現在の軽自動車は、内外装の質感向上のほか、最新の先進機能の装備などからファーストカーとして購入する人も多く、もはや上級車種との違いが少なくなりました。
　
　しかし今から20年近く前、まだ軽自動車が「安価な足」として捉えられていた頃に、ダイハツは非常に高品質なクルマづくりを目指したモデルを用意していました。それが「ソニカ」です。

　ソニカは2006年6月に発売された軽ハッチバックです。キーワードは「爽快ツアラー」。2人の時間を大切にするカップルをターゲットに、走りと室内空間の高い質感を重視した、新ジャンルの軽自動車として登場しました。

　ボディサイズは全長3395mm×全幅1475mm×全高1470mm、ホイールベース2440mm。全高と全幅は軽自動車サイズですが、非常に長いホイールベースに異例の低さを組み合わせており、特に全高は当時の4人乗り軽自動車の中で最も低くなっています。

　これにより、実用重視の軽自動車らしくないスタイリッシュさと、流れるようなプロポーションによる走行性能の高さを感じさせます。

　全高が低いぶん、室内空間が狭くなり、快適性能が低下するように思えますが、実はソニカは長距離ドライブでもとことん快適に走行できるような、こだわりの設計を多数採用していました。

　まず、エンジンは新開発しコンパクト化。ロングホイールベースと組み合わせ、室内長は1915mm、室内幅は当時の軽自動車トップの1320mmという広さを確保しています。

　さらに、シートは前後ともに、居住性とクッション性を重視した厚みのあるものを採用。

　特にフロントシートは、室内幅の広さを生かした大ぶりの「ツアラーベンチシート」を採用し、センターアームレストまでも備え、軽自動車クラスを超えたゆったりとしたものとなっています。

　実は、このシートは当時のトヨタの高級セダン「セルシオ」のシートを研究して開発されたといわれ、開発当初はセルシオのシートを装着しようと進められていました。

　もちろん実際には、セルシオのシートそのものは装着できませんでしたが、結果として軽自動車用としては異例の贅沢な造りとなっています。

　また、内装のカラーバリエーションも当時の軽自動車としては珍しい「レッド」を基調とした上品なものを用意していたほか、インパネからドアトリムまで連続する形状のコクピットデザインを採用。

　加えて当時は上級モデルに採用されていた自発光式メーター、チルトステアリングを備え、オーディオも6スピーカー構成とするなど、ほぼ「高級車」といえる内容になっていたのです。

　ちなみに静粛性も非常に考慮され、エンジン付近のノイズ源を徹底カットし、ドア下端の2重シールやミラー形状の工夫など、高速走行時の快適性に寄与しています。

　パワートレインは660ccのターボ付きユニットで、トランスミッションには世界初の「インプットリダクション式3軸ギアトレーン」構造のCVTを採用。

　CVTには「7速アクティブシフト」でマニュアル操作も可能だったほか、前後スタビライザーを装備し、高い走行性能も実現。軽自動車クラスを超えるスポーティな走りも特徴です。

　さらに、最上級グレードの「RS Limited」の2WD車には、軽自動車どころか上級モデルでもごく一部にしか設定のなかった「レーダークルーズコントロール」をオプション設定。ソニカのプレミアムなキャラクターを強く感じる装備といえます。

　ソニカの発売時の価格（消費税5％込）は118万6500円から154万8750円でした。

　そんなソニカでしたが、販売面では当初は好調だったものの、非常に苦戦を強いられます。

　そもそも一般ユーザーが軽自動車に求めるものといえば、廉価かつシンプルで扱いやすい点。用途としても街乗りがメインです。多少安っぽくても日常のアシと割り切っているので、十分なのです。

　ところがソニカは結果的にその正反対を目指した形となり、その魅力は理解されなかったのか、わずか3年で生産を終了。その後、直接的な後継車種もありません。

　ソニカの登場から20年近くが経過した今、新車の価格高騰などから軽自動車をファーストカーとして使う人も増えています。軽自動車自体も多くのモデルで、アダプティブクルーズコントロールの装備や上質な室内など、上級車種と遜色のないモデルに仕上がっています。

　そういった意味では、ソニカは「登場が早すぎた」1台なのかもしれません。