長野・静岡・愛知むすぶ「点線国道」解消なるか “酷道152号”の最難所「青崩峠トンネル」が拓く未来とは
酷道ファンにも知られる国道152号の最大難所「青崩峠」。地図上で点線となっているこの「開かずの国道」に、ついに風穴が開きます。三遠南信自動車道・青崩峠道路の開通が極めて近い将来に迫るなか、日本の土木技術が挑んだ難工事の現状と、県境を貫く新ルートがもたらす劇的な変化に迫ります。
国道152号の「不通区間」を解消する悲願の道路
長野県飯田市と静岡県浜松市を結ぶ壮大なプロジェクト、三遠南信自動車道の整備がいよいよ佳境を迎えています。
中でも最大の難所とされてきた県境エリア、「青崩峠(あおくずれとうげ)」を貫くトンネル工事が極めて近い将来の開通を見据える段階に至りました。
長らく「点線国道」として行き来が阻まれていたこの場所に、新たな風穴を開ける「青崩峠道路」の現状と、それがもたらす地域の変革について解説します。

本州の中央部を縦断し、長野県、愛知県、静岡県の三県をつなぐ高規格道路網として整備が進められているのが三遠南信自動車道(国道474号)です。
全線がつながれば、中央自動車道と新東名高速道路が直結し、太平洋側と日本海側、そして内陸部との物流や観光の流動を一変させるポテンシャルを秘めています。
しかし、その道のりは平坦ではありませんでした。特に長野県飯田市南信濃と静岡県浜松市天竜区水窪町の間には、標高1000メートル級の「青崩峠」が立ちはだかっています。
ここは現在の国道152号において車両の通行が不能な区間となっており、ドライバーは細く険しい林道(兵越峠)への迂回を余儀なくされてきました。
このボトルネックを解消するために建設が進められているのが、延長5.9kmの自動車専用道路「青崩峠道路」です。
計画では、仮称となる長野県側の「小嵐インターチェンジ」から、静岡県側の「水窪北インターチェンジ」までを、設計速度時速60km、車線幅9.5m(トンネル部)の第1種第4級道路として結びます。

【地質の壁を乗り越えた「日本の土木技術」の結晶】
青崩峠がなぜ長年にわたり交通の要衝でありながら「不通」であったのか。その理由は、この地特有の地質構造にあります。
この地域は、関東から九州へと日本列島を横断する巨大な断層「中央構造線」の真上に位置しています。
「青崩」という地名が示す通り、このあたりの岩盤は地殻変動の影響で極めて脆く、青みを帯びた岩が崩れやすいという特徴を持っています。
過去の調査でも「トンネルを掘るにはあまりに地質が悪すぎる」とされ、長らく道路建設が困難視されてきた経緯があります。
しかし、地質調査技術や掘削技術の進歩により、この難工事に挑むことが可能となりました。
崩落を繰り返す険しい地形を回避し、地中の安定した部分を探り当てて掘り進められたトンネルは、まさに日本の土木技術の結晶とも言える存在です。
これまでの「酷道」や迂回路での苦労が嘘のように、わずか数分で県境を安全に通過できる日が目前に迫っています。

【災害時の「命の道」として高まる期待】
青崩峠道路の開通は、単なる移動時間の短縮以上の意味を持ちます。それは、地域住民の命を守る「ライフライン」としての役割です。
この地域は過去にも豪雨災害に見舞われており、2010年(平成22年)7月の豪雨の際には、土砂崩れによって集落が孤立する事態が発生しました。
現行の迂回路である市道や林道は狭隘で脆弱であり、災害時には寸断されるリスクが常に伴います。
特に長野県側の遠山郷(旧南信濃村・旧上村)では、救急搬送の約8割が高齢者という現状があり、一刻を争う事態に静岡県側の高度医療機関へアクセスできなくなることは致命的です。
強靭なトンネル構造を持つ青崩峠道路が完成すれば、雨量による通行規制や土砂災害のリスクから解放されます。
飯田市と浜松市を結ぶ強固な交通軸が確立されることで、救急医療サービスへのアクセスが安定し、広域防災ネットワークとしての機能が飛躍的に向上することが確実視されています。
【交流新時代の幕開けと地域連携シンポジウム】
トンネルの開通は、観光や経済面でも大きなインパクトを与えます。
これまで峠によって隔てられていた長野県の「遠山郷」と静岡県の「奥山郷」が一本の線で結ばれることで、三遠南信地域の一体化が加速します。
データによれば、遠山温泉郷を訪れる観光客の約6割は静岡や愛知方面からの来訪者です。
道路が開通すれば、北遠・奥三河地域や下伊那地域において、高速道路のインターチェンジまで60分以内で到達できる人口カバー率がほぼ100%に達すると試算されています。
これにより、都市部からの観光客誘致だけでなく、日常的な生活圏の拡大や経済交流の活発化が期待されています。
こうした「極めて近い将来」の開通を見据え、2025年11月23日には飯田市の南信濃地域交流センターにて、地域住民や国土交通省の関係者が一堂に会する集会が開催されます。
当日は、国土交通省中部地方整備局の担当者による特別講演や、県境を越えた両地域の住民代表によるパネル討論が行われ、トンネル開通後の地域振興策について熱い意見が交わされたようです。
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長きにわたり「地図上の空白」だった青崩峠がつながる瞬間は、もうすぐそこまで来ています。
物理的な壁だけでなく、心理的な距離も縮めるこの新しい道路は、三遠南信地域の未来を明るく照らす希望の光となるでしょう。
Writer: くるまのニュース編集部
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