日本イチ美しい「標識」が世田谷区にあった? まるで伝説の「三つ叉の矛」 どんなモノなのか
以前まで東京都世田谷区には日本イチ美しいとも言える「指定方向外進行禁止」が存在しました。どのようなものなのでしょうか。
実に美しい標識があった交差点とは
最も基本的な道路標識のひとつである「指定方向外進行禁止」の標識は、道路の構造によってデザインが変わるという特徴があります。
なかでも、東京都世田谷区にあった標識は実に美しいデザインでした。
「指定方向外進行禁止」は、特に都市部ではいたるところで見ることのできる道路標識です。
「一方通行」や「進行方向別通行区分」の標識と似ていることから運転免許の学科試験にもしばしば登場するこの標識。
おもに交差点の直前などに設置され、その名のとおり、矢印で指定された方向以外へ進むことを禁止するためのものです。
ほとんどの標識は、設置される場所によって標識のデザインが変化することはありません。
しかし、指定方向外進行禁止に関しては、交差する道路の数などによって、そのデザインが大きく変化するという特徴があります。
そのため、指定方向外進行禁止の標識には、進行方向に向けた1本の矢印で表されるシンプルなものから、複数の矢印が組み合わさった複雑なものまで千差万別です。
そのなかでも、東京都世田谷区にあった指定方向外進行禁止の標識は、全国的にもめずらしいデザインであることから一部のマニアの間で話題となっていたようです。
その標識が設置されていたのは「桜上水交番前」の交差点です。
京王線桜上水駅から都道428号線を600mほど南に進んだ場所にあるこの交差点は住宅街の中に位置しており、周囲に目立った施設などがあるわけではありません。
交差点の構造としては、荒玉水道を含む3つの直線道路にひとつの支線が組み合わさった変則的な七叉路となっています。
また、そのうちのひとつは交差点側からの侵入が禁止されています。
珍しいデザインの指定方向外進行禁止の標識は、都道428号線の南側に見ることができました。
この標識は、それぞれ10時、12時、14時方向へ向けた矢印が美しい線対称で組み合わされており、まるでマセラティのエンブレムのモチーフとなっている「トライデント」と呼ばれる三叉の銛のようです。
また、この標識の少し先には「トライデント」をそのまま右に45度回転させたような標識も見ることができました。
複数の道路が交わる「多叉路」の交差点は全国に数多くありますが、これほどまでに美しい構造の標識が複数ある場所は極めて珍しかったと言えそうです。
なお2023年8月現在では、「トライデント」のようなデザインでは無くなっていますが、その理由について警視庁成城警察署交通課は「2023年1月ごろに、近隣の住民から要望があり標識を変更しています。交通規制内容は変わっていませんが、『変わった矢印の形が分かりづらい』などと声が寄せられ、シンプルで分かりやすい標識に変更しました」と説明しています。
なにかのマークみたい! なぜこのように美しい標識ができたの?
では、なぜこのように美しい標識ができたのでしょうか。
そこには、この交差点を走る都道428号線にヒントがありそうです。
都道428号線は、地元の人々からは「荒玉水道道路」と呼ばれ、杉並区梅里と世田谷区喜多見の約9kmをほぼ一直線につないでいます。
この道路が一直線である最大の理由は、その地下に「荒玉水道」という水道管が埋設されているためです。
1934年に竣工した当時は歩行者専用道路であった荒玉水道道路ですが、その後1962年にクルマの通行が可能となりました。
しかし、埋設されている水道管を保護するために、現在でも通行する車両の重量および車幅制限が一部に設けられているなど、数ある都道のなかでもやや特殊な位置付けとなっています。
通常、交差点を設置する際は事故防止や交通の円滑化の観点などから、複数の道路をできるだけシンプルに組み合わせることが求められます。
しかし、この桜上水交番前の交差点については、荒玉水道道路(都道428号線)が地下に水道管が埋設されていることから交差点の位置を調整することが難しく、結果として現在のような複雑な形状となったものと考えられます。
ただ、交差点には信号と交番も設置されているうえ、ほとんどのドライバーは注意深く進行することから、決して「事故の多い危険な交差点」というわけではないようです。
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七叉路を超える交差点は、全国的に見てもほとんどありません。
2023年7月現在、日本で最も交差する道路の多い交差点は、東京都江戸川区の「菅原橋交差点」の11叉路とされています。
ただ、菅原橋交差点はその構造上、桜上水交番前交差点ほど美しい指定方向外進行禁止の標識は見られないようです。