トヨタの“新型スポーツカー”「FT-Se」登場! なぜ“ド迫力ボディ”実現した? デザインに組み込まれた意図とは

まだまだある!デザインのこだわりポイント

Q:電気になったことで内燃機関では出来なかったデザインとはどういうところでしょう。

飯田氏:内燃機関の場合は、その象徴であるパワーを強調するためにロングフード、ショートデッキでスポーツカーの持っている性能を表現していましたが、このモデルはエンジンがなくてモーターですから、そのモーターをいかに強調して、お客様にパッと見た時に感じてもらうか、そこが一番大きな違いです。

Q:そうするといままでの場合では前にエンジンがありましたから、どうしてもキャビンスペースが後ろに行きがちになりますよね。そのキャビンを前に移動させつつ、かつスポーツカーとして見せているということでしょうか。

飯田氏:まず人がホイールベースの中心にいるというのは非常に大事です。キャビンスペースを前に出したかったというのは、そういう意匠的という意味よりも、性能面として、前後重量配分のバランスをいかにとるかというところでした。

 もちろんデザイン的には難しいですよね。パッと見てFFのクルマとそう変わらないプロポーションになってしまっては意味がない。

 ですので、カウルを低くしてベルトラインも低くすることで、フェンダーがバーッと強調して見えるということが一番差別化できるかなと思ってデザインしました。

 ただし、サイドビューでいうとそうなんですが、結局クルマはサイドビューで見ることは少なくて、抜き去っていった時とかは当然フェンダーとかが見えてくる。

 そこでこのモデルは2人乗りなのですが、キャビンの後ろ側を絞ることで、そのぶんフェンダーが張り出して見せるという、普通のセダンやMPVでは絶対に実現できないことをやっています。このキャビンのコンパクトさと、上から見たときのキャビンの絞り方が、今までのものよりもさらに大切に作っています。

 結果としてこの強大なグリップを生むタイヤを包み込むフェンダーというのが生まれてきているんです。

Q:そういえばリアフェンダーに隠しコマンドがあるそうですね。

 飯田氏:バッテリーとモーターが熱くなったら冷やすために、インテークがセンシングして開くことを想定して仕込んでいます。

Q:いまご説明いただいたリアフェンダー周りは本当に特徴的ですね。

 飯田氏:古典的なスポーツカーは、曲面や大らかな面でできていることが多いんです。しかしこのモデルは新世代のBEVなので、そういう古典的な要素はあまり入れたくありませんでした。

 とはいえ、パワーは示したいので、そのパワーを感じる立体とは何かと考えていったんですね。

 そうするとやはり折り紙みたいなパキッとした面よりは、古典的な大らかな面の方が人間はパワーを感じるものです。

 ではそれをどうやって新しいテイストと混ぜるかについては悩みました。

 そこでリアフェンダー手前から曲面を盛り上げていって、それを延長していくと非常に大きな立体になるんですが、そこの上面部分でスパッと切ってあげたような造形にすることで、パワーを感じさせながら、パッと見は非常にフレッシュで新しい印象のスポーツカーと印象づけられたかなと思っています。

Q:そうして思いきりホイールを四隅に張り出させたんですね。

飯田氏:はい、バッテリーサイズがありますので、結果的にロングホイールベース、ショートオーバーハングになっていきました。無駄に大きなクルマは作りたくないですし、2座のスポーツカーなので、できるだけコンパクトに作りながら、電池分だけタイヤがググっと前後にも出たということです。

インテリアもめちゃカッコイイ…(画像:中野英幸・内田千鶴子)
インテリアもめちゃカッコイイ…(画像:中野英幸・内田千鶴子)

インテリアは見晴らし重視

Q:インテリアについても教えてください。

飯田氏:やはり新しいBEVとして、パッと見た時の雰囲気は非常に大事なので、それは当然やっているんですが、一番はサーキットやスポーツ走行する時に見晴らしがいいことを重視しました。

 エンジンがないことによって生まれる良好な視界がありますが、このモデルは最たるもので、非常にスッキリとしたベルトラインからカウルまで、本当に視界が良いことが挙げられます。そしてスポーツ走行時には横Gがありますので、それをサポートするためのニーパッドを設けました。

 そこに新規性のあるデザインを採用しています。全体としていかに上側をスッキリとさせて、下側をホールドするかというテーマがこのインテリアです。

 またカーボンニュートラルの時代なので、素材にも気を配りました。

 例えばニーパッドはモノマテリアルです。内装はレイヤーを重ねたような表皮が多いのですが、実はすごくリサイクルしにくいんですね。そこでモノマテリアルにしてリサイクル性を高めたインテリアを目指しました。

Q:それをステアリングの下のところとかドアのあたりに設けていると。

飯田氏:そうですね。グリップ性もあるので足が当たっても柔らかいです。いかにスポーツ走行に特化したものかというのは座るとわかっていただけると思います。

※ ※ ※

 お話を伺いながら感じたことは、FT-Seは単にBEVのスポーツカーを作ったらこうなるということだけではなく、次世代スポーツカーとして生きていくための苦悩でした。

 多くのスポーツカーが持っている古典的な美しさを次世代につなげつつ、同時に、新世代のBEVだからこそ出来るデザインをどうスポーツカーとして感じさせるかです。それを見事に両立させたのがこのFT-Seなのです。

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