キヤノンが暗闇でも歩行者を認識する「SPADイメージセンサー」を発表! 米国規制強化にも対応か 2031年に量産目指す
キヤノンのSPADイメージセンサーの仕組みとは
今回発表されたSPADイメージセンサーの核心技術は「重み付けカウント方式」です。
従来のSPADイメージセンサーが1つのフォトン(光の粒子)ごとにカウントする方式だったのに対し、新方式では光の入射タイミングに応じて重み付けカウントを行います。
「1フレームの中をさらにサブフレームにいくつか分割します。
明るいシーンでは、フォトンが入ってくる頻度が非常に高いので早く来るだろうという予測のもと、早く来たら『いっぱい来るはずだ』ということで数を増やしていきます。
逆に暗いシーンでは、たまにしか来ないので、1つだけカウントします」(松野氏)
この方式により、156dBという広いダイナミックレンジを実現。

また、LEDの信号機などが点滅して消えるタイミングを撮影してしまう「LEDフリッカー」も抑制できます。
松野氏は「日本の信号機であれば1フレーム内で4回消えますが、新センサーでは重み付けカウント方式によって情報はずっと取り続けているため、半分消えていても半分はついているという状態をしっかり識別して出力できます」と説明しました。
さらに、「アバランシェ増倍(雪崩現象のように電子が増幅される現象)」の回数も抑制されるため、従来比で半分程度の低消費電力化も実現しています。
今回の説明会では、開発したSPADイメージセンサーを搭載した試作機によるリアルタイムデモも行われました。
明るいトンネルと暗いトンネルを模した環境を用意し、明るい方のトンネルの先には夕日を模した光源を設置。また、LEDで点滅する信号機も再現されていました。
デモを担当した説明者は「従来のカメラでは、LEDフリッカーに関して、明るいところを撮ろうとすると短い露光時間で撮影するため、ちょうど信号機が消えているタイミングで撮ると暗く写ってしまいます。しかし、我々が開発した重み付けカウント方式では、明るいところから暗いところまでを長い露光時間で撮ることができるので、点滅せずに赤信号をしっかり認識できる画像が取れます」と説明しました。

デモでは、明るい領域と暗い領域の光量差が約1400万倍という極端な条件下でも、両方の領域をクリアに撮影できることが示されました。
特に、逆光でもナンバープレートが判読できる点や、肉眼では車体を認識できないほどの暗所でも車体の細部が認識できる点が印象的でした。
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今回開発されたSPADイメージセンサーは、単に車載用途だけでなく、監視カメラ、デジタルカメラ、モバイルデバイス、XR(拡張現実)など、多岐にわたる応用が見込まれています。
今後の展開について、キヤノン株式会社 執行役員・デバイス開発本部デバイス開発統括部門統括部門長の櫻井克仁氏は「量産の開始として2031年をターゲットと考えております」と述べました。
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キヤノンが開発した新型SPADイメージセンサーは、「重み付けカウント方式」という独自技術により、従来は両立が難しかった「暗所での高感度撮影」と「明暗差の大きい被写体の同時撮影」を実現しました。
この技術は、安全運転支援システムの高度化や監視カメラの性能向上など、社会的ニーズの高い分野での応用が期待されています。
特に、米国の新たな自動車安全規制への対応が難しいとされる中、その技術的障壁を乗り越える可能性を示した点は大きな意義があります。
フォトンを一つずつ数えるという基本原理に、巧みな信号処理技術を組み合わせることで、イメージセンサーの新たな可能性を切り開いたキヤノンの技術力に、今後も注目が集まりそうです。
Writer: くるまのニュース編集部
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