一般的なミニバンよりもはるかに長く、広さもゆとりも桁違いで、まるで移動するラウンジのようなその姿。

　国産車の中でも圧倒的なスケールを誇る一台が、かつてトヨタで展開されていました。

　一体どのようなモデルなのでしょうか。

　そのモデルとは、2019年12月に日本市場でデビューした「グランエース」です。

　ベースとなったのは海外市場で展開されている「ハイエース」のH300系で、商用車由来の信頼性を礎にしながらも、乗用車としての快適性と上質感を大幅に引き上げた仕様となっていました。

　そのボディサイズは全長5300mm×全幅1970mm×全高1990mm、ホイールベース3210mmと、トヨタの代表的な高級ミニバン「アルファード」を上回る堂々たる大きさです。

　日本の市街地では取り回しに苦労するほどのサイズ感でしたが、その存在感は唯一無二でした。

　外観デザインも迫力に満ちていました。

　フロントマスクには大型のグリルが配置され、重厚で威厳ある印象を与えます。

　リアにはL字型のテールランプが組み込まれ、端正で洗練された後ろ姿を演出。

　17インチのスポークホイールも相まって、商用車ベースでありながら高級サルーンのような雰囲気を漂わせていました。

　車内に足を踏み入れると、さらにその特別感が際立ちます。

　ブラックを基調としたインパネに金属調や木目調の加飾を組み合わせ、落ち着いた中にも華やかさを感じさせる仕上がりです。

　エアコン吹き出し口やステアリング周りの造形も上質で、シートカラーはブラックとニュートラルベージュから選べる仕様でした。

　そして、グランエース最大の魅力は何といっても広大な室内空間です。

　室内長3290mm×幅1735mmという数字は、国産ミニバンの中でもトップクラス。

　さらに上位グレード「Premium」では6人乗り仕様を採用し、2列目と3列目に独立式のエグゼクティブパワーシートを配置。

　本革張りのシートには電動リクライニング、オットマン、さらには温熱機能まで備わり、まるで移動するラウンジのような体験を味わうことができました。

　一方、エントリーグレードの「G」は8人乗りで、4列目には6：4分割のチップアップシートを装備。

　使用しない時には簡単に跳ね上げられるため、大きな荷物を積むシーンにも柔軟に対応できます。

　安全装備についても最新技術が惜しみなく投入されていました。

　全車に「トヨタセーフティセンス」を標準搭載し、巨大な車体でも安心して運転できるよう「パノラミックビューモニター」や「ブラインドスポットモニター」なども備わっていました。

　こうした支援機能により、運転に不安を感じる場面でもドライバーを強力にサポートしました。

　パワーユニットには2.8リッター直列4気筒ディーゼルターボエンジンを搭載。

　最高出力177馬力、最大トルク450Nmを発揮し、6速ATとFR駆動方式を組み合わせることで、大柄な車体を余裕をもって走らせる力強さを実現していました。

　販売価格（消費税込み）は2024年3月時点で「G」グレードが642万1000円、「Premium」グレードが672万1000円と、ミニバンとしては高額帯に位置していました。

　こうした背景から、主に法人需要やVIP送迎といった用途を想定したモデルであったといえます。

　しかし、法人市場ではアルファードやレクサス「LM」が強い存在感を示しており、グランエースはその陰に隠れてしまいました。

　その結果、2024年4月には生産が終了し、一代限りで幕を閉じることとなりました。

　なお、2025年8月現在の中古車市場を見てみると、300万円台後半から1100万円台半ばで取引されています。