横浜ゴム製レーシングタイヤの知られざる世界 日本最速のモータースポーツ「スーパーフォーミュラ」から8つの疑問で知る
レース活動で得たヨコハマの技術は市販タイヤにフィードバック!
レースでは、スタート前のフォーメーションラップやタイヤ交換直後、セーフティーカーが入った時などにドライバーが車両を左右に振ってタイヤを暖めている様子を見かけます。タイヤウオーマーを使ってある程度まで温度は上げられていますが、実際の走行でさらにタイヤの温度を上げて、最もグリップを発揮するベストな状態へ持っていくためなのです。
●サイドウォールが柔らかいのはなぜ?
先ほどはレーシングタイヤのトレッドは柔らかくないと伝えましたが、サイドウォールは暖めなくてもかなり柔らかいのです。それは市販車のタイヤよりもずっと柔らかいのだから驚きです。
柔らかい理由は、耐久性を考えず可能な限り薄く作られているから。そんな薄くて柔らかいサイドウォールで車両のパワーや重さを支えられるのか心配になりますが、実は大丈夫。適正な空気圧を入れることでタイヤに剛性が生まれ、柔らかいサイドウォールでもしっかりと車体や走りを支えられるというわけです。
レーシングタイヤはサーキット専用のタイヤのため、耐久性は最低限の性能で作られています。市販タイヤでは、公道にありがちなギャップや凸凹のダメージからタイヤを守らなければいけませんし、点検の習慣がない一般人ドライバーが規定よりも低い空気圧で走ってしまった場合でも、車両の重量を支えられるように作らなければいけません。
レーシングタイヤは「グリップが落ちたらすぐ交換」という短いサイクルが前提だから、耐久性は最低限まで柔らかく作れるということです。
●レーシングタイヤにも再生可能素材が使われているってホント?
レース用タイヤの開発は、新しい技術のチャレンジとも深く結びついています。たとえば再生可能資源の活用もそのひとつ。
ヨコハマが供給するスーパーフォーミュラ用のタイヤですが、2022年シーズンまではサイドウォールのストロボロゴに赤色が使われていましたが、2023年シーズンからは緑のストロボロゴに変わっています。この緑のストロボロゴのレーシングタイヤは、トップフォーミュラでは世界初の試みとなるサステナブル素材(再生可能原料&リサイクル材料)を33%取り入れたレーシングタイヤなのです。
ヨコハマでは極限の状況で戦うタイヤでありながらも、バイオマス由来ゴムや天然由来のオイル、さらには骨格に当たる部分に廃棄物から再生した亜鉛を使うなど環境にやさしいタイヤを目指しています。現時点で再生可能原料の比率は33%ですが、ヨコハマは今後さらに高めていく計画を立てているとのことです。
ちなみにこの日は、スーパーフォーミュラを取り仕切る日本レースプロモーション(JRP)の近藤真彦会長がレース決勝前に大勢の観客の前でデモ走行をおこないましたが、その時履いていたタイヤ(通常使われているものではなく試作品)の再生可能原料比率はなんと60%ということでした。半分以上が再生可能原料なんて驚きですね。
●1回のレースに何本のタイヤを持ち込むの?
スーパーフォーミュラは毎戦21台のマシンが戦いを繰り広げています。
レギュレーションでは、1レースにおいて予選から決勝までを通してドライタイヤ(スリックタイヤ)を新品3セット、使用済みタイヤ3セットの合計6セットを使用可能。ウエットタイヤは新品6セットまで使用可能で、計算上は1台あたり最大48本のタイヤを使えることになります。
ヨコハマが1レースに持ち込む本数は、ドライタイヤが400~500本で、ウェットタイヤが600~700本。ウエットタイヤのほうが多いのは、1レースで使用可能な新品タイヤの本数が多いことに加え、排水性確保のためにタイヤの使用限界を迎える前にある程度擦り減って溝が浅くなった時点で交換することもあるからです。
ちなみにドライタイヤもウエットタイヤも種類はひとつずつしか用意されておらず、「路面の温度にあわせて『ハード』と『ソフト』のコンパウンドから選ぶ」といったことは現在のスーパーフォーミュラではおこなわれていません。
また、スーパーフォーミュラ用ドライタイヤの名称はフロント用が「ADVAN A005 A」で、サイズは270/620R13、リヤ用は「ADVAN A005 B」で、サイズは360/620R13。タイヤサイズの読み方は市販タイヤとちょっと違い、幅(mm)/直径(mm)/内径(インチ)となっていますよ。
* * *
ここまで8つのトリビアをご紹介してきましたが、今回の取材は筆者としてもためになる勉強会でした。ところで、ヨコハマではなぜモータースポーツ活動を積極的にやるのでしょうか?
その理由は「技術開発」「ブランディング」そして「人材開発」とヨコハマは説明します。極限の状況で戦うレーシングタイヤはメーカーの技術の結晶であると同時に、新しいテクノロジーを試して育てていく場でもあります。
加えて、幅広い知見を持つエンジニアを育てる場でもあります。それらが合わさった結果、レースという実践を通して、市販タイヤのレベルがより高められていくのです。
Writer: 工藤貴宏
1976年長野県生まれ。自動車雑誌編集部や編集プロダクションを経てフリーの自動車ライターとして独立。新車紹介、使い勝手やバイヤーズガイドを中心に雑誌やWEBに寄稿している。執筆で心掛けているのは「そのクルマは誰を幸せにするのか?」だ。現在の愛車はマツダ CX-60/ホンダ S660。
コメント
本コメント欄は、記事に対して個々人の意見や考えを述べたり、ユーザー同士での健全な意見交換を目的としております。マナーや法令・プライバシーに配慮をしコメントするようにお願いいたします。 なお、不適切な内容や表現であると判断した投稿は削除する場合がございます。