トヨタが「事故ゼロ」へ本気示す! 「インフラ協調」「人の先読み」で変わる未来のクルマとは
トヨタは2025年10月21日、安全安心なモビリティ社会を目指す「知能化」技術の進捗を発表しました。究極の目標「交通死亡事故ゼロ」の実現に向け、従来のクルマ単体での進化を超え、「インフラ」や「人」と協調する新たなアプローチが鍵となります。その詳細と、これらを支える新ソフトウェア基盤「Arene(アリーン)」の役割を解説します。
トヨタが描く「事故ゼロ」社会への新戦略 「三位一体」が鍵
トヨタ自動車は2025年10月21日、安全安心なモビリティ社会を目指す「知能化」技術の進捗を発表しました。
究極の目標「交通死亡事故ゼロ」の実現に向け、従来のクルマ単体での進化を超え、「インフラ」や「人」と協調する新たなアプローチが鍵となります。
その詳細と、これらを支える新ソフトウェア基盤「Arene(アリーン)」の役割を解説します。

発表会の冒頭、トヨタのデジタルソフト開発センター・皿田明弘氏は、知能化技術が目指すのは「トヨタらしいSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」であり、その根幹は「安全安心を第一に考え、交通死亡事故ゼロ社会を実現すること」だと力強く語ります。
これまで自動車メーカーは、クルマ自体の安全性能を高めることで事故削減に貢献してきました。
しかし、その効果も近年は頭打ち傾向にあり、日本の交通事故事傷者数は横ばいとなっています。
皿田氏は、特に「視界の悪い交差点での出会い頭事故」や「歩行者・自転車の予期せぬ飛び出し」といった、クルマ単体での対応が難しい事故が依然として多く発生している現状を指摘。
この課題を乗り越えるため、トヨタは「クルマ」単体の進化だけでなく、「インフラ」、そしてドライバーや歩行者といった「人」を含めた「三位一体」での取り組みが不可欠であると強調しました。
そのなかで今回の発表では、この三位一体を実現するための2つの柱、「インフラとの協調技術」と「人の行動予測」に関する具体的な進捗を示しています。
三位一体の取り組みの一つ目、インフラ協調とは、クルマのセンサーだけでは補えない情報を、道路側のインフラがサポートする技術です。
例えば、見通しの悪い交差点では、ドライバーやクルマのセンサーからは見えない位置にいる他の車両や歩行者を、交差点のポールなどに設置されたセンサーが検知します。
これは、単に静的な死角を補うだけではありません。渋滞している対向車の陰から右左折しようとする際など、状況によって生まれる「動的な死角」に対しても有効です。
道路インフラが「目」となり、見えない危険をドライバーにリアルタイムで伝えることで、安全な交差点通過を支援します。
このインフラ協調を実現する上で最大の壁となるのが「通信の遅延」です。
交差点では、多数のクルマ、歩行者、自転車が刻一刻と動いています。これらの情報をリアルタイムで交換するには、膨大なデータを遅れなく処理する強固な通信基盤が欠かせません。
従来の方法では、センサーデータを一度遠くのクラウドに送信して処理・返信するため、場合によっては10秒近くのタイムラグが発生することもありました。これでは、高速で移動するクルマの安全支援にはなりません。
この課題を解決するため、トヨタは通信事業者と連携し、新たな技術を導入しています。
一つは、道路の近くに小型のサーバー(クラウド)を配置する「エッジコンピューティング」。物理的な距離を縮めることで、データ処理の時間を大幅に短縮します。
さらに、通信が混雑しても途切れないよう、5G技術を活用した「専用レーン(優先レーン)」を確保。これにより、遅延を限りなくゼロに近づける「遅れのない通信」を目指しています。
将来的には、通信状況を「先読み」し、途切れる前に最適な通信経路へ自動で切り替える技術も開発中とのことです。
強固な通信基盤とインフラセンサーが整備された次にトヨタが目指すのが、事故を未然に防ぐ「先読み」技術です。
これは、インフラや他のクルマから収集した交通全体の情報を俯瞰し、「数秒先にどのようなリスクが発生しうるか」をAIが分析・予測するものです。
そして、予測されたリスクを、危険が現実になるより「前もって」ドライバーや歩行者に伝えることが重要だと説明されました。
デモンストレーションでは、夜間・雨の交差点での右折シーンにおいて、ドライバーは対向車にばかり気を取られ、横断歩道を渡ってきた歩行者の発見が遅れ、急ブレーキを踏むというヒヤリハットが再現されます。
しかし、同じ状況を「先読み」技術ありのシミュレーターで体験すると、ドライバーが右折のタイミングを計っている余裕のある段階で、AIが「対向車だけでなく、横断歩道にも注意しないとね」と穏やかに助言。
この一言により、ドライバーはハッとして歩行者側へも意識を向けることができます。危険が差し迫ってから警告するのではなく、事前に気づきを与えることで、ドライバーの安全な行動を自然に引き出す(行動変容)。これが先読み技術の狙いです。
さらにトヨタは、先読み技術の第二段階として、「交通(クルマの外)」だけでなく「人(ドライバー)」の状態や行動を先読みする「AIエージェント」技術を公開しました。
デモでは、夫婦の会話中に運転するドライバーが描かれます。AIエージェントがいない「ビフォー」の状況では、妻との会話で脇見をしたり、返答に焦ったりするうちに注意力が散漫になり、交差点でヒヤッとする場面がありました。
ところが、AIエージェントがいる「アフター」の状況では、運転が大きく変わります。
まず、他車が危険な割り込みをした直後、ドライバーがイラっとする前にAIが「危なかったね」と声をかけます。これは、AIがドライバーに代わって感情を表現することで、ドライバー自身は冷静さを保てるという心理学的なテクニックを活用したものです。
さらに、ドライバーが会話によって焦り始め、注意力が散漫になっている「心境」と、これから差し掛かるのが「夕暮れ時で人が多い交差点」であるという「環境」をAIが統合的に理解。最適なタイミングで「ここ左折注意!」と注意を促し、同時にブレーキ操作も穏やかにサポートしました。
このAIエージェントは、単に注意喚起するだけではありません。日々の運転を通じて、その人の体調やその瞬間の心境の変化、さらには「焦るとブレーキを踏むのが遅れがち」といった個人の「運転の癖」までを学習し、ドライバー専用に賢く成長していくといいます。
クルマの外の「交通の先読み」と、クルマの中の「人の先読み」。この2つを組み合わせることで、きめ細かな安全支援を実現し、事故ゼロに近づけていくとしています。
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また今回は、「緊張を伴う高速道路の合流シーンをどう変えるか」という課題で模擬体験も行われ、ここでは「AIエージェント」と交通全体を管理する「管制システム」の連携が示されました。
デモではまず、様々な運転シーンでの 「もどかしさ」を体験。例えば、合流してくるクルマと接触しそうな危険な場合ではAIエージェントが「危なかったね」「なかなか車線変更できないね」と即座にドライバーの心理に寄り添い、ケアする様子が確認できました。
解決シナリオでは、全車両情報を集約・計算する「管制センター」が活躍。合流車が見えない段階でクルマが自動で車線変更してスペースを作ったり、AIが管制情報から「合流車来るって」と危険を”先読み”してドライバーに減速を促し、安全な合流スペースを生み出します。
これは、クルマ単体ではなくインフラと協調することの重要性を示しているともいえ、AIがドライバーの心理を理解する「相棒」となり、安全な行動を自然に促すというものでした。



















































