型の『プリウスα』もタクシーとしてよく使われていましたが、後継の4代目プリウスは屋根が低くタクシーには不向き。

 また4ドアセダンの『カローラアクシオ』や後継車の『カローラ』は、タクシー用としては後席が狭いという評価です」

 そこで、コンパクトで室内も広く荷物も積めて、リアがスライドドアで乗降性も良く、ジャパンタクシーと同じような姿をしているシエンタが注目されるようになったというのです。

「美点が多いシエンタですが、タクシー用車に選ばれた経緯は『消去法』だった、ともいえます。前述のようにLPGスタンドが減っているため、ガソリン車でハイブリッドの設定があるのも、シエンタのメリットです。

 ただし、2代目シエンタは当初7人乗りしかなかったので、構造変更をして2列・5人乗りに改造した事業者もありました。3列・7人乗りだとジャンボタクシーの扱いになってしまうのです。

 その後5人乗りの『ファンベース』が追加されたことで、シエンタは、タクシー用車として大幅に台数が増加しました。最初から5人乗り設定がある3代目の新型シエンタも、同様の理由でデビュー早々にタクシーへ採用され始めています」(フタバシステム 松田 隆氏)

 なお指摘を受けたトヨタも、「ジャパンタクシー」問題点はそのままにはしておらず、車椅子の乗降改善対応、電動スライドドア開閉速度のアップなど改善を地道に進めており、これからも販売台数は確実に増加していくでしょう。

※ ※ ※

 最後に松田氏に、なぜ「シエンタ」のライバルであるホンダ「フリード」のタクシーが少ないのかと聞いてみました。

「タクシー業界ではトヨタのブランドイメージが圧倒的に強いことに加え、トヨタの法人営業部は古くからタクシー事業者に強いことも挙げられます」

 いちタクシーファンとしては、いろいろな車種がタクシーで使われるのは楽しくもあります。これから先も、どんなクルマがタクシーに採用されるのか注目していきたいと思います。

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Writer: 遠藤イヅル

1971年生まれ。自動車・鉄道系イラストレーター・ライター。雑誌、WEB媒体でイラストや記事の連載を多く持ち、コピックマーカーで描くアナログイラスト、実用車や商用車・中古車、知られざるクルマの記事を得意とする。

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