スバルの「“2人乗り”オープンSUV」! 全長4.2mの「小さなボディ」&水平対向エンジン採用! パワフルな“ハイブリッド”で楽しそうな「B9スクランブラー」とは
スバルがかつて発表した「B9スクランブラー」は、ボタン一つで車高が変わるという革新的なハイブリッド・ロードスターでした。多くのファンを熱狂させたこのクルマは、はたしてなぜ市販されることはなかったのでしょうか。
スバルの「“2人乗り”オープンカー」!?
2025年10月末に開催された「ジャパンモビリティショー2025」では、各メーカーが発表した未来のコンセプトカーに注目が集まりました。
過去のモーターショーを振り返ると、大きな反響を呼びながらも、さまざまな理由で市販化に至らなかった興味深いコンセプトカーが少なくありません。
その1台が、2003年の「第37回東京モーターショー」で姿を現したスバルのコンセプトカー「B9スクランブラー」です。

スポットライトを浴びて登場した瞬間、会場はどよめきに包まれました。伝統的なスバルファンは戸惑い、新しい時代の到来を予感した人々は熱狂・賛否両論の渦がその場で生まれたのです。
このクルマの背景には、2000年代初頭のスバルが掲げた「デザイン改革」と、新たなブランド価値の創造という大きな目標がありました。
元アルファロメオのデザイナー、アンドレアス・ザパティナス氏の哲学が色濃く反映され、「エモーショナルな価値の提供」が開発の核に据えられていました。
コンセプトは「ロードスターの走る愉しさ」と「SUVの自由な活動領域」の融合。週末に都会を離れ、自然の中でアクティブに過ごすという新しいライフスタイルを提案する、夢のコンセプトでした。
B9スクランブラーの革新性は細部に宿ります。エクステリアは、航空機をモチーフとした「スプレッドウィングスグリル」とクラシカルな丸型ヘッドライトの組み合わせが特徴でした。
同年初頭のジュネーブ・モーターショーで披露されたコンセプト「B11S」に端を発するテーマで、日本ではB9スクランブラーが鮮烈なデビューを飾りました。
「光り輝く上半身」を表現する無塗装アルミと、軽微な接触による凹みを防ぐ「耐デント性ボディパネル」を「機能的な下半身」に採用するなど、異素材の大胆な融合も見どころです。
全長は4200mmと比較的コンパクト。最大の特徴であるエアサスペンションにより、車高はオンロード向けの150mmからオフロード向けの200mmまで自在に可変できました。
インテリアは、アルミ骨格がのぞくシンプルかつ上質な空間で、タン色のレザーシートがアクセント。プロトタイプらしい素地の表現と、実用への配慮が共存していました。
心臓部には、スバル初のハイブリッド「SSHEV(シーケンシャル・シリーズ・ハイブリッド・システム)」を搭載。2.0リッター水平対向エンジン(140PS)とモーター(136PS)を組み合わせ、低速域はモーターのみ、高速域はエンジン主体で走行する先進的な構成でした。
さらに、後の「EyeSight(アイサイト)」につながる先進運転支援「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」も装備。従来のステレオカメラにミリ波レーダーを組み合わせた当時最先端のシステムで、スバル安全技術史のマイルストーンとなりました。
それほど完成度が高かったにもかかわらず、市販化は実現しませんでした。その最大の理由は、SSHEVの複雑さやエアサスペンションなど、量産に求められる技術的・金銭的ハードルがきわめて高かったためと考えられます。
そもそも量産を意図したモデルではなく、デザインと技術の方向性を示すスタディであった側面も大きく、コンセプトは時代を先取りしすぎていたといえるでしょう。
とはいえ、B9スクランブラーが残した「遺産」は小さくありません。まずはデザイン面。象徴であるスプレッドウィングスグリルは、のちにSUV「トライベッカ」や軽自動車「R1」「R2」に採用されました(結果として比較的短命ではあったものの、強い印象を残しました)。
もう一つは「思想」の継承です。「オンロードもオフロードも愉しめるクロスオーバー」という発想は、その後の大ヒット作「XV(現・クロストレック)」で花開きます。
スバルの「退屈なクルマは作らない」という考え方を体現したB9スクランブラーが示した夢の続きは、今もスバルの現行ラインアップの中で走り続けているのです。
Writer: 佐藤 亨
自動車・交通分野を専門とするフリーライター。自動車系Webメディア編集部での長年の経験と豊富な知識を生かし、幅広いテーマをわかりやすく記事化する。趣味は全国各地のグルメ巡りと、猫を愛でること。






























