開放感は要らない? キャンバストップやガラスルーフなぜ廃れたのか? 理由は流行以外にも
減った理由は「流行」以外にも
クルマの価格が全般的に高まった影響もあるでしょう。安全装備や運転支援機能が充実した結果、15年ほど前に比べると、クルマの価格は1.2倍から1.4倍に上昇しています。その一方で平均給与所得はこの25年間で概ね下がり続けています。
その結果、クルマの値上げとのバランスを取るため、小さなクルマに乗り替えるユーザーが増えました。この状況ではガラスルーフを装着する予算も確保しにくいといえるでしょう。RAV4のパノラマムーンルーフは14万3000円、ハリアーの調光パノラマルーフは19万8000円なので、割安な装備ではありません。
ガラスルーフを装着するクルマのユーザーからは「夏に車内が熱くなる」という話も聞かれます。価格の高いガラスルーフを装着したものの、開放感を味わえる喜びよりも車内が熱くなる不満が大きいと、次に買う時は普通のスチールルーフを選ぶでしょう。
このほかガラスルーフを装着すると、車両重量が増えて、燃費性能が悪化する欠点も生じます。ガラスは意外に重く、ガラスルーフの装着に伴うボディ補強も必要になるからです。
例えばRAV4の場合、パノラマムーンルーフを装着すると、車両重量が20kg増えます。カタログデータのWLTCモード燃費に変化は生じませんが、実用燃費は下がります。今後、燃費規制が厳しくなることも考えると、ガラスルーフはメーカーとしても積極的には採用しにくい装備になります。
一方、キャンバストップについては、老朽化した時の雨漏りが指摘されます。キャンバストップを閉めた時、ボディとの境目付近から雨漏りが生じるのです。開発段階では、豪雨を想定した雨漏りのテストも行って十分な耐久性を持たせていますが、屋根のない駐車場で10年前後を経過すると隙間も生じます。幌の手入れも必要になります。
またコンパクトカーの場合、キャンバストップの幌も薄手なので、外の音が車内に入りやすくなります。雨の日に鉄道の高架橋の下などで信号待ちのため停車すると、雨どいから漏れた大量の水がキャンバストップに降り注ぎ、ボタボタと安っぽい音を立てます。こういう場面でも、愛車が可愛いと思えるユーザーでないと、キャンバストップには耐えられないかもしれません。
以上のようにガラスルーフやキャンバストップは、複数の理由で採用車種を減らしました。特に大きな影響を与えたのは、開放感という情緒的な価値に対するニーズの変化です。
以前はクルマに開放感という楽しさを求めるユーザーが多く、ガラスルーフやキャンバストップの需要も高かったですが、最近は運転支援機能などの実用装備が注目されています。情緒的な価値観の変化という意味では、スポーツカーの人気が下がったことと、本質は同じかもしれません。
Writer: 渡辺陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。
エアウェイブは、三菱ではなくホンダです。
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