ヤマハ新型「NIKEN(ナイケン)」 雨天時でもコーナリング性能に死角なし
試乗会は驚きの連続で始まった。ヤマハ新型「NIKEN(ナイケン)」は、土砂降りの中でも安定感のあるコーナーリング性能を発揮した。
ヤマハ製バイクは曲がることが一番大事とは?
驚きとしか言いようがありません。どしゃ降りの雨で、路面には川のように水が流れていますが、ステップ裏のバンクセンサーとイン側に出したヒザのスライダーが路面と接するほどに車体をフルバンクさせてコーナリングできてしまうのです。
こんな雨の中、ヒザを擦ってコーナーを曲がるなんて、2輪のオートバイでは到底考えられません。フロント2輪、リア1輪のスリーホイーラー、ヤマハ『NIKEN(ナイケン)』だからこそ可能としています。
テストライドしたのは、その運動性能の高さを存分に味わうことのできるクローズドコース(日本サイクルスポーツセンター/静岡県伊豆市)でしたが、天気はあいにくの雨。ただし、ナイケンは雨天時のライディングで攻め込んでもお構いなしです。濡れてスリッピーな状況でも、スポーツライディングをタップリ楽しめます。
車体をリーン(傾けて)させて曲がる「LMW=リーニングマルチホイール」機構は、すでに『トリシティ』(125cc/155cc)で導入・実証済みですが、ヤマハは排気量845㏄の並列3気筒を積んだ大型スポーツモデルへと昇華させ、また新たなるジャンルへと一歩を踏み出したのです。
「アッカーマン・ジオメトリ」という新ステアリング機構を追加し、左右輪がより深く傾いたときに発生する前2輪のガニ股傾向を解消。車体が大きく寝かし込まれても2つのタイヤが絶えず同じ方向を向いて滑らかにコーナリングさせることができます。トリシティで38度だった最大傾斜角を、ナイケンでは45度とさらに深めました。
これまで味わったことのないフロント接地感の高さで、コーナーでは安心して車体をグイグイ寝かし込めます。
フロントまわりのボリューム感、そしてタイヤの支点からハンドル軸をライダー寄りに後退させた2軸機構を見たとき、ハンドリングの軽快性が損なわれているのではないかと懸念しましたが、走ってみると2輪のバイクと同じように、ライダーがヒップや腰から進行方向へシートに荷重をかけ、視線をコーナーの出口方向へ向けると素直に車体がイン側へ倒れていき、シャープに旋回してくれます。
ヤマハのオートバイは、昔も今もコーナリング性能に優れるとバイクファンの間で評判ですが、3輪となってもそれは変わりません。
旋回性の高さは、開発陣がこだわったところで、プロジェクトリーダーの鈴木貴博さん(ヤマハ発動機株式会社モビリティ技術本部)は、「コーナリング性能はどうなんだ?」と、事あるごとに会社上層部から尋ねられたと言います。
右へ左へ軽快にカーブを曲がっていると、「うちは曲がることが、とにかく大事なんですよ」と、自虐的に笑っていた鈴木さんの言葉が脳裏に浮かび、さらに説得力を高めるのでした。
コーナーでさらに車体を深く倒し込み、アクセルを大きく開けていくと、最終的にはリヤタイヤがスリップし始めます。瞬間的にフロントがイン側に巻き込まれ、もし2輪なら転倒へと至ったかもしれませんが、フロントに2輪ある為、即座にグリップを取り戻し、何事もなかったかのように安定したまま旋回を続けます。
ウェット路面でも車体を目一杯にバンクさせることができ、狙ったラインを外しませんし、ブレーキングもよりハードにかけられ、高い制動力を発揮します。旋回中にフロントブレーキを掛けるのは、2輪車では避けたいところですが、それも許されるのです。