ダイハツ不正問題、なぜ起こった? トヨタ豊田会長「抜本的な改革必要」、佐藤社長「ダイハツが世の中に必要か問われる」 認証経験者が解説

なぜ不正に至ったのか? 認証業務に携わった筆者の見解は? トヨタ豊田会長が語った内容は?

 ここからは自動車メーカー勤務時代に認証業務を担当していた筆者としての見解です。そもそも、なぜこんな事が起きてしまったのか。そのひとつが「短期開発」です。

 一般的には自動車開発は通常3-4年は掛かりますが、2012年に登場した「ミラ・イース」は僅か17か月の短期開発が話題となりました。

 トレンドを逃さず、ライバルよりも先に投入を考えると、それはある意味で正論です。しかし、この成功体験を元に更なる短期間開発が求められるようになりましたが、そこで犠牲になったのが認証部門でした。

 認証業務は開発業務に目途が付かないとスタートすることができません。なぜなら、申請のための正しいデータが手に入らないからです。

 開発は「時間が押し押し」→「でも発売時期は決まっている」→「結果として認証部門にしわ寄せ」と言う感じです。

 更に2014年頃からトヨタへのOEM供給(国内向けのみならず海外向けも増加)が増えた事もあり、業務はパンク。そんなカツカツの状況の中で、「型式認定が取れなかったら?」、「不合格だったら?」と言う強烈なプレッシャーがあったのでしょう

 ちなみに型式認証を行なうための試験を大きく分けると、国交省の立ち合い試験と社内試験のふたつに分かれます。社内試験は国交省から信頼されているが故に行なわれており、いわば「性善説」で成り立っていますが、それも悪用してしまったわけです。

 また、試験を行なう環境にも少々問題があったように感じます。ダイハツの技術部門は大阪部池田市の本社にありますが、車両・エンジンの各種性能評価チームは滋賀県竜王町にある滋賀工場の一角に存在します。

 ここには役員が訪れる事はほとんどなく、現場任せ。ある意味「陸の孤島」状態で、担当者は「どこかおかしい?」と思いながらも、目の前の仕事に追い込まれ、やむにやまれず不正行為に及んでしまった可能性があるようです。

 つまり、本来の認証業務はクルマ開発における社内の「最後のフィルター」のような役割を担っていますが、ダイハツはそれが機能するどころか“スカスカ”だったと。

ダイハツ工業の代表取締役社長 奥平総一郎氏
ダイハツ工業の代表取締役社長 奥平総一郎氏

 2023年12月20日の会見でダイハツの奥平総一郎社長は「増加する開発プロジェクトを短期日程で進める中で、経営陣・管理職が現場の負担や辛さを十分に把握せず、困った時に声を上げられない職場環境、風土を放置してきたことにあると考えています」と語りましたが、まさに筆者が思っていた通りでした。

 この会見には親会社のトヨタから中嶋裕樹副社長も同席。「弊社は2013年以降、OEM供給車を増やしています。これらの開発がダイハツの負担となっていた可能性がある事、そしてダイハツにおけるこのような認証業務の状況を把握できていなかった事について深く反省をしております」と語っています。

 新聞・経済紙はこの言葉から、「トヨタにも責任がある」、「親会社であるトヨタのプレッシャー」などと伝えていますが、筆者はこのように分析しています。

 トヨタはダイハツの小型車づくりのノウハウ・経験を高く評価して開発委託をしていますが、その評価が逆にダイハツの「コンパクト系モビリティカンパニー」としてのプライドを引き上げてしまい、結果として無理難題に対して「無理」と言えない企業体質を作ってしまった事に対して、中嶋副社長は“反省”と言ったと思っています。

 更に言うと、トヨタ向けのOEMモデルもダイハツが認証業務を担っており、「そこをトヨタは追いかけられるか?」と聞かれると、それも含めて委託しているので不可能でしょう。
 
 会見ではとある新聞社から「なぜ、豊田会長や佐藤社長が出てこないのか?」と言う質問が出ていましたが、本来はダイハツのみでやるべき会見にサポート役として技術トップである中嶋副社長が同席。

 筆者は残念ながらダイハツだけではあの状況で上手く説明できるとは思えなかったので、「トヨタの中で最も適正な人が参加してくれた」と考えています。

タイでのレース参戦会見に登場したモリゾウ選手(豊田章男会長)
タイでのレース参戦会見に登場したモリゾウ選手(豊田章男会長)

 実はタイで豊田会長にこの件について話を聞く機会があり、質問をするとこのように答えてくれました。

「まずはダイハツ車に乗るユーザー、納車を待つユーザー、事態を知らされていなかった販売店スタッフやダイハツ従業員に迷惑をおかけして本当に申し訳なく思います。

 本当はもっと早く公表したほうが良かったのですが、トヨタがダイハツの中に入って膿を出し切る覚悟で調査を行なったことで時間が掛かってしまいました。

 原因は色々ありますが、ダイハツは異常があってもアンドン(生産ラインで異常時にアンドンを引っ張るとラインが止まるシステム)を引けなかった。

 特に開発/認証チームはそんな環境だったと想像しています。私が社長になりアメリカでのリコール問題をキッカケにクルマづくりの考えを改めました。

 優先順位は1.安全2.品質3.量4.原価。安全/品質を最重要視することは自動車会社としては当たり前ですが、それを徹底するには経営陣が従業員としっかり向き合わなければダメですが、ダイハツはそれができていなかった。

 今後は別の会社を作るくらいの気持ちで抜本的な改革が必要だと思っています」

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5件のコメント

  1. 30年前って、、バブル期だろ?イケイケの頃だったなぁ、確かに新車の発売予定日から逆算すりゃあ
    推してるなら皺寄せだわなぁ。だけどバブル期はどうだったのかなぁ?oemが増えた事による弊害は
    あるだろうが、上の人間が現場を知らなさすぎる。
    ダイハツにしろ豊田自動織機にしろ、トヨタ系の中間管理職は特にな。豊田自動織機なんか、社内で認識とは、、とか教育始めちゃったし。誰が犯人かうやむやにしてな。犯人を出してからにしろや。
    日本の物作り神話?も終わりだな。デンソーの燃料ポンプも死人でたしな。

  2. 日本には自動車メーカーが過剰だから、ダイハツはこれを機会になくなるといいと思います。
    こんな不正を起こした会社が再生すると、悪いことをやっても許されるということになり、会社の自浄作用が働くなって、結局は弱い資本主義国家になると思います。実際そういうことを繰り返した結果、韓国よりも労働生産性が低いという結果になりました。
    ダイハツが清算されることが、日本社会にとって良い結果を生むと思います。

  3. 他誌はやれトヨタの経営責任だとか、豐田綱領持ち出したり、本質ついていない批判記事が多い中、山本さんは自動車メ-カにお勤めした経験がおありだそうで、判りやすい説明で納得。確かに不正は不正ですが、号口生産までは正規の部品が間に合ったと思います。他社に比べダイハツ車だけ頻発に重大事故発生があればすぐに表に出ます。他社のセ-ルスマンとよく話をしますけど、そんな話は聞いたことがありません

  4. ダイハツとか潰れても良い。

    他の会社で十分カバー出来るレベル。

    大した技術も無いので外資へ売却すれば良い。

  5. いろいろ意見をみていると、ダイハツがなくなることを望む国民が多い感じがするね。
    単純な倒産はないだろうけど、ダイハツの名前がなくなるほどの変化があるといいね

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