ダイハツの斬新「ひろびろ“軽バン”」がスゴい! 全長3.4m級「ちいさなサイズ」に「巨大ガルウイング」搭載!? 今すぐ“開店”できちゃう大型空間の「テンポ」コンセプトに注目

2015年に登場したダイハツ「TEMPO」は、「走る店舗」という斬新なコンセプトで注目を集めました。ガルウイングドアまで備えたこのクルマは、なぜ市販化に至らなかったのでしょうか。

めちゃ便利そうな「走る“店舗”」に注目

 2025年10月29日から11月9日まで開催された「ジャパンモビリティショー2025」では、今回も数々の斬新なコンセプトカーに注目が集まりました。

 過去を振り返ると、大反響を呼びながらも市販化には至らず、しかし後のクルマづくりに影響を与えた興味深いコンセプトカーが存在します。

 その一台が、車体側面が巨大なガルウイングドアで開き、そのまま「店舗」になるという衝撃的な「軽バン」でした。

ダイハツの斬新「ひろびろ“軽バン”」に注目!
ダイハツの斬新「ひろびろ“軽バン”」に注目!

 2015年10月末、第44回「東京モーターショー」の会場は異様な熱気に包まれていました。ダイハツブースで世界初公開された「TEMPO(テンポ)」が、絶え間ない人だかりを作っていたのです。

 その姿は「かわいいルックスだけでなく、ハイレベルな機能性も秘める」と評価され、国内外から高い注目を集めました。

 来場者からは「すぐ使いたい」と、単なる未来の夢ではなく即戦力のビジネスツールとして熱い視線が注がれ、カウンターからコーヒーを提供する実演も行われるなど、「走る店舗」としての機能を強烈にアピールしていました。

 TEMPOが目指したのは、「新ジャンルスペース系商用車」という、これまでにない移動販売車の形でした。車名は「TEMPO」と日本語の「店舗」を掛けたもので、まさに「走るお店」を体現しています。

 開発の背景には、従来の商用車を敬遠しがちな層に向けた新しい市場の開拓という狙いがありました。これは思いつきではありません。

 ダイハツには「ミラ ウォークスルーバン」や、移動販売に特化した「ミラ ミチート」といった革新的モデルの歴史があり、TEMPOはその精神的な後継でもあったのです。

 この「伝統の復活」は、当時のダイハツの経営戦略とも密接に結びついていました。

 ダイハツは次世代プラットフォーム戦略(後のDNGA)を推進中で、TEMPOは「D-Base」(後のミライース)や「HINATA」(後のムーヴキャンバス)など他のコンセプトカーとともに、乗用車主体のFFプラットフォームを「商用車」の領域まで展開できるかを探る、戦略的な「試金石」の役割も担っていたのです。

 TEMPOのデザインは、その機能と完全に一体化していました。

 ボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1995mmという軽自動車規格めいっぱいに使った大きさでした。

 最大の特徴は助手席側に採用された巨大なガルウイングドアで、LED照明を内蔵し、開けばそのまま雨よけと商品を照らすスポットライトになります。

 ボディ側面には「デジタルサイネージ」を看板として備え、インテリアにはショーケース一体型のカウンターテーブルを装備しています。リアからも商品を陳列できる設計でした。

 この斬新な空間を実現したのが、当時の軽商用バンとしては異例のFF(前輪駆動)プラットフォームの採用です。

 これにより低くフラットな床と、乗用車のような運転のしやすさを両立。公式スペックは明言されませんでしたが、ベース車両とされる「ウェイク」などと共通の660ccターボエンジン+CVTの搭載が想定されていたようです。

 しかし、これほどまでに完成度の高いクルマが市販化されることはありませんでした。

 ダイハツから公式な理由は示されていませんが、そこには大きく3つの「壁」が存在したと推察されます。

 第一の壁は「コスト」です。LED照明付きの巨大なガルウイングドアやデジタルサイネージ、一体型カウンターは量産効果の見込めない専用設計が多く、軽自動車の価格帯で実現するには製造コストが膨らみすぎた可能性があります。

 第二の壁は「市場のニーズ」です。移動販売車の多くは、安価なベース車を自由にカスタマイズできる柔軟性を重視する傾向があり、TEMPOの完成された固定レイアウトはニッチすぎたと考えられます。

 そして第三の、最も大きな壁が「社内戦略」です。2015年の同ショーで、ダイハツは後の大ヒット車「ムーヴキャンバス」の原型となるHINATAも発表。限られた開発リソースを、ニッチなFF商用車のTEMPOではなく、量販が確実に見込めるFF乗用車のHINATAに集中させるという経営判断がなされた可能性もあるでしょう。

 しかし、その情熱と技術は決して無駄にはなりませんでした。TEMPOが提示した「FFプラットフォームによる、乗用車のように快適な軽商用車」という中核コンセプトは、その華美な装飾を取り払い、より現実的な形で市販化されます。

 TEMPOの発表からわずか8ヶ月後の2016年6月、軽スーパーハイトワゴン「ウェイク」の車体をベースにした「ハイゼットキャディー」こそ、TEMPOの夢を受け継いだ直系のモデルだったのです。

 もっとも、耐久性や積載時の駆動力、FRならではの小回り性能を重視する軽商用市場の「プロ」層には受け入れられず、ハイゼットキャディーは2021年3月に一代限りで生産終了。先進的な理念に対し、既存市場の要請は強かった、という現実的な「答え」が示された形となりました。

 ただし、市販車が一代限りで終わったからといって、TEMPOの価値が失われたわけではありません。

 市販の成否とは別に、「働く人に寄り添う快適な商用車」という思想の種をまき、FF軽商用車の可能性を業界に提示したことこそ、このコンセプトカーの最大の功績といえるでしょう。

 そのDNAは、形を変えて今後のダイハツの企画に影響を与え続けていくのかもしれません。

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Writer: 佐藤 亨

自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。

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