【大人の社会科見学】ホンダが誇る「“巨大”開発施設」何がスゴイ? “独自”の衝突試験もできるってホント? 他メーカーとは一味違う「四輪開発センター」とは
2025年9月2日に本田技研工業の四輪開発本部(栃木)の施設見学会がメディア向けに開催されましたのでレポートします。
世界のホンダが誇る“巨大研究施設”
2025年9月2日に本田技研工業の四輪開発本部(栃木)の施設見学会がメディア向けに開催されました。
軽自動車NO.1の販売台数を誇る「N-BOX」や、コンパクトカー「フィット」、コンパクトミニバン「フリード」など、人気のクルマを生み出し続ける“ホンダ”の開発現場とはどのようなものなのでしょうか。

ホンダは、自転車に発電用エンジンを搭載したオートバイの製造からスタートし、二輪・四輪・トラクター・船外機・その他の汎用製品から、ホンダジェットなど航空機まで、陸海空にわたる多種多様な製品を展開しています。
四輪分野では、1963年には、後発ながら初の量産自動車「T360」の量産を開始、その翌年にはF1レースに参戦し、参戦4期目で勝利し、その後も数々のタイトルを獲得するなど、輝かしい歴史を紡いでいます。
近年では軽スーパーハイトワゴンのN-BOXが軽自動車販売台数でNO.1になり続けているほか、コンパクトミニバンのフリードが普通乗用車の販売台数で上位に位置し続けており、不動の人気ぶりを獲得しています。
そんなホンダですが、基礎技術や応用技術の研究、商品のデザイン、モータースポーツ活動などを行う研究所と、商品の開発・生産・販売を行う本田技研工業に分かれています。
■本田技研工業の四輪開発センターに潜入
今回は、栃木にある本田技研工業の四輪開発センターにお伺いしました。この四輪開発センターの歴史は、1960年まで遡ります。
当初は、埼玉の和光研究所で設立され、開発者数増加に伴い栃木に移転。1979年にテストコース(プルービンググラウンド)を設立後、1982年に和光研究所の栃木研究室が設立され、1986年に栃木研究所として独立した事業所となりました。
2019年以降の組織変更により、現在では量産開発部門と将来の先行開発部門である先進技術研究所、および先進パワーユニット・エネルギー研究所が栃木の四輪開発センターの施設内に存在しています。
2020年には開発部門と研究部門が分かれ、2025年現在は本田技術研究所、先進技術研究所、先進パワーユニット・エネルギー研究所、本田技研四輪開発センターが存在しています。
東京ドーム46個分の広大な敷地を持ち、建物は木の幹のように中心線に沿って配置された設計部門と、枝に当たる研究部門、そして隣接するテストコースが効率的なフィードバックと問題解決を可能にするよう設計されています。
今回見学したのはこの四輪開発センターの中の、衝突テストを行う屋内全天候型全方位衝突実験施設と、四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーター、栃木プルービンググラウンドコースの3つです。
■迫力の衝突実験施設!

まず見せていただいたのは、2000年に導入されたという当時世界初だった屋内型衝突試験場である屋内全天候型全方位衝突実験施設。施設全体の広さは東京ドーム級で、この施設の走路は120mあり、放射状に配置された様々な角度(90、75、60、45、30、15、0度)での衝突試験が可能となっています。
今回の見学会では、実際に現行型フリードを用いて衝突試験を実演してもらうことができました。ちなみにフリードの衝突試験は当然すでに完了しており、今回の試験は、取材・広報目的のために特別に実施されたものです。
試験に使う車両は、実際にエンジンをかけてはいませんが、イグニッションONの状態で、電気系統や燃料系統(ガソリンの循環など)を作動させて試験を行なわれます。これは、ハイブリッドバッテリーの短絡やガソリン漏れの有無など、動力装置が作動した状態での安全性を確認するためだといいます。
試験は十二分な安全確認の後に実施されます。120m先からどんどん迫ってくる現行型フリードにハニカム構造のデフォーマブルバリアを先端につけられた台車が、互いに50km/hの状態で正面から衝突します。衝突の瞬間激しい衝撃が、上方にある我々がいるコントロールセンターまで伝わってきます。
衝突試験は通常、左右だけでなく上や天井からも撮影する約20台のハイスピードカメラで記録されます(場合によっては透明な床からクルマの裏側も撮影できるようですが、今回は実施なし)。
ハイスピードカメラの映像をみてみると、フリードのエンジンルーム(クラッシャブルゾーン)が狙い通りに潰れて衝撃を吸収し、キャビン(乗員空間)の変形はほとんどなく、フロントガラスも割れていない状態がしっかり確認できました。
ちなみにこの施設では、四輪・二輪を含め、年間平均約600回の試験を実施しているといい、1日に平均2〜3回テストが行われるようです。また、1車種あたりのテスト回数は車種にもよりますが10〜20回ほどとのことです。
“ホンダの試験場”ならではの特徴について担当者は「四輪車だけでなく、ホンダ独自で開発した補助機器を用いて二輪車の衝突試験も実施していること」だと教えてくれました。
二輪車は自立できないため補助機器が必要であり、これを独自に開発し試験を行っているという、なんとも四輪・二輪の両方を扱うホンダらしい特徴です。
また、多数の高額なダミーを用いて試験が行われていますが、この内の1体…歩行者保護性能を確認するためのダミーは、ホンダ独自に開発されたもののようで、これもまた特徴の一つです。
■開発の速度を高めるドライビングシミュレーター

