トヨタがなぜ新型”磁石”を開発? 電気自動車戦略の隠し玉で有利な戦いへ

「ネオジム」を使わないとモーターは大型化

 実際に、テスラのモデルSやモデルXを見てみると「インダクションモーター」というネオジムを使わないタイプのモーターを採用しています。ところがインダクションモーターは小型化が難しい上(テスラのモーター、驚くほど大きい)、効率もあまりよくありません。小型で省電力なモーターを作ろうとすれば、ネオジム無しだと難しいようで、テスラも「モデル3」というコンパクトモデルでは、ネオジムを使うようです。

テスラのコンパクトEV「テスラ モデル3」

「ネオジムならリサイクルすればいいのでは?」という意見も出るでしょう。トヨタも当初はリサイクルを考えていたようですが、中古のハイブリッド車は全て海外に輸出されるなど、日本での資源回収が難しいことが判明。鉄や銅、アルミのように市場で飽和状態となるまではリサイクルで回すことなど出来そうにないようなのです。

「こうなれば直球勝負しかない!」ということなんでしょう。トヨタは2000年代初頭に起きたレアアース高騰の「中国ショック」以後、ネオジムの使用量を減らしたモーターの開発に着手してきたようです。

 なにしろ素材技術とあって電子顕微鏡の世界。今回の新ネオジム磁石発表会で説明を担当した方は、2人とも博士号を持っている専門家でした。その成果が今回の「使用量大幅減」なのです。

 今のところ性能を維持したままなら、ネオジムの使用量を20〜50%減らせるメドを付けたといいます。50%になれば2030年時点でもネオジムの供給量不足&高騰を心配しないで済むかもしれません(使用量を削減出来る技術を持っていない自動車メーカーはコスト高になる)。その間に、ネオジムを使わないタイプの高性能モーターを開発すればいいのです。

 今回の発表を聞きながら「多くのメディアがトヨタは電気自動車開発で遅れを取っていると報じているが、意外なことに10年以上前から電動化社会に備えた開発をしていた」ということを実感させられました。

 トヨタと電気自動車開発で手を組んだスバルやマツダ、スズキはこの技術を使えるということです。電動化の流れに有利な戦いが出来ると思います。

【了】

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Writer: 国沢光宏

Yahooで検索すると最初に出てくる自動車評論家。新車レポートから上手な維持管理の方法まで、自動車関連を全てカバー。ベストカー、カートップ、エンジンなど自動車雑誌への寄稿や、ネットメディアを中心に活動をしている。2010年タイ国ラリー選手権シリーズチャンピオン。

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