コンパクトカーは都市部でも取り回しやすいサイズや、維持のしやすさ、手頃な価格が人気を博しています。
　
　一方で、このサイズに上質な内外装を仕立て、上級モデルからの乗り換えを狙う「小さな高級車」といえるモデルや、体幹を鍛えハイパワーユニットを備える「ホットハッチ」なモデルも支持を得ています。
　
　そんななか、マツダはかつて上質な内外装にスポーツカーのようなパワートレインという、「全部込み」なモデルを提案していたのです。

　そのクルマとは、マツダが2004年1月に米国デトロイトの「北米国際自動車ショー」で披露した、「Mazda MX-Micro Sport（マツダ エムエックス マイクロスポーツ・以下MXマイクロスポーツ）」です。

　当時のマツダによると、MXマイクロスポーツは「北米市場におけるスモールCクラスカーの新たな顧客創出の可能性をスタディするコンセプトカー」だといいます。

　ターゲットは、「先進的かつ行動的で、既成概念に捕らわれない、アクティブなライフスタイルを好む24歳以下の若者」。若年層でありながらも、野心を持ち、ライフスタイルにもこだわりを持つ人たちへの、新たなスポーツモデルの提案だったのです。

　エクステリアは直線的なキャビンとは対照に、前後フェンダーやフロントフェイスなどには曲線を多用。ブラックのピラーや印象的な深いレッドなどがワンクラス上の高級モデルのような上質な雰囲気を持たせています。

　一方で、フェンダー形状は大きく張り出しており、さらに、ロアグリルは迫力のある大開口のものを採用。当時のコンパクトカーとしては異例なほどの大径サイズである17インチホイールなどがハイパフォーマンスモデルらしさを予感させます。

　リアは、センター出し2本のマフラーを装備し、ディフューザー形状のバンパー下部や7.5Jサイズのワイドなホイールを装着したことも相まって、上質なホットハッチといった出で立ちをしています。

　ボディサイズは全長3980mm×全幅1755mm×全高1550mm、ホイールベースは2490mmです。

　一方でインテリアはスポーティながらも非常に上品な仕立てです。

　大人4人が十分に過ごせる広さを確保したほか、ブラックを基調にブラウンのカラーやダブルステッチ、メッキや高輝度シルバー塗装の加飾パネルをあしらいました。

　特に、インパネやシートは細部まで仕立てにこだわった上級セダンのようなもので、ブラウンの本革にブラックの本革を重ねるという非常に凝ったつくりになっています。

　インパネはレッドが若干見えますが、これはブラウンとブラックそれぞれの素材をうまく配置し、下地素材が少し見えるように縫製。コンパクトカーとしては非常にファッショナブルです。

　シートは非常に分厚いバケットタイプで、サイドサポートを大きく張り立たせるとともに、大型ヘッドレストも採用。リアも同様で、クラフトマンシップを駆使し、スポーツ走行だけでなく長距離ツーリングでも疲れないような設計になっています。

　パワートレインは上級モデルの「MAZDA3（アクセラの海外名）」や「MAZDA6（同アテンザ）」に搭載の2リッター直列4気筒「MZR」ユニットに6速MTを採用。

　最大出力148馬力・最大トルク135lb-ft.（約183.1Nm）を発揮。コンパクトカークラスとしては余裕のある運動性能を確保しています。

　足回りなどはスポーティ走行だけでなく、高速クルージングや乗り心地も重視され、単にホットモデルとしてのキャラクターだけでなく、ロングドライブを楽しむ大人なモデルという側面も持ち合わせています。

　そんなMXマイクロスポーツですが、発表当初は若者向けプレミアムスポーツコンパクトの新モデルということもあり、大いに期待されましたが、残念ながらそのままの市販化には至りませんでした。

　発表から5ヶ月後の2004年6月、マツダは「ベリーサ」を発売。

　メッキやウッドパネルなどを装備し、ワインレッドやベージュの内装を設定するなど、MXマイクロスポーツからスポーツ成分を取り除き、プレミアムなコンパクトとして展開されました。

　エクステリアデザインの多くは引き継がれるも、2リッターエンジンや6速MTを搭載するスポーツモデルは用意されませんでしたが、こちらは主に若い女性などからの支持を獲得。

　11年もの間ラインナップされ、現在でも根強いファンを持ちます。当初MXマイクロスポーツに期待された、新たな客層を取り入れることができたようです。