ベントレーのマスコットはフクロウだった! フライングBの歴史を辿る
ベントレーの象徴でもある「フライングB」のマスコットは、どのような経緯で生まれ、そして現在のデザインに至ったのか。その全容を探る。
一時は消滅した時期もあったベントレーの象徴
ベントレーの「翼」は、卓越したクラフツマンシップ、爽快なパフォーマンス、1世紀にわたる魅力的なストーリーの証として、世界中に知られる存在となっている。今回は、このシンボルがどのように生まれて進化してきたのかをご紹介しよう。
●フライングBマスコットの誕生
1920年代において、ボンネットマスコットは自動車を彩る究極のアクセサリーであった。この小さな彫刻が、エフォートレスなパワーとスピードを、スタイリッシュに知らしめる存在だったからだ。
ベントレーのウイングドBバッジをデザインしたゴードン・クロスビーは、ギリシャ神話のイカロスをモチーフとしたボンネットマスコットをデザインしたこともあった。ベントレーモーターズも最初のカタログに、このマスコットを掲載したことがあるが、著作権を侵害する恐れがあったため、生産されることはなかった。
その代わり、1920年代半ばからのクリックルウッド時代のベントレーには、初めてメーカーの正式なオプションとしてフライングBマスコットを設定。直立した「B」に翼を水平に取り付けたこのデザインは、クロスビーの手によるものと考えられている。
●ダービー期のフライングB
1930年代になって生産拠点がダービーに移ると、「サイレントスポーツカー」のようにクルマのフォルムはより低く、より洗練されたものになっていった。
そして1933年に、ロールス・ロイスのスピリット・オブ・エクスタシーのデザイナーとして知られるチャールズ・サイクスに、新しいマスコットの製作を依頼。
サイクスは、アール・デコ様式を取り入れて、どちらから見ても「B」が正しく読めるようなファセットを備え、「B」を前傾させて翼を片側だけに付けたフライングBマスコットを提案するも、片翼のマスコットは人気がなく、2つの翼を備えたデザインに変更。
また、MRシリーズやMXシリーズのベントレーには、スポーティさを強調するため、後方に傾斜したフライングBマスコットも用意された。このマスコットを選んだオーナーは、ボンネットを開ける前に、マスコットを横にひねっておかないと、マスコットがボンネットを傷付ける恐れがあった。
●フライングBの復活
第2次世界大戦後、小型バージョンなども含めた翼を2つ備えたフライングBマスコットは、1970年代までクルー製のベントレーに搭載されていた。しかし、歩行者との衝突時の安全性を保つための法規制がおこなわれると、ボンネット上の目立つ装飾は禁じられることとなり、フライングBマスコットは廃止された。
その後、2006年に完全に格納可能な機構を採用したことで法規制をクリアし、フライングBマスコットが復活。この格納式のフライングBマスコットは、「アズール」、「アルナージ」、「ブルックランズ」に採用され、「ミュルザンヌ」へと受け継がれる。
また、ベントレーのビスポーク部門を担うマリナーは、限定モデルにダークティントやゴールドといった標準仕様のクロームとは異なるフライングBマスコットを製作した。
●新時代のフライングB
ベントレー・モーターズが100周年を迎えた2019年、4ドアグランドツアラーの決定版ともいえる新型「フライングスパー」に、新たなフライングBマスコットが採用された。
「次の100年」を担うマスコットをデザインするため、ベントレーのデザイナーたちによるデザインコンペを実施。優勝したHoe Young Hwangによるデザインは、フクロウからインスピレーションを得たものだった。
フクロウは、何もない時はほぼ静止した状態だが、動き出すと驚くほどのパワーと俊敏さを発揮する。その性質が新型フライングスパーの特徴とよく似ていることから、Hoe Young Hwang のデザインが採用されることとなったのだ。
ミニマルで現代的なフォルムの新しいデザインは、穏やかな湖の上を滑空して獲物を追いかけるフクロウを表現したもので、マスコット基部の広がりは、フクロウが滑空で水面に描く航跡をイメージしている。
ステンレス製の新しいフライングBマスコットは、通常はタービンエンジンの製造時に用いられるプロセスを応用し、手作業でポリッシュ仕上げが施されている。車両を解錠すると電動でマスコットが展開し、ウェルカムシークエンスでは、ヘッドランプの点灯と同期して2つの翼が点灯する仕組みだ。
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