日産「シルビア」開発は白紙のまま… 一度はゼロだったトヨタはなぜ86やスープラを復活できたのか

トヨタはスポーツカー開発を他社に丸投げ?

 ちなみに他社を見ると、トヨタは「86」開発ではスバル、スープラ開発でBMWとタッグを組みました。口の悪い人は、「トヨタはスポーツカー開発を他社に丸投げした」といいますが、それは大きな間違いです。実はスポーツカーをビジネスとして成立させ“継続”するための環境作りの挑戦の一つだったのです。

トヨタ 新型スープラ(プロトタイプ)

 スバルはトヨタとタッグを組んだことで「BRZ」をラインアップできた上に、FR開発の知見がAWDに活かされています。BMWもトヨタとタッグを組んだことで、当初は従来モデルで販売終了予定だった「Z4」を継続できたともいわれています。

 また、マツダは1989年に初代ロードスターが登場して以降、一度も途切れることなく販売をしています。それを可能にした理由の一つが「多品目混流生産」です。専用ラインを作らず、一つのラインで複数の車種を組み立てることでスポーツカーでもシッカリと利益を出せる仕組みを作り上げていったのです。また量産効果と言う意味ではフィアットとの技術協力協定により開発されたNDロードスターがベースの兄弟、アバルト「124スパイダー」の存在も大きいです。

 このようにスポーツカー開発はもはや単独で成立するのが難しい状況で、どのメーカーもスポーツカー継続のために、今までとは違う新たな挑戦を行なっていたのです。

 では、日産のスポーツカーに未来はあるのでしょうか? そのヒントは戦略的提携を行なっているダイムラーにあるかもしれません。現行スカイラインの直4-2リッター直噴ターボはダイムラーから供給されていますし、インフィニティのプレミアムコンパクト「Q30/QX30」はメルセデスベンツGLAと基本骨格やメカニズムを共用して開発されています。逆にメルセデスベンツ初のピックアップトラック「Xクラス」は日産NP300ナバラの基本骨格とメカニズムを共用して開発されています。このような関係をスポーツカー開発に活かせると、次期フェアレディZやGT-Rのヒントが少し見えてくるかもしれません。

 また、FFスポーツに関しては、個人的な期待になりますが、ルノーメガーヌRSの兄弟車としてパルサーVZ-Rを復活させるとか、日本でも人気の新生アルピーヌA110の兄弟車として1975年東京モーターショーに参考出品されたコンセプトカー「AD-1」の復活など、もっとルノーとのアライアンス効果をより活かせるのでは? と思っています。

日産シルビア(S15)

 そして、多くの人が望んでいるのは「シルビア」の復活でしょう。実はトヨタ86が登場する数年前に市販化直前までプロジェクトが進んでいたようですが、リーマンショックの影響で開発中止になってしまいました。それ以降、スクープサイトでは様々な情報が流れていますが、残念ながら小型FRスポーツの計画は存在しません。

 また、日産は2017年に「NISMOロードカー」事業の拡大を発表しています。車種バリエーションも現在の2倍以上に拡大し、現在年間1万5千台の販売台数を2020年代前半には10万台近くまで引き上げる予定となっていますが、素のモデルに魅力がないとNISMOロードカーも輝きません。グローバルでは豊富な車種バリエーションを持っていますが、ホームである日本では「売りたくても売るクルマがない!!」と言う営業部門からの悲痛な叫びも問題点の一つでしょう。

 現在、日産は本来の自動車以外の事で話題になってしまっていますが、自動車メーカーである以上は“いいクルマ”を提供することで信頼関係の回復を期待したいところです。

【了】

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Writer: 山本シンヤ

自動車メーカー商品企画、チューニングメーカー開発を経て、自動車メディアの世界に転職。2013年に独立し、「造り手」と「使い手」の両方の想いを伝えるために「自動車研究家」を名乗って活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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