異例の「ミッドシップ4WD」に迫る! 開発中の「GRヤリス」に試乗! 開発現場で見えた進化と課題とは
GAZOO Racingがスーパー耐久シリーズで開発を進める「GRヤリスMコンセプト」。エンジンを後方に搭載したミッドシップ4WD車両はどのような進化を遂げているのでしょうか。Toyota Technical Center Shimoyama テストコースでの同乗および試乗を通じて、その走りと開発陣の挑戦の現在地をレポートします。
トヨタ「GRヤリスMコンセプト」試乗! 異例のミッドシップ4WDの開発現場
GAZOO Racingがモータースポーツを起点としたクルマづくりとして開発を進める「GRヤリスMコンセプト」。
市販車のフロントヘビーな特性を解消すべく、エンジンを車体後方に配置した特殊な車両です。
今回、Toyota Technical Center Shimoyamaで開催された取材会に参加し、プロドライバーによる同乗走行とダートコースでの試乗を通じて、ミッドシップ4WDの最新状況と開発の難しさを体感してきました。現状と今後の展望を解説します。

異例のミッドシップ4WDとは
GRヤリスMコンセプトは、GAZOO Racingが開発を進めている特殊なレイアウトを持つ実験的な車両です。
ベースとなっているのは、GRヤリスです。
通常のGRヤリスは、車両前方にエンジンを配置するフロントエンジン4WDというパッケージを採用しています。
しかし、この構造上「止まる・曲がる・走る」というクルマの基本機能がフロントタイヤに集中する特性を持っていました。
その結果、フロントタイヤへの負荷が極端に大きくなり、コーナリング中にステアリングを切ってもドライバーの意図した通りに車両が曲がっていかない「アンダーステア」という現象が課題に。
この旋回時の挙動に対して、モリゾウ氏(豊田章男会長)や開発陣の間では「神に祈る時間」と呼ばれており、タイムを削る上で解消すべき大きな障壁として認識されていました。
このフロントタイヤへの負荷集中という課題を根本から解決するために生み出されたのが、重量物であるエンジンを車体後方に配置するミッドシップレイアウトです。
同時に、走行安定性を確保するために四輪駆動システムを維持した「ミッドシップ4WD」という、トヨタとしても極めて異例なレイアウトが採用されることになりました。
公開開発が歩んできた歴史
このプロジェクトの原点は、2021年のスーパー耐久シリーズの現場に遡ります。
レースを通じた車両開発の現場で、モリゾウ選手による「ミッドシップにしよう」という発案から開発がスタート。
開発初期段階となる2023年1月には、雪上路面であるフィンランドにおいて、1.6リッターエンジンを搭載した試作1号車が完成し、走行テストを開始しました。
その後、テストに参加したドライバーたちからのフィードバックをもとに、搭載するエンジンを2.0リッターへと大型化する方針が決定されています。
そして、2025年1月の東京オートサロンにおいて「GRヤリスMコンセプト」として初めて一般公開されました。
このモデルには、「マルチパスウェイ」というトヨタ経営の軸に基づき、カーボンニュートラルに向けた現実的な手段として開発された新しい2リッター直列4気筒ターボエンジン(G20E)が搭載されています。

同年10月のスーパー耐久岡山大会では、このMコンセプトが実戦デビューを果たしました。
レースの過酷な環境下でクルマを走らせ、壊し、そこで得られたデータを次の開発に反映させる「公開技術開発」という手法が取られています。2026年シーズンも引き続きスーパー耐久に参戦し、現場での課題抽出と改善が繰り返されています。

スーパー耐久仕様の最新状況と課題
実戦投入から現在に至るまで、新たなパッケージならではの技術的課題も。
2026年のスーパー耐久開幕戦もてぎの段階において、開発エンジニアの市瀬氏は大きく2つの問題を挙げていした。
1つ目は、車両のコーナリング挙動に関する課題です。フロントヘビーを解消するために重量のあるエンジンを後方に配置した結果、旋回時に車体後部へ遠心力が強く働くようになりました。
これにより、後輪のグリップが限界を超えやすくなり、スピンを誘発するオーバーステア傾向が発生していたようです。
2つ目は、エンジン周りの冷却性能の不足です。エンジンが車体前方にある場合は走行風が直接当たりますが、後方配置ではエンジン自体に風が入りにくくなります。
そのため、温度管理をラジエーターの機能のみに依存する形となり、「冷やす」ことに苦戦していたようです。
これらの課題を解消するため、2026年仕様では車体下部の空力設計が大きく変更されました。
ニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦車両の技術を導入し、車体の底面を後方まで平坦化し、リアディフューザーを設けることで空気を効果的に流し、後輪のダウンフォースを獲得する構造となっています。
また、冷却対策として、底面の部品間に意図的に段差を作り、その隙間からエンジンルーム内へ空気を引き込む工夫も施されています。現在は、このダウンフォースの確保と冷却性能の両立を探るテストが続いています。

佐々木選手が語る現在の課題
今回の取材会では、実際にスーパー耐久でGRヤリスMコンセプトのステアリングを握っているプロドライバーの佐々木雅弘氏から、開発の最前線における課題を聞けました。
なおGRヤリスMコンセプトは開発試作車となるため、複数の仕様が存在します。初期段階では空冷をテストしていたものや、1.6リッター仕様のもの。
そして現在は、東京オートサロンで展示された新開発エンジン仕様とスーパー耐久仕様を使い、開発を進めているといいます。
そんなRヤリスMコンセプトですが、佐々木氏は操作性の面での課題として「スロットルレスポンスが悪い」という点を指摘しています。
「エンジンが後方にあり配管が長くなっているため、アクセル操作に対するラグが生じている。ミッドシップ車両はスロットル操作に対してダイレクトに駆動力が伝わらないと、コントロールが非常に難しくなる」と語り、前述のように初期では空冷式もテストしていましたが、この問題を解決するために現在は水冷式インタークーラーなどを導入してレスポンスを上げるテストを行っていると言います。
冷却面についても「開発当初は走れないほど温度が上がってしまった」と振り返ります。「ラジエーターを寝かせたり、配置を変えたりと様々な工夫を施し、現在は走行できる状態にはなっている。水温は100度を超えてしまうが、それを超えても問題なく機能するように設計している」と、過酷な熱環境下での開発状況を説明しました。
レスポンスや加速感を損なわずに熱対策を行うことの難しさを語っています。
さらに、サスペンションのジオメトリー(アームの取り付け位置など)についても言及しました。「ミッドシップ特有のピーキーな難しさをマイルドにするために、アンチダイブやアンチリフトなどのジオメトリーを調整できるように作っている」と述べる一方で、「シャープな動きをマイルドにしすぎると、ミッドシップ本来の楽しさが失われてしまう」という開発上のジレンマもあるようです。
また、4WDシステムを採用した理由については「ミッドシップの操作の難しさを、フロントタイヤのトルクで逃がすため」と説明します。
「前後駆動力配分を0対100から50対50まで可変できるように設定しており、センターデフの配置もフロント側に置くことで制御を行っている」と、複雑な駆動制御の意図を教えてくれました。

開発中車両の同乗で感じた凄み
取材会では、Toyota Technical Center Shimoyamaの第3周回路にて、佐々木雅弘選手の運転による同乗走行が行われました。
用意された車両は、東京オートサロン2025に出展されたモデルで、新開発の2.0リッター直列4気筒ターボエンジン(G20E)を搭載した仕様です。
第3周回路はニュルブルクリンクを模した設計となっており、路面のアップダウン、ブラインドコーナーが連続する非常に過酷なコース環境です。
佐々木選手は事前に「現在の仕上がりはピーキーであり、本当に上手い人でないと扱えない」と語っていましたが、実際のコース上では小刻みなステアリング操作と、繊細なアクセル、ブレーキのコントロールを駆使しながら車両を走らせていました。
助手席から体感したその走りは、従来のフロントエンジンのGRヤリスとは明確に異なる質感です。
とくに、路面の起伏によって車体がジャンプし、着地した際の姿勢制御や、コーナリング中の車両の向きの変わり方において、重量物が中心付近にあるミッドシップ特有の挙動が感じられました。
また、プロドライバーの高度な操作をもってしても、所々で車両のピーキーな挙動が顔を出し、限界領域におけるコントロールの難しさと、ミッドシップ4WDならではの独特な運動性能が伝わってきました。

ダートコースで自ら試乗し体感
続いて、施設のダートコースにて、筆者自身がステアリングを握り、開発初期段階の試作車両を試乗する機会も。
試乗車両は、1.6リッター直列3気筒ターボエンジンを搭載した試作1号車(MT)です。比較体験として、通常のフロントエンジンレイアウトを持つGRヤリス(DAT)のラリー仕様にも試乗しました。
まず通常のGRヤリスでダートコースを走行しました。フロントに重いエンジンが配置されているため、コーナーへ進入する際にはブレーキなどで前輪に荷重をかけるきっかけを作らないと、車両がイン側に向きを変えにくいという従来のフロントヘビーな4WD車の特性を確認できました。
次に、ミッドシップレイアウトの試作1号車に乗り換えます。走り出しから、フロント部分の明確な軽さを体感することができました。コーナーへの進入時も、ステアリングの操作に合わせて自然に車両のノーズがイン側へ入り込んでいきます。
さらに、ステアリングを切り込んだ状態でアクセルを踏み込むと、フロントが引っ張りつつも後輪が自然に外側へスライドする挙動を示しました。滑りやすいダート路面という条件もあり、アクセルワークによる姿勢制御が容易で、回頭性の高さを実感。
限られた試乗時間ではありましたが、エンジンの搭載位置がフロントからリアに変更されることで、車両の運動性能がこれほどまでに根本的に変化するという事実を身をもって理解することができました。

開発の今後は?
GRヤリスMコンセプトの開発は、スーパー耐久シリーズという実戦環境を用いた「公開技術開発」を通じて、現在も進行しています。
これまでの取材や今回の試乗を通じて、新たに挑むミッドシップ4WDの難しさを改めて知ることが出来ました。
なお佐々木さんは新開発エンジンについて「もっとパワーが欲しい」ともコメント。ボディやレイアウトだけでなくエンジン自体の進化もまだまだ終わりは見えないようです。
最終的な目標は一般市場での市販化に設定されていますが、現段階では課題が多く残されています。
そんミッドシップ4WDの行方について、GR統括部チーフエンジニアの齋藤尚彦氏は「あくまでもGRヤリスファミリーです」と意味深な発言も。
噂の新モデルに搭載されるのかはまだまだ不明ですが、レースの現場で生じた課題に対して、パワートレインから足回り、空力に至るまで様々なアプローチで改善を重ねるその開発姿勢は、妥協を許さないクルマづくりを体現しており、今後の動向からも目が離せません。
Writer: くるまのニュース編集部
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