次に見学したのは、四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーター。この装置は、アクチュエーター部分を鷺宮製作所が開発し、システム全体をイタリアのVI-grade社製をベースにホンダが独自にカスタマイズした高性能ドライビングシミュレーターです。
量産車の開発期間短縮と品質向上を目的としており、3000のパラメータと250の自由度を持ち、現実の道路を高精度に再現できます。ちなみに自由度などと言われてもピンと来ないと思いますが、一般的なドライビングゲーム(例:グランツーリスモやアセットコルサ)の自由度が10〜20程度であることとを考えると、極めて高い数値であることがわかります。
実際に乗せてもらうと、路面の凹凸がリアルに再現されていることがよくわかります。この手のドライビングシミュレーターはよく“酔う”ことがありますが、現実と相違ない動きを見せるこのシミュレーターではそういったこともありませんでした。
この設備の開発には、 6〜7年を要したといいます。担当者は、このシミュレーターを全面的に活用して開発された最初のクルマについて「ゼロシリーズ」であると教えてくれました。
ゼロシリーズとは、2024年1月に、ラスベガスで開催されたCESで世界初公開されたホンダの次世代BEVシリーズのことで、日本で2025年秋に行われる「ジャパンモビリティショー2025」では、その第1弾となる中型SUVのプロトタイプ「Honda 0 SUV Prototype」と、フラッグシップモデルとなる「Honda 0 SALOON Prototype」がジャパンプレミアされる予定です。
ちなみに、現在のところこの施設では、風切り音の検証など、NV(ノイズ・バイブレーション)領域については試験できませんが、今後はこの領域にもチャレンジしていきたいと語ってくれました。
■世界有数の複合テストコース
最後に見せてくれたのは、栃木プルービンググラウンドコース。1979年4月にオープンし、今年で51年目になるといいます。
敷地面積は141万平方メートルで、東京ドーム30個分の広さ。楕円形の高速周回路を中心に、40以上のコースが設置されています。
24時間体制で4輪、2輪、汎用製品などの開発・試験が行われており、世界でもこのような多種多様なコースをもつ施設は、ほかには中国に1箇所ほどあるくらいだといいます。
大型バスで、コースを走りながら見学させてもらいましたが、その広大さに驚きます。これほど開けた場所もなかなかないため、試験以外にもCMの撮影などにも活用されるといいます。
周回コース、特殊路、総合コース、旋回路、登降坂路、水槽路、低μ路、中μ路、悪路コース、ワインディングコース、直線コース、モトクロス・スーパークロスコース、バギーコース、パワープロダクツテスト場など、そのコースの数は上げればキリがありませんが、世界中のあらゆる路面が再現されており、この一箇所で多くの試験ができるようです。
また、コースを走るには社内ライセンスが必要なようで、ライセンスのレベルに応じて、走れるコースの種類も異なるようです。
※ ※ ※
“世界のホンダ”が誇る、巨大な研究施設「四輪開発本部」。数々のヒット作が生まれてきた背景には、多くの苦労と多額なコストが掛かっていることを改めて感じさせられます。
最新のドライビングシミュレーターで作り込まれたゼロシリーズを始め、今後どのような商品が展開されていくのか。注目です。



































































