急坂もスイスイ進む力強さ! 電気で走る小型トラック「eキャンター」試乗で感じたEV活躍の場

トラックならではの理由からブレーキペダルとの協調制御を抑制

 乗用車の電気自動車では、ドライバーがDレンジの状態でブレーキペダルを踏んでも、ディスク/ドラムブレーキは作動せず、回生による充電量を増やして減速する場合があります。

 このように乗用車の電気自動車ではシフトレバーがどの位置でも、同程度の電費性能を得られますが、eキャンターでは「+」側を積極的に使って回生量を増やす必要があります。

このような急な坂道もeキャンターであればスイスイ登る
このような急な坂道もeキャンターであればスイスイ登る

 ただしトラックの回生には、乗用車の電気自動車とは異なる独特の難しさもあります。

 トラックは荷物を積まない状態で下り坂に差し掛かると、車両の荷重が前輪に偏り、後輪の接地性が大幅に下がることです。

 この時、接地性の下がった後輪に回生の減速力が生じると、雪道などでは横滑りを生じやすいのです。

 トラックでは、横滑り防止装置を装着していても、安全確保のために後輪だけの回生制動力を高めにくい事情があるそうです。

 試乗ではウエートを積載して行いましたが、加速力は発進時から力強いです。モーターの特性により、アクセルペダルを踏んだ瞬間に、本格的な加速を開始するためです。

 エンジンは回転上昇に応じて駆動力を高めますが、モーターではこの時間差が生じません。即座に高い駆動力を発揮できます。

 なお、eキャンターの動力性能は、最高出力が110kW(150馬力)、最大トルクは430Nmとされます。後者の数値をガソリンエンジンに当てはめると、4リッター程度の排気量に相当します。

 eキャンターはメーカーの資料によると、最高速度が89km/hです。速度が低く思えますが、これもモーターの特性によるものです。停車時から70km/h付近までの加速力は活発ですが、それ以上になると次第に衰えてきました。

 しかし、電気自動車としては、これで十分です。電気自動車の目的は、二酸化炭素を含めた排出ガスの発生を抑制したり、化石燃料の消費量を抑えたりすることにあるからです。

eキャンターの主戦場は「街中」

 長距離の移動には、人であれば公共交通機関、物資の輸送であれば燃費効率を高めたディーゼルエンジン車や燃料電池車を使うというのが電気自動車の考え方です。

 したがって欧州の乗用車メーカーに多く見られる電気自動車の加速力を競う風潮は、そもそもナンセンスだと考えます。

都市部での「eキャンター」の恩恵は大きい
都市部での「eキャンター」の恩恵は大きい

 eキャンターの開発者も「排出ガスやエンジンノイズを発生させないため、街中の配達などを目的に開発されています」と述べました。

 市街地を中心としたeキャンターの使い方を考えると、最高速度が89km/hでも、大きな欠点にはなりません。

 むしろアクセル操作に対して機敏に反応して、ノイズや振動も発生しないため、快適に運転できました。エンジンを搭載するキャンターのノイズや振動は、乗用車とはかなり異なりますが、eキャンターは乗用の電気自動車にも近いです。

 アクセル操作に対するモーターの反応も含めて、運転感覚は、トラックとしてはとても快適です。

 eキャンターは乗り心地も優れています。ボンネットのないトラックでは、乗員の真下に前輪があって乗り心地では不利ですが、eキャンターはボディの重さも幸いして、路上の細かなデコボコを伝えにくいです。

 段差を通過した時の突き上げ感も抑えられ、乗り心地には重厚感が伴います。

 シートの座り心地も良好です。商用車は頻繁(ひんぱん)に乗り降りする用途もあるため、サイドサポートが大きく張り出した形状ではありませんが、腰から大腿(だいたい)部をしっかりと支えます。長時間の乗車でも疲れにくいです。

 eキャンターの充電は、急速充電と普通充電が可能です。充電の所要時間は、1個のバッテリーを搭載する試乗車の場合、6kWの普通充電で約8時間、50kWの急速充電が約50分、70kWであれば約40分です。

 以上のように快適性が優れ、周囲の環境にも優しいeキャンターは、都市部での配達などに最適でしょう。

 今後は軽商用バンの電気自動車も増えるため、都市部を中心に、ビジネス車両の電動化が加速します。日本における電気自動車の普及は、商用車と、軽乗用車から進んでいくように思います。

【画像】電気で走る小型トラック「eキャンター」の内外装を詳しく見る!(54枚)

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Writer: 渡辺陽一郎

1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年務めた後、2001年にフリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向。「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を得意とする。

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