新車当時26万円! 「3人」乗れる「めちゃ小さいクルマ」が凄い! 4速MT搭載で「公道走行」OK! 悪路もへっちゃらな庶民向け“多用途モデル”「農民車 コマツ」に注目

石川県小松市にある日本最大級の自動車博物館「日本自動車博物館」には、日本のモータリゼーション黎明期を物語る、非常に貴重な「農民車 コマツ」というクルマが展示されています。一体どのような特徴があるのでしょうか。

よく考えられた「手頃なアシ」

「日本自動車博物館」(石川県小松市)は、日本最大級の規模を誇る自動車博物館です。国内外の名車に加え、ここでしか見られない非常に希少なクルマも収蔵されています。
 
 そんな展示車のひとつに「農民車 コマツ」というクルマがあります。まさに「ここでしか見られないクルマ」の1台で、実に貴重なクルマなのです。

小松製作所「農民車 コマツ」(取材協力:日本自動車博物館)
小松製作所「農民車 コマツ」(取材協力:日本自動車博物館)

 農民車コマツは、1960年3月に発表された小型作業車です。

「コマツ」の名称の通り、製作したのは建設機械で世界的トップクラスのシェアを誇る小松製作所(コマツ)です。博物館と同じ小松市内で創業した地元が誇る企業といえます。

 コンセプトは「農民用万能車」。ターゲットは農作業従事者ですが、単に作業するだけの機械というものではなく、買い物などの普段の「アシ」にも使うことを想定しています。

 ボディサイズは全長2300mm×全幅980mm×全高1230mm。軽自動車よりも小さく、実際に道路運送車両法では「小型特殊自動車」に分類されます。

 小型特殊自動車は、時速15km(農作業用は時速35km未満)以下に制限され、市町村に届け出することで乗れるものです。トラクターや除雪車、耕運機などが該当します。

 外観は実にシンプルで簡素なデザインです。フロントには2つの丸いヘッドライトとけん引用フック、当時のコマツのエンブレムが装着されているのみ。デザイン面でまさに「作業車」といった出で立ちです。

 ボディカラーは明るい朱色で、側面には「コマツ」のデカールを貼付。コマツブランドの信頼性の高さをアピールしています。

 乗員部中央には簡素なシートとステアリングがあります。ドアやルーフなどはありません。なお、乗車定員は3名とのことですが、運転席のみ設置されているので、ほかの2人は好きなところに座ってもいいのかもしれません。

 いわゆるインパネやラゲッジと乗員スペースを仕切るものなどもなく、農作業の道具などは運転の妨げにならなければどこに置いても良さそうです。一応、後部にはデッキがあるため、そこに積載するのが通常のようです。

 パワートレインは280ccの空冷4サイクル単気筒エンジン。後部フロアに搭載され、後輪を駆動するRRレイアウトです。4速MTと組み合わせ、最大出力7.5馬力を発生します。

 興味深いのはタイヤが前後で異なるものを備えています。フロントは作業車などで見かけるタイプですが、リアはトラクターのような段差のある「ラグタイヤ」を採用。最低地上高も高く、高い走行性能を発揮します。

 また、後輪は左右独立タイプのブレーキが採用され、ブレーキを別々に制御できたそうです。この点も、農作業車としての使用を両立したポイントといえます。

 農民車 コマツの当時の新車価格は26万円。軽自動車「ヂャイアント・コニー360」やマツダ「R360クーペ」が30万円、スクーターの富士重工「ラビットジュニア S301」が13万円であったことを考えると、1台でマルチに使えながら手頃な価格帯だったことがわかります。

 生産期間は約2年間と短く、4300台のみの製造でした。

 そんな農民車 コマツでしたが、当時の時代は「東京オリンピック」開催前。いわゆる「3C(car・cooler・color TV)」が庶民の憧れだった時代に、一気にマイカー所有を近づけた、実に画期的なクルマでした。

 もしかしたら、日本のモータリゼーションの拡大を一気に押し広げたモデルだったのかもしれません。

 ちなみに、日本自動車博物館に展示されている同車は、2021年にコマツの労働組合「コマツユニオン北陸支部」によってレストアされた個体です。

 日本自動車博物館を訪れた際は、一度目にしておきたい貴重な車両といえるでしょう。

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Writer: 伊勢崎剛志

自動車販売から自動車雑誌編集部を経て、ライターとして独立。趣味も多彩だが、タイヤが付いているものはキホン何でも好きで、乗りもので出かけることも大好物。道路や旅にも精通し、執筆活動はそういった分野をメインに活動。

